親友の襲来

とあるネット掲示板にて。

『また出たよ、【ハル】ってアカウントwww』


『またかよwwwもう何個目だよ。どうせこれも偽物だろ?』


『でもこれ、リンク先は小説に飛ぶぞ?』


『んなもん、誰でもウェブからリンクコピーすればできるぞ』


『見ろよこれ、初期アイコンじゃねぇか。バチバチの偽もんだわwww』


『もしこれが本物だったらどうするよ?』


『はっ、まだフォロワーも2桁じゃねえか。本物なわけないないwww』


ーーーーーーーーーーーーーーーー

「ゲームしよ……」


昼食を食べ終えた僕は、リビングのゲーム機を手に取った。


テレビはリビングにしかない。


あまり番組を見ることはないけど、ゲーム用に使っている。


「Switchでもしよう」


某RPGの続きをしていく。

ちなみに僕は、5派だ。


「よし、よし、これで……勝った!!」


かれこれ2時間ほどプレイしていた。



「まだ3時過ぎかぁ。ボカロは今日は作る気ないし」


なんて考えていると、家の電話が鳴った。


「もしもし?」


『おーっす。俺俺』


「すみません、僕に息子はいないですよ?」


『自慢な息子が下に付いてるだろ?』


「あ、これ自動で録音されるんだけど」


『マジですみませんでしたあ!』


「それで。どうしたの天雷てんらいくん?」


『暇なら一緒に遊ばないか?』


「OK。どこに行けばいい「ピンポーン!!」」


電話中に、玄関のチャイムが鳴った。


「ちわーす。俺でーす」


「天雷くん。そろそろいきなり来るの止めない??」


玄関先にいたのは天雷くんだった。

いつもこんな調子だから流石に慣れた。


『ばっか、晴人だったら許されるってわかってるからやってるんだよ。とりあえず暑いから開けてくれ』


「了解」


電話を切ると、玄関に向かう。


扉を開けると、汗だくになった爽やかイケメンがいた。


「俺でーす」


「どうぞおかえりください」


「最近、酷いよなお前!?」


驚いた顔をしたイケメンは、閉めようとした扉の取っ手を掴む。


「どうぞ」


「おーっす。おじゃまします」


「汗臭!?」


「仕方ねえだろ。猛暑だぞ。この暑さは流石に参るわ」


このイケメンは、僕の親友のかがり天雷くん。180cmの長身で、鍛えられた筋肉が目立つ自称爽やかイケメンだ。

実際に、イケメンでモテてるのが羨ましい。


小学校時代から一緒のクラスだ。


「しっかし、20分歩いただけでこれかと思うとほんとにダルいわ」


「はい麦茶」


「サンキュー!おお、染み渡るぅ!」


豪快にごくごくと飲むのも、イケメン補正がかかっててなんか腹が立つ。


「柊さんとはどうなった?」


麦茶を飲み終わった天雷くんは、唐突に僕の傷を抉ってきた。


「振られた」


「ん?」


「振られた」


「おいちょっとまて。確認してもいいか、告られたのはお前だろ?」


「うん。それで『やっぱり好きじゃない』ってメールが来た」


「うっは☆!ざまぁwwww」


「ふんっ!」


「ぐへぇ!?」


「覚悟は出来ているか?」


「キャラ変わってるし、既に腹に1発入ってるんだが!?」


「その傷を抉ってくるのやめてよ。結構傷ついているんだよ」


「まぁまぁ。仲間同士仲良くしようぜ」


「天雷くんとは訳が違うよ。天雷くんは自分から告白してたじゃないか」


そう、天雷くんは高校に入学して1週間経たないうちに、柊さんに告白していた。


結果は玉砕。


「いや」


という2文字で振られていた。


天雷くんはイケメンだけど、残念なイケメンだ。

顔は良いのに、女好きで自分から何人も告白している。


しかも理由が「可愛い」とか「一目惚れ」。


「柊さんのことなんて俺はとっくに諦めてる。今は大人しくしてるさ」


「気の変わりようがすごいよ。そんなに直ぐに忘れるもんなの?」


「んなわけねえだろ。いつも言ってるだろ。趣味に打ち込むか、ほかの女子を探すかだ。実際に晴人は趣味に打ち込んでるんだろ?」


「よくわかったね」


「だってお前が誰かに告るなんてしないだろ」


「ひどい!」


まあ、本当のことなんだけど!?


「……やっぱりそうだったんだな」


「知ってたの?」


「ああ。柊さんのことは色々聞いてたんだよ。顔が良いことを武器に、男漁りしてるんだとよ。実際に三上先輩と一緒にいるのをさっき見たし」


「三上先輩と付き合ったんだってさ。先輩の方から告白したみたいだよ」


「じゃあ晴人は分が悪いな」


「うん。でも普通告白してきた人が『やっぱり無理』とか言うかな?」


「それは珍しいな。しかし柊さんも馬鹿だなあ」


「どうして?」


「お前、髪をしっかり整えたら結構イケメンだぞ?いつも前髪下ろして、パーカーとジーパンだからダサいんだよ」


「だって外でないもん」


「まぁ、俺は無理強いはしないから晴人の都合がいい時に遊ぼうぜ」


「ありがとう」


「てかお前、ずっとLIME送ってたんだぞ?」


「あぁ、スマホは部屋に置いてたんだ」


「だからか!ずっと連絡来ないから仕方なく家にかけたんたぞ」


「ごめんごめん。Vしてたら忘れてたよ」


「くっそ、ゲームしてたのかよ。じゃあアニメ観るぞ!アニメ!」


バッグの中からケーブルを取り出すと、テレビに繋げた。


天雷くんは重度のオタクだ。

僕がボカロにハマったのも、小説にハマったのも、多分天雷くんの影響が強いからかもしれない。


「なあ、【ハル】って作家知ってる?」


アニメを見ながら、天雷くんは言ってきた。

ドキンっとしたが、顔には出さず、「いや?」と答える。


「知らねえなら教えとくよ。前に柊さんから教えて貰ったんだけど、ネットの小説投稿サイトで有名な作家なんだよ。めちゃくちゃ神作品を作った人なんだけど」


僕なんだけど……。


「凄いのは書籍化もされてないのに、2年間も不動の1位なんだよ。すごくねえか?」


僕なんだけど……。


「しかも、昨日久しぶりに新しい小説を投稿したんだけど、最速で日間1位になってるんだぞ」


僕なんだけど……。


「な、やべえだろ!」


「へ、へぇ、すごいね」


「だろだろ!お前のlimeにリンク送ったから、絶対見ろよ」


「わ、分かった」


圧が凄いな。

でも、柊さんも僕の作品を知ってるんだ。

それはなんか嬉しかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「おっと、そろそろ俺も家に帰らないとな。また遊ぼうぜ」


「うん。楽しかったよ」


19時くらいまで一緒にアニメを見ていたら、天雷くんは玄関に向かった。


「じゃあな晴人。少しは元気出たか?」


「うん。ありがとう」


「おう!」


天雷くんは帰って行った。


やっぱり、僕が落ち込んでいるのを慰めに来たんだ。

こういうところをもっと出していけば、天雷くんも【残念イケメン】なんて言われないと思う。


「よし、ご飯食べよ」


夕食を作ってしっかり食べて、ゆったりとお風呂に浸かり、ベッドに横になると、そのまま眠った。



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