第2話 美男テロ


「この国の文化なのか、すまなかった」


セーフ!

助かった。

怒ってないみたい。


今のはあれです。

条件反射というか。

まあそんな感じです。


とりあえず電気を消して、横になる。




……




……




…………って、眠れねぇぇーっ!

韓流アイドルよりかっこいいって、ホント存在が異世界ですから!


すこし離れたところでスヤスヤと寝息を立てて寝てるよ。

いや、寝息までカッコいい。


いろいろと考える。

明日、どうするのか。

なぜ、こうなったのか。

そもそも本当にセルジュさまなのか……。


いろいろと考えているつもり。

なぜならこんなシチュなんて、一生に1回しかないから。

そう私は考えている……はず。










「はっ!」

「おはよう」


目が覚めたら朝だった。

セルジュさまがいつの間にか目玉焼きを作ってくれていた。

昨日、冷蔵庫とコンロのことを聞かれたので答えただけなんだが。

新しい環境への適応力がハンパねぇーっ。


「おっおいしい……」

「それはよかった」


ずきゅーん、と私の胸を狙撃してくる。

その笑顔はやばい。

テレビでその笑顔を振りまいた日にゃ、卒倒する女性が多発すっぞ?

飯テロならぬ美男テロ。


朝ごはんを食べたあと、着替えてふたりでお出かけ。

向かった先は、田舎の街の救世主パオン。


電車やバスといった交通の便が不自由な田舎にはなくてはならない存在。

バスの中でもちょっとしたハプニングがあったのだが……。


「なにあれ、ハリウッドスター?」

「オーラが見える」

「うわぁ、あんなん見たら旦那が毛虫にしかみえなくなる」


ほらね。

騒然としてるよ。

でも無理もない。

こんな田舎街に、とつぜん黒船が襲来したようなものだもの。

袖と裾がめっちゃ足りてないけどファッションだと思われてるね。

これはあれだ。

イケメンとブサイクが同じ服を着た時の反応に似ている。

どんな服を着ようがイケメンが勝つ。


「いらっしゃいませ、本日はどのよ……ぐふぅっ」


アパレル女性店員が接客しようとして、顔面オーラにやられた。


いくつか店を回って、クリアランスセールの品々を買い漁る。

数さえあればいい。

正直、なにを着ても絵になる美男子。

衣服など彼にとってはしょせんただの添え物にすぎない。


「あっ、このひとだ!?」

「ほんとだすごーい!」


女子高生くらいの小娘2人がセルジュさまを遠巻きにスマホを向けた。


「ちょっと、アナタたち何をしてるの!?」


ホントは「何してくれてんのじゃこのボケカスがぁぁっ!」と怒鳴りたい。

だが、ここは世間体を気にして、大人な対応をみせる。


「ごめんなさい、SNSで上がってて」

「え……ちょっとそれ見せて!」


Oh!

こいつはアカン。

セルジュさまの画像や動画がSNSにアップされて反響を呼んでいる。

海外のスターや芸能人説。

とにかく普通じゃないと書き込みが増えていっている。


「セルジュさま、ここは危険です」

「うん? わかった。任せよう」


すぐに買い物を終わらせ、バスに乗る。

するとあきらかに後をつけている連中が何組かいる。


そこで、自宅の最寄りいくつか手前で降りた。

連中も降りたが、電話で予約しておいたタクシーに乗って追手をまいた。


ふう、とんでもないなセルジュさま。

芸能人でもないのにはやくも追っかけが現れるなんて……。


家に帰って、カーテンを閉める。

自宅が特定されたら、突撃されるぞきっと。


それにしても数時間外出しただけでこれとは恐れ入った。


「この世界の文字を覚えるにはどうしたらいい?」


セルジュさまはなぜか日本語は話せるが、日本語や英語を読めない。

小学低学年の教材を本屋で買ってくればよかったか。


「とりあえず、これで雰囲気だけでも覚えたらどうですか?」


出先用に持っているタブレット型端末を渡す。

それで小説投稿サイトやSNSなどの開き方をおしえた。


あとは文字を自動読み上げする機能でなんと書いてあるかがわかる。

そうはいっても、ステップを踏んだ学習じゃないので無理がある。


しかし、セルジュさまはやはり凄かった。

たった数日でひらがなと数字、一部の漢字や英語を単語単位で覚えてしまった。


「それはなにをしている?」


セルジュさまが家にきてから家事が楽になった。

掃除、洗濯、料理などなんでもやってくれる。

なんなら料理はキュッキュパッドをみて私よりうまくなったかもしれん。


すごい刺激を受けて、ようやく重くなった筆を執るようになった。


私、南海祭みなみまつりは大学生の頃に書いたきまぐれで書いた小説が受賞した。

とんとん拍子に書籍化され、ベストセラーを叩きだしてしまった。

それがそもそもの過ち・・・・・・・だった。

勝手に自分に才能があると勘違いしてしまった。


なぜ自分の物語が多くの人が読んでくれたのかわからなかった。

亡くなった祖母との思い出を綴ったほぼノンフィクションのドキュメンタリー作品。

自分にとって、大切な思い出の日記のようなもの。

今、思えばそれがリアルだったから読者に刺さったと知っている。

だから取り返しがつかない。

祖母との思い出はたくさんある訳ではない。

そのため、フィクション気味に書いた続編は見向きもされなかった。

あせって違う物語も書いてみたが、結果はさっぱりだった。


「物語を作ってる、のかな?」

「それは伝記とか英雄譚のようなもの?」


あたらしい世界の創造。

魅力のある人物の生成。

個性あるストーリーの枠組み。


小説家として、当たり前なことだが、それは誰でも書けるわけではない。


薄っぺらい世界。

どこかの作品からコピーしてきたようなキャラ。

ありきたりなストーリー。


玉石混淆なんてことばがある。

宝石とただの石が混ざっているっていう意味。

宝石と石が混じっていると、なかなか見分けがつかない。

小説の世界も一緒だ。

ちなみに今の私はただの石。


世界が練り切れてない。

キャラの個性が薄味。

ストーリーに現実味がない。


だから磨いてキラキラと光る宝石になりたい。

いろいろとあがき続けて、小説投稿サイトに刺激をもとめた。

そこで出会ったのが「辺境領主のご落胤」。


頭を鈍器で殴られたような衝撃をうけた。


実在するかと錯覚してしまう世界観。

圧倒的な存在感のあるキャラ。

予想をはるかに裏切る展開。


その物語から憧れの主人公が飛び出してきた。

私の目の前にはまぎれもない本の中のひとがいる。


だから、私はセルジュさまにこう返事をした。



「いいえ、自分だけの物語げんじつを作ってるんです」







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