第24話 「決闘③」
「くそ! 降りて来ねえじゃねえか!」
マリオの大声に呼び覚まされる。
もしかすると一瞬、気を失っていたのかもしれない。気がつくと『威圧(ズグラース)』の苦痛は少しだけだが落ち着き始めていた。『威圧(ズグラース)』って自分で受けるとこんな感じなんだ。風邪なんてレベルじゃないんだけど。訓練中に何発も打ち込んだのに、裁定者って、こんなの受けて平気な顔してたの?
身体は重いけど動けないほどじゃなかった。『威圧(ズグラース)』の強みは発動時に敵の体内を乱す効果で、力を奪う効果はそこまででもないようだった。
それともマリオが使う『威圧(ズグラース)』だからこうなのであって、使い手によって性能が変わったりするのだろうか。
「リラぁあアア! てめえ、いつまでそこにいるつもりだ? マヌエル先生! いいのかよ! どうしろってんだよ! 場外じゃねえのか? 石でも投げりゃいいのか?」
審判のフォルトゥナが答える。
「屋根より下は場外じゃない。武器の使用は禁止だ」
「柱登りでもしろってのかよ!」
意識がはっきりしてくる。
リラは武闘場の天井付近に浮かんでいた。よかった。『威圧(ズグラース)』を受けて意識が途切れても『軽身(セフィロ)』は効果を発揮し続けている。
見下ろすとぎゃあぎゃあと騒ぎながら、ぴょんぴょんとジャンプするマリオの頭頂部が見えた。『祝福(レガリア)』の身体強化では、どんなにがんばっても天井までは届かないようだった。
◆◇◆◇◆◇
少年が教えてくれた決闘のルールは『威圧(ズグラース)』使いの男に有利すぎるものだった。だがどうにかして対応しなければいけない。
「結局、自分から行動しないと始まらないってことよね」
「向こうから仕掛ける理由はないな」
「でも手を出せば『威圧(ズグラース)』が待っている」
リラは眉間に指をぐりぐりと押し当てる。
「絶対に来るだろう。『威圧(ズグラース)』を受ければ権能の意識的発動は不可能になり、身体も動かせなくなる。筋肉も緩むから耐久力も激減だ。完全に動けなくなるのは数秒だが、急所なら一撃で十分だろうな」
受ける側からすれば『威圧(ズグラース)』は自分では何もできず、相手の失敗を期待するしかない恐ろしい技だ。そして素早く踏み込んで正確に急所を打つ動きを、マリオが失敗するイメージはなかった。
でも使う側として考えると決して必勝の手段ではない。発動して五秒もしないうちにアドバンテージは消え失せる。足を滑らしたり、障害物があったりすると、簡単に討ち損じてしまうだろう。
「時間さえ稼げば『威圧(ズグラース)』はやりすごせる、か」
「かつてのフォルトゥナ対策にも、フォルトゥナを見かけた時点で『威圧(ズグラース)』を使われる前に、己の炎や雷で周囲に接近を防ぐ陣を作るというものがあった。これが案外と攻略に手間取る」
「でも『軽身(セフィロ)』があれば上空からでも……」
リラはそこまで口にして、そこで気付く。
「……そういえば、あんた言ってなかった? 今のフォルトゥナは誰も『軽身(セフィロ)』を持ってないって」
少年は何も言わない。だが否定もしない。続きを待っているようだった。リラは思考を言葉にしていく。
「『軽身(セフィロ)』があれば、人間が届かないような高さにまで飛ぶことができるし、あの力は眠っていても途切れない。もしかしたら『威圧(ズグラース)』を受けても……」
◆◇◆◇◆◇
そして更に十秒経過――
マリオはリラを見上げて喚くしかない。
リラはその間にも回復していく。
そして権能の意識的発動ができるようになった瞬間、リラは天井を蹴ってマリオへと急降下する。
「死ねぇえああッ!」
マリオは反射的にその場から逃れようとするが、戦闘を続行する意志がある限り、その回避行動も『参加』にしかならない。リラの『威圧(ズグラース)』が成功条件を満たす。
リラはふらふらと体勢を崩したマリオの頭を急降下の勢いのままに蹴り飛ばす。マリオは吹っ飛ぶと、そのまま転がって場外に落ちていった。
リラは武闘場の中央に降り立つ。『威圧(ズグラース)』の影響がまだ残っていてふらついてしまうが、膝をつくほどではなかった。
マリオは倒れたままだ。『威圧(ズグラース)』の最大効果の持続時間はもう過ぎ去っているはずだから、立ち上がれるかは蹴りのダメージ次第だけど。
決闘における自発的ではない場外は、すぐに戻れたら注意で済むが、戻れなければ負けだ。マリオは立てるだろうか?
マリオは地に手をつくと身体を起こそうとし始める。しかし半身を起こしたところで動きは止まってしまう。足に力が入らないようだ。
審判のフォルトゥナは、呻くマリオを見下ろし、十秒近く待ち、それから首を振って告げた。
「……決着! 勝者、リラ!」
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