残念なイケメンっているらしい

とあるネット掲示板にて。


『おい、あのTwitterの初期アイコンのアカウントが本物だったじゃねぇか!』


『は?冗談よせよ』


『【なっちゃお】の2話の後書き見たか?』


『もう出てたのか?いま見てくるわ』


『マジじゃん、俺さっき見てきたけど、リンク先があのアカウントだったわ』


『本当だ。これは拡散だな』


『もう、拡散されてるわwww』


『うお、トレンド入りしてる』


『これは、ネットニュース確定だなっwwww」


『しかし、なんで初期アイコンのままなんだ』


『俺らみたいな一般人には天才の考えなんてわかるわけないだろ』


『それもそうだな』


ーーーーーーーーーーーーーーー

「よし、準備万端だ」


今日は、出版社に行く予定だ。


しっかり眠れたおかげか、目覚めはいい。


Twitterの通知欄がすごいことになっていたのが、すごく怖かったけど。


「まぁ、アンチコメントってやつだよね。放っておこう」


耐性はできてるかもしれないけど、こうやってコメントを見てると、少なからず心に来るし。


「別に制服じゃなくてもいいよね」


いつものように、パーカーとジーパン姿。


「よし、9時前だしそろそろ行こう」


買い物や学校の予定以外で初めて外に出たかもしれない。


「うわ、朝だけど蒸し暑い…。天雷くんはこんな暑さの中わざわざ家まで来てくれたのか」


天雷くんに感謝しつつ、近くの駅から出版社近くの駅まで電車で移動する。


幸い3駅分ぐらいだから、気持ち的にはすぐに着いた感じだった。

しっかり、電車の中でも小説を書いていく。


これが有効的な時間の使い方だし。


それに、電車の中が寒い。


「安定の冷房の効きすぎだよ」


寒さを紛らわすため、創作に集中する。


『次は〇〇駅。〇〇駅』


この駅だ。


電車を降りると、すぐ近くに出版社がある。


「ここだ。すごくでかいなぁ」


マップを頼りについた場所は、でかいビルが立ち並ぶところだった。


大手って、伊達じゃないんだな。


「いざ、目の前にくると、緊張するな」


「むっ、どうした少年」


立ち止まっていた僕に声がかかる。


振り向くと、青年が立っていた。


中性的な顔立ちに、茶髪の綺麗な髪。

そして、スーツ姿…なぜ?


「どうした私の顔を見て。私の顔に何かついているか?」


「いえ、容姿にとても驚いてしまって」


「決まってるだろ?今日は撮影の日でもあったからね」


「撮影?モデルの人ですか?」


「うむっ?まさか少年、この私を知らないのか??」


驚いた顔をするイケメンは、懐から雑誌のようなものを取り出した。


スーツに雑誌って入るんだ…。


どうやら、ファッション誌のようだった。

しかも表紙は、目の前のイケメンとそっくりだ。


「私はモデル兼ラノベ作家の【天上院てんじょういん政宗まさむねという!」


天上院政宗、、、?


ああ!


「もしかして、『現変げんへん』の作者様ですか」


「やっと気づいたか少年!そうだ。私が作者の天上院政宗だ!」


気づいたことに嬉しそうな顔を見せるイケメン…天上院先生。


『現変』は、『現実世界が変貌していた』というタイトルの略で、ゲームの世界に囚われていた主人公が、ゲームをクリアして現実に戻ると、現実でもゲームのようなモンスターが現れるといった話で、熱烈なファンも多い作品だ。


主人公はかっこいいし、出てくるヒロインも可愛いから、男性にも女性にも人気の作品だ。


「私のことはさておき、君もここに用があったんだろ?」


「そうです。緊張していて立ち止まっていたんです」


「ということは小説の持ち込みに来たのか。懐かしい。私も自分の作品を持ち込む時にはとても緊張していたよ」


天上院先生は自分で小説を持ち込んだんだ。


「ならば、私と一緒に入ろうか。編集部まで案内するよ」


「本当ですか!ありがとうございます」


「いやいや、いずれライバルとなるんだ。少しは先輩風を吹かせたくてね」


すこし危ない人かと思ったけど、すごく優しい人でよかった。


後でサインもらおう。


天上院先生に案内され、編集部まで向かう。

雑談を交えながら話し込む。


「桜井くんと言ったか。わざわざ遠いところからご苦労だったね」


「いえいえ。気持ち的には結構すぐでしたよ」


「そうか。私は電車の中が苦手だから羨ましいよ」


「そうなんですか?」


「冷房がね…」


「それはわかります」


なんてことを話す。


「君は見たところ軽装だが、小説の持ち込みではなかったのかい?」


僕の格好に疑問を持った天上院先生が質問してきた。


「えっと、書籍化の提案があったので説明を受けに来たんです」


「ほぅ!それはすごい。つまりネット小説からということだね」


「そうなります。でも珍しいものですか?」


「もちろんさ。何万とある小説の中から、君の作品が選ばれるということはむしろ誇りに思ってもいい」


「そうなんですね」


「おっと、もうすぐ編集部だ。参考までに桜井くんのペンネームを教えてくれないか?」


「あ、はい。案内ありがとうございました。【なっちゃお】で【ハル】という名前で小説を投稿してます」


「そうか。【ハル】か…はぁぁぁぁぁ!??」


「どうしました?」


「か、確認するが、作品は『ミッション』かい?」


「うわぁ、見ていただけてるんですね!嬉しいです」


バタンッと天上院先生は倒れた。


「せんせいぃい!?」


ーーーーーーーーー

「こほん、取り乱してすまないね」


天上院先生は落ち着いたのか、近くのソファに座る。


「いえ、驚きましたよ」


「私の方が驚いたよ。新人と思っていたが、まさか怪物に出会えるなんてね」


「怪物だなんて…」


「ま、まぁ私とは後で話そう。まずは編集さんと話をしてきたほうがいい」


「それもそうですね。ではありがとうございました」


お辞儀して、僕は編集部の中に入る。


「あー、きみきみ。だめだよここに入っちゃ」


「え?」


「見たところ高校生だよね。持ち込み?」


「いや、持ち込みじゃなくて…」


「小説の持ち込みはここはやってないんだよ。悪いけど今日は帰ってくれないかな」


だめだ。話を聞いてくれない


「すまないが、さすがに態度がなっていないんじゃないのか?」


「これはこれは、天上院先生!どうかなされたんですか?」


編集の人に見かねた天上院先生が来てくれた。


「この方は持ち込みではなく、書籍化の件で来たんだぞ」


「はっ?高校生ですよ?」


「確かに若く見えるが理由も聞かずに追い返す必要はあるのかい?ちなみにこの方は私のライバルになる【ハル】先生だよ?」


「なぁっ!【ハル】先生!?」


「ああ。ただでさえネット上で大人気の【ハル】先生だ。当然、書籍化された本は大ヒット間違いないだろう。しかし君は偉大な作家の機嫌を損ねたんだぞ?これがどういうことか…分かるよな?」


「ひぃ、、申し訳ございませんでした。【ハル】先生!!」


「次からは気をつけてもらえれば…土下座はやめてください」


「いえ。私は大変失礼なことをしました。土下座だけではすまされません!!」


「もういいですので!担当の方を紹介してください!!」


編集さんの土下座に恐怖した僕は、そう叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る