第2話「虚影の森」

夜が明ける頃、森はまるでその呼吸を取り戻したかのように静寂に包まれていた。だが、その静けさは一時的なものにすぎない。


深い霧が立ち込める森の奥、暗闇の中心で、巨大な虚影獣が目覚めようとしていた。その姿はかすかに歪み、無数の触手がうごめいている。虚影獣は周囲の闇を吸収しながら次第にその力を増大させていった。


「新しい力が……目覚めようとしている。」


誰も聞く者のいない声が、虚影獣の核から漏れ出ていた――。

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1. 森の異変


ハヤテは森の中を歩いていた。虚影獣を倒した昨晩の疲労を引きずりながらも、再び不穏な気配を察知していた。


「またか……。やはり昨夜の虚影獣は前兆に過ぎなかったか。」


影をまといながら進む彼の足元で、木々が静かに揺れ、鳥たちの声は途絶えている。森全体が何かに怯えているかのようだった。


そのとき、背後から軽快な声が聞こえた。


「また会ったね、ハヤテ。」


振り返ると、そこにはカズマがいた。彼の金髪は朝日に輝き、その笑顔は相変わらず穏やかだ。


「……つけてきたのか。」


「違うよ。この森に異変があるって感じたんだ。君も同じだろう?」


ハヤテは苛立ちながらも、カズマの鋭い洞察力にわずかに感心していた。


「勝手にしろ。ただし、邪魔をするな。」



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2. 虚影獣の群れ


二人が森を進むにつれ、周囲の霧は濃くなり、不穏な影がちらつき始めた。突然、霧の中から小型の虚影獣が現れた。それは昨夜のものよりも数が多い。


「やっぱり……これはただの異変じゃない。」


カズマが光の剣を生成し、虚影獣たちに向かって構えた。その横で、ハヤテは影の槍を生成しながら静かに言った。


「敵の数が増えている。どうやら、ここに何かいるようだな。」


虚影獣たちは二人に向かって一斉に襲いかかる。


「左を任せる!」


カズマの指示に応じ、ハヤテは影の槍を放ち、一瞬で数体の虚影獣を貫いた。カズマもまた、光の剣で敵を焼き払い、背中合わせで次々と虚影獣を撃破していく。


だが、次から次へと現れる虚影獣に、二人は徐々に追い詰められていった。



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3. 新たな脅威


そのとき、森全体が震えるような低い音が響いた。霧の中から現れたのは、巨大な虚影獣――昨夜のものとは比較にならないほどの力を持つ存在だった。その体から無数の触手が伸び、闇そのものが形を持ったかのようだった。


「こいつは……規格外だな。」


ハヤテが低く呟いた。


「どうする? 二人で倒せると思うかい?」


カズマは冗談めかして言ったが、その目は真剣だった。


「やるしかないだろう。」


ハヤテは影を操作し、巨大な槍を生成する。一方、カズマは剣を掲げ、光を強く収束させた。



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4. 光と闇の共鳴


虚影獣は咆哮し、触手を二人に向かって振り下ろしてきた。ハヤテは影を盾にして防ぎ、隙を見て槍を放つ。しかし、虚影獣の硬い外殻に阻まれ、攻撃は通らない。


「くそっ、こいつは普通のやり方じゃ倒せない!」


カズマが剣で触手を切り裂きながら叫んだ。そのとき、カズマの剣の光がハヤテの影に反射し、一瞬だけ虚影獣の動きが鈍った。


「光と闇が……共鳴している?」


ハヤテが呟くと同時に、カズマが気づいた。


「ハヤテ、僕の光を君の槍に重ねてみるんだ!」


「何だと?」


「試してみる価値はある!信じて!」


半信半疑ながらも、ハヤテは槍に集中し、カズマの光を影に吸収させた。その瞬間、闇と光が混ざり合い、槍は眩い黒い光を放ち始めた。


「行くぞ!」


二人は同時に力を解放し、槍を虚影獣の核に向かって突き刺した。



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5. 勝利と疑念


虚影獣は断末魔の叫びを上げ、闇の霧となって消えていった。森に静寂が戻り、二人はその場に立ち尽くした。


「やったね。」


カズマが笑顔で言ったが、ハヤテは険しい表情のままだった。


「こんなものが生まれるなんて、何かがおかしい。森だけの問題じゃないかもしれない。」


「そうかもしれないね。だからこそ、君と僕で力を合わせるべきなんじゃないかな?」


ハヤテは答えず、闇の中に消えていくように歩き出した。しかし、その背中には、カズマの言葉が少しだけ響いているようだった。

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