第7話

 ショウたちの闇バイト騒動は一応の決着を見た。

 カナの友人は借金トラブルから抜け出せそうだし、そこは何より。

 夜遅く、カナからお礼がしたいと言われ、俺は彼女の部屋へ足を運ぶことになった。


「一人暮らしって言っても、そんな広くないから、ゆっくりしてってほどじゃないけど……」


 部屋に入った瞬間、カナの恥じらい混じりの表情が目に飛び込む。

 小綺麗に片付いた部屋だが、俺を招き入れるのは初めてらしい。


「いや、全然狭いとか思わないっスよ。逆に落ち着きそうだし……カナが普段生活してる姿が想像できて、なんかいい」


「そ、そう? ま、コーヒーでも入れるから、適当に座ってて」


 彼女はぎこちない手つきでコーヒーを準備する。

 それを眺めていると、妙に胸が高鳴るのはなぜだろう。

 闇バイトの話が片付いた安堵感か、それともカナの顔を近くで見られる緊張感か。


 ふと目が合うと、カナは俺に微笑みかける。

 これまで見せたことのない柔らかな笑みだった。


「……ケンジ、改めて言わせて。ありがとう。ほんとに助かった」


「いや、俺は何もしてないよ。カナの度胸があったからこそ……」


 言葉を続けようとした矢先、彼女はコーヒーカップを置いて、そっと俺に近づいてくる。


「ううん、あなたがいてくれたから、私……頑張れたの」


 その瞳には感謝と、そして何か強い感情が宿っている。

 呼吸が乱れそうになるほど、彼女の気配が近い。


「ねえ、ケンジ……私、あなたのことが……」


 震える声で、その先の言葉を紡ごうとしているカナを見て、俺はもう我慢できなかった。

 彼女を抱き寄せ、唇を重ねる。

 最初はゆっくりと確かめるように、だが次第に衝動が増していく。


 カナの唇は震えつつも、俺を受け入れようとしているのが伝わる。

 お互いの体温が一気に上昇し、呼吸が苦しくなるほど深く求め合う。

 この瞬間、理屈なんかじゃなく、俺たちはお互いを必要としていることを理解した。


 ベッドの端に腰掛けると、カナも誘われるように俺の膝の上に座る。

 肌と肌が触れ合うたび、全身に電流のような刺激が走る。


 カナの吐息が耳元をかすめて、甘い香りが俺の意識をさらに乱す。

 服の布地越しに感じる彼女の体のラインが、恥ずかしいほどはっきり伝わってくる。


「……こんな、激しいの、初めて……」


 カナは少し上ずった声でそう言い、俺の首に両腕を回す。

 俺も同じく、こんな風に一夜を分かち合おうとするのは初めてだ。

 でも、その戸惑いすら愛おしいと思える。


「カナ……お前を守りたい。ずっとそばにいたい」


「私も……ケンジがそばにいてくれないと……」


 言葉にならない感情が、お互いを激しく結びつける。

 しばらく目を閉じると、体中の感覚が研ぎ澄まされる気がした。

 彼女の髪の香り、汗ばんだ肌の湿り気、鼓動の早さ――すべてが愛おしい。


 お互いに大人同士、合意のうえでの行為。

 まるで激しい嵐のような一夜を分かち合い、俺たちは限界ギリギリまで求め合ってしまう。

 朝日が差し込むまで、カナの吐息と俺の心臓の音は部屋に絶えず響いていた。


 夜が明ける頃、ベッドの上でカナを抱き寄せながら、俺はそっと囁く。


「俺はお前のこと、本気で好きだよ。……これからも、こうして支え合っていこう」


 カナは目を潤ませながら、小さく頷く。

 これが俺たちの本格的な始まり――そう確信した。

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