第10話 なるほどそりゃあ怒るのも当然だ

 人間達を完全に無力化したので、尋問タイムです。


「じゃあ聞くけど君達は何のためにここに来たの?」


「それは先ほどの炎の柱と吹雪を調べに……」


「それは森に入ってからだよね」


 この期に及んで誤魔化そうとしたので言葉を潰す。


「手足の一本切り落として危機感を感じさせた方がいいのかな? 捕まえた人間はもう一人いるんだから、一人ぐらい死んでも良いんだよ?」


 まぁリーダーの方が情報持ってそうだからあんまり殺したくないんだけど。


「……わ、我々は裏切者を追って来たんだ」


「裏切者?」


 なんかいきなりきな臭くなってきたぞ。


「実は我が国で類まれな剣の才を持った剣士が国王を裏切り、宝剣を強奪して逃げ出したんだ」


 宝剣という言葉にちらりとミイラ一号君を見てしまう。

 だって彼が持っていた剣もなんか普通のものじゃなかったし、何より私と出会った時は瀕死だったからねぇ。

 もしかしてこの人間達に追われていたって事?


「何でその剣士は裏切ったの?」


「国から貸与された宝剣の力に目が眩んだからだ。奴は国王を殺す事で宝剣を自分の物にしようと企んだが、それに失敗した事で追われる身となったのだ」


 追われるねぇ……

 私はチラリとミイラ一号君を見る。すると彼は体をカタカタと震わせ、グゥゥと腹の底から響くような唸り声をあげていた。

 うん、明らかに興奮してる。

 同時にリーダーのほうも時折チラッとミイラ一号君に視線を向けている。

 明らかにミイラ一号君を意識してるよ。


「我々は裏切者をあと一歩と言うところまで追い詰めたのだが、この森に逃げ込まれてしまったのだ。誓って言うが我等の目的は裏切者の始末と宝剣の奪還であってこの森に手をだす気はない」


 いやそれは嘘でしょ。

 城の先生からは人間達が何度も森の資源や支配地を増やす為に攻め入って来たって教えてれたもん。

 今回は違うとしても将来的にはまた手を出してくるだろうね。


 私はリーダーに質問しながらミイラ一号君の反応を確認する。


「……という事なんだ」


 するとミイラ一号君は男の回答に対して唸り声を上げたり黙ったりと一定ではない反応を見せていた。

 これってやっぱり……

 私は男に対してまずそうと答えないだろう質問をする。


「もしもその裏切者が宝剣を返却し、罪を償いたいと言ったらあなた方はその人物を許しますか?」


「それは……もちろんだ。裏切者が己の罪を悔いて盗んだ宝剣を返却するのなら、我々は国に最大限の配慮を求めよう」


「グゥゥゥゥ!」


 うん、これは決まりだね。この男が嘘をついているとミイラ一号君は反応する。

 そしてリーダーもミイラ一号君が自分達の追っている裏切者だと気づいてるっぽい。

 まぁミイラになったけど服装とか髪型はそのままだからね。


 そもそも、あそこまでボロボロにした裏切者が今更剣を返した程度で許されるとは思わないし、追手にそこまでの権限がある筈もない。

 このリーダーが貴族なら話は別だけど、見た感じ貴族って感じでもない。


「そういえば国からの追っ手という事は貴方達は貴族なんですか?」


「いや、我々は騎士団に所属しているが貴族ではない。貴族なら裏切者の追跡任務などという泥臭い任務になど出ないからな」


 はい嘘つき確定。

 この人間達が貴族じゃないのなら減刑を求める事なんて実質無意味。

 なら、ミイラ一号君をウソ発見器として活用させてもらうとしましょうか。


「じゃあ次の質問だけど……」


 私はリーダーから色々な話を聞いた。

 この国の情報、軍事的な話題から国力に関する話題。

 時折油断させる為に流行りの品や美味しい食べ物などについても聞いてみる。

 するとリーダーはあからさまに教えたらマズそうなことには嘘をつくものの、美味しい食べ物についてなどは簡単に答えてくれた。


「この国は芋を使った料理が多いな。パンを食べる奴が少ないから代わりに腹にたまる芋を色んな味付けにするんだ」


 パンが少ないって事は小麦があまり取れない国ってことかな。

 でも色んな味付けができるって事は調味料は多そう。

 調味料が多いって事はいろんな国と交流があるか香辛料の類が多く産出するんだろうね。


「食べ物が美味しいのなら争いごとの無い平和な国なんでしょうね」


「そうとも言えないな。周辺国、特にガロウザはよくこっちにちょっかいをかけてくるから国境沿いは小競り合いは絶えない。周辺国を取り込んで攻め込もうとしているって噂もあるくらいだ」


 ふむふむ、決して安定した社会情勢じゃないと。特にガロウザって国を国民全体が嫌ってるっぽいね。

 この辺りは軍事に関係してるけど、国の誰もが知ってる常識なら私も当然知っているだろうと思ったんだろうな。

 つまりひっかけ問題と裏を読んだ訳だ。

 まぁ本当に知らなかっただけなんだけどね。


 他にも一通り思いついた質問を繰り返したところで聞くことが無くなった。


「んー、聞きたいのはこんなものかな」


「じゃ、じゃあ見逃して貰えるのか!?」


「私はね。でも彼はそうでもないみたい」


 と私はミイラ一号君に視線を向ける。


「なっ! 騙したのか!?」


「私は見逃してあげるよ。でも彼に一騎打ちをさせてあげるって約束したしね。だからさ、彼と戦って勝てたら見逃してあげるよ」


「っ!」


 一騎打ちならとリーダーに希望の光が灯る。


「俺だけか? 仲間も共に戦って良いのか?」


 と、リーダーはウルちゃんズに捕まったままの仲間に視線を向ける。


「良いよ。戦う前に傷の治療とかもしていいよ」


「感謝する」


 ウルちゃんズに命じて男を解放すると、二人は私達から少し離れた場所で傷の治療をしたり、アイテムを取り出して作戦を練りながら小声で相談をしている。


「……俺が奴を始末する。お前は万が一の為に即座に逃げろ。あの吸血鬼の言葉が本当なら逃げても追われる事はない。お前はあの白い吸血鬼という新たな脅威を国に報告するのだ」


「し、しかし隊長」


「命令だ。プライドの高い吸血鬼なら格下と見下している我々相手に言葉をたがえる事はない筈」


「……はっ!」


 感動的な会話で申し訳ないけど、めっちゃ聞こえてます。

 どうやら私、人間よりもめっちゃ耳が良いみたいでして。


「準備は出来た。いつでも戦える」


 と、リーダーが前に立ち、部下が後ろで投げナイフを構えるポーズをとる。


「じゃあはじめ!」


 私が開始を告げると、一目散に部下が逃げ出す。

 そしてリーダーが追わせないとミイラ一号君に襲い掛かる。


「見逃してくれるのだろう? ならばこのグールの追跡から逃げ切る事も勝利と言える筈だ!」


 と、私へのけん制というかプライドを刺激することも忘れない。


「うん、良いよ。彼から逃げきれても見逃してあげる」


 二人の距離が迫りもうすぐお互いの剣の間合いに入る。


「喰らえ!」


 その直前、リーダーは片手を剣から放しミイラ一号君に何かを投げた。

 次の瞬間、ピカッと眩い輝きが夜の闇を光で塗りつぶす。


「うわ眩しっ!」


 何これすっごい眩しい!


「吸血鬼除けに持ってきた光の護符石だ! アンデッドの貴様には眩しくて何も見えまい!」


 どうやらアンデッド限定の目つぶしを使ったっぽい。

 おかげで私も巻き込まれて凄く眩しい。

 多分部下を逃す為の目くらましも兼ねてるんだろうけどやっぱマブシイ。


「死ねっカロン! 貴様を殺せば次の剣聖の座は俺のものだ!」


 リーダーの声だけが真っ白になった世界に響き渡る。

 ザシュッ


「がっ!」


 次に聞こえてきたのは肉を切る音とうめき声。

 ようやく視力が戻って来た目を開くと、そこにはミイラ一号君の真後ろに回り込んだリーダーの姿が。

 しかし彼は剣を振り上げた姿で止まっており、胴体には真一文字の赤い線が走っていた。


「み、見えない筈なのに何故……」


 どうして自分の位置がバレたのか分からないまま真っ二つになって崩れ落ちるリーダー。


「……グゥ」


 追手を倒した事で、ミイラ一号君の唸り声が小さくなる。

 そして森の闇に逃げ込んだ部下を追いかけようとする。


「見逃してあげなよ」


 なにより、今からじゃ追いつけないだろうしね。


「それに私が領地を求めて活動するのなら、彼とはまた戦う機会もあるだろうしさ」


 この森を出て領地を求めれば間違いなく人間達と戦う事になる。

 そうなればこの国の騎士団で働く彼とは間違いなく顔を合わせる事になるだろう。


 というか、本音を言えば彼一人じゃ到底この森を抜けだす事は出来ないと思うんだよね。この辺りは森の深い部分だし、危険すぎる魔物が多いから。


「……」


 ミイラ一号君が静かに剣を下ろす。

 とりあえず、追手を自分の手で斬れた事もあって納得してくれたのかな?


「そういえばカロンって呼ばれてたけどそれが君の名前なの? これからはそっちで読んだ方がいい?」


 私が尋ねると、ミイラ一号君は首を横に振って拒絶する。

 どうやら過去の自分は捨て去りたいらしい。


「そっか、それじゃあ改めてよろしくねミイラ一号君」


「……! ……ハァ」


 いや、今何で諦めるように肩をすくめたの!?


「……カヒュッ」


 そんな時、足元から奇妙な声が聞こえて来た。


「あっ、この人まだ生きてる」


 驚いたことに体を真っ二つにされた筈のリーダーはまだ生きていたのだ。


「凄いなぁ、この世界の人間ってしぶと過ぎない?」


 真っ二つになって生きてるなんてまるでプラナリアみたい。


「んっ?」


 と思ったら彼の手に何か小瓶が握られていた。

 そして傷口付近には小瓶から振りかけたであろう液体がこぼれている。


「成る程、これがポーションってヤツか」


 凄いな、ゲームとかでHP1から回復するのも納得だよ。

 でもこのままだと出血多量で死んじゃうだろうね。


「ちょっと試してみようかな。カプッ」


 私はリーダーの首に噛み付いて血をチューチュー吸う。

 うん、このリーダーの血も美味しい。ちょっとお高いハンバーガーって感じの味だ。セットでポテトとコーラが欲しくなるなぁ。


「グウゥゥ」


 暫く吸っていると、リーダーがうめき声を上げ始める。


「おっ、成功」


 無事リーダーはアンデッドになった。

 あとはこの状態でちぎれた下半身を……とりあえず布で縛って固定してみる。


「グウウウ」


「おっ、動いた!」


 完全にちぎれていた筈の体をくっ付けたら、ちゃんと立ち上がって動いたよ!


「神経とか切れてるはずなのに何で動くんだろうね?」


 まぁファンタジー世界だしそういうものなんだろう。

 これなら腕とか吹っ飛ばしても縫えばアンデッドとして再利用出来るね!

 

「ガウ!」


 実験が成功してご満悦な気分でいたら、ウルちゃんズが何かを咥えてやってきた。


「何持ってきたの?」


「う……うう」


 なんとそれは先ほどの決闘で逃げ出した筈の部下だった。


「あれ、連れ帰って来ちゃったの?」


 あー、ウルちゃんズに無視して良いって言わなかったから、連れ戻しに行っちゃったのか。


「う、嘘つき……」


 ただ余程ぞんざいに運ばれたのかズタボロになった部下が涙交じりに恨み言を言ってくる。


「あー、ゴメンね」


 流石にかわいそうなので彼も仲間にしてあげました。

 まぁ私自身は見逃した上で捕まったんだからノーカンって事で一つ。

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