第5話
カナの友人が巻き込まれている闇バイト――その黒幕的存在が、蓮見ショウと呼ばれる男だと聞いた。
金髪に派手なピアス、見るからにヤンチャな雰囲気を漂わせているらしい。
早速、キャンパスの片隅でショウと接触した俺は、予想通りの不穏な空気を感じる。
「へえ、お前が桜庭ケンジ? カナちゃんが言ってた“頼れる奴”ってのは、お前か」
ショウは冷笑を浮かべながら、チラリと俺を見やる。
「お前こそ蓮見ショウだよな? カナの友だちを巻き込んでるらしいじゃん。やめさせてくれないか?」
「上等なお願いだな。で、お前には何ができるわけ?」
鼻で笑いながら、ショウは俺の肩を指先で軽く押す。
威圧感があるというよりは、相手を見下して楽しんでいるような態度。
「カナも必死なんだ。これ以上、あんたの怪しいバイトに誘わないでくれ」
「ふーん……カナちゃんがどうしてもって言うなら、俺も考えてやってもいいけど?」
ショウの口調は軽薄で、その奥に腹黒さを隠しているように見える。
きっと、これまでいろんな学生を騙してきたのだろう。
「俺に何があるのかって? 別に特別な力はないっスけど、あんたのやり方を放っておく気はない」
思わず拳を握りしめる。
だが、ショウはまるで俺の熱意など通じないかのように肩をすくめるだけ。
「まあ、お前なんかにカナちゃんを守れるわけないだろ。あの子は俺のことを案外頼りにしてるんだぜ?」
「は? なんだよ、それ」
「最近、困ってるらしいじゃん。金のことで。そんなら俺が助けてやる、って話してたところなんだけどなあ」
イラッとする言い方に思わず胸がざわつく。
もしかして、カナがショウにすがらなければいけない状況があったのか。
カナは俺の前では一生懸命頑張る姿を見せてくれていたけど、その裏で不安を抱え込んでいたのかもしれない。
「お前みたいな奴にカナが頼るわけない」
「それがどうかな。ま、気が向いたらまた話をしてあげるよ。とりあえず、余計な邪魔だけはしないでくれよな、桜庭ケンジくん」
最後は名前を皮肉気味に呼び捨てにして、ショウはスタスタと去っていった。
胸の奥にドロリとした感情が湧き上がる。
その夜、カナと合流して話を聞くと、やはりショウから「友だちの借金を肩代わりしてやる」と誘惑されているという。
カナはもちろん断っているが、友人のために金が必要な現実は消えない。
だからこそ、ショウの甘い囁きを完全に無視できずにいるようだ。
「私も怖い。あの人に借りを作ったら、どうなるかわからないし。でも……友だちを救うには、どうすれば……」
カナが不安そうに視線を落とす。
俺はそんな彼女を思わず抱き寄せ、「大丈夫だって。絶対にお前をそんなやつに渡すもんか」と耳元で囁いた。
カナの肩が小さく震え、俺の腕の中に身を預ける。
彼女の体温が伝わるたび、さらに守りたいという気持ちが強くなる。
「ケンジ……こんな私を、どうしてそこまで……?」
「お前が好きだからって言ったら、ベタ過ぎるかな。でも本当だよ」
自分で言って照れそうになるけど、これが本心なんだから仕方ない。
カナは不安げな顔をしながらも、少しだけ微笑んでくれた。
その笑顔を絶対に守るためにも、俺は行動を起こす――そう心に誓った。
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