第9話 ミイラ一号君の暴走と人間との戦い

「グォォォォォォォ!」


 人間達と交渉を試みていたら、突然姿を見せたミイラ一号君が襲い掛かって来た。


「きゃあ!?」


 って、なんで!? 私君の主だぞ!?


 慌てて回避すると、ミイラ一号君はそのまま私を素通りして人間達に向かってゆく。


「え? あれ?」


 もしかして私が狙いじゃなかった?


「グォォォォォ!」


 人間達に襲い掛かるミイラ一号君だったけれど、その攻撃はあっさり避けられてしまう。

 うん、だってミイラ一号君はいつもフラフラしてるミイラだからね。

 今はいつもに比べて動きがはっきりしているっぽいけれど、素の能力が低いのか簡単に攻撃をかわされていた。


「なんだコイツ、大したことないぞ?」


 しかも今のミイラ君は剣を持っていない丸腰だ。武装した冒険者の集団に襲われたらひとたまりもない。


「ウルちゃんズ!」


「「「「ウォォォォォォン!!」」」」


 私が呼ぶと、森に潜んだウルちゃんズが雄たけびと共に姿を現す。


「なっ!? サウザンドウルフの群れだと!?」


「殺さない程度にやっちゃって!」


「「「「ガォォォォォン!!」」」」


 号令を受け、ウルちゃんズ達が人間達に襲い掛かる。


「馬鹿な! サウザンドウルフを従えているだと!?」


「やはり人間じゃなかったか!」


 あ、あれ? 私疑われてたの?

 おっかしいなぁ、見た目は完全に人間だから魔法使いの振りをすればバレないと思ったのに。何でバレたんだろう?


 ともあれ、なし崩し的に戦いは始まった。

 あいもかわらずミイラ一号君はあの人間達に襲い掛かっているけれど、その攻撃はことごとく避けられている。

 けれどウルちゃんズによる全周囲の攻撃を避けるのに必死で、ミイラ一号君への反撃は行われていない。


「なんだコイツ等!? 攻撃しても全く怯まないぞ!?」


「それどころか致命傷を受けているはずなのに死なないのはどういう事だ!?」


 だってアンデッドだからね。もう死んでるから致命傷もへったくれも無いよ。

 でもこの冒険者達はなかなかやるね。文句を言いつつもウルちゃんズの攻撃を回避したり武器や盾で上手く防いでいる。


「丸ごと焼き尽くす! 火事のどさくさで逃げるぞ!」


 と、杖を持った人間が仲間に注意を促す。


「成る程、そういう逃げ方もあるのか」


 わざと火事を起こせば、生き物であるウルちゃんズもここから逃げ出すだろうって考えだね。

 でも残念。彼等は人間の言葉を理解出来る私がウルちゃんズ側だという事を失念している。


「折角答えを教えて貰ったんだから、役に立てないとね」


 私は魔力を集めてこれから起こしたい現象をイメージする。


「フレイムバース……」


「ミニブリザード」


 魔法使いの魔法に被せてさっき発動させたものよりも小規模な吹雪を産み出す。

 次の瞬間、ジュッという音と共に彼の放とうとした魔法が掻き消えた。正しくは消火された。


「な!? 俺の魔法が!? グァッ!」


驚く人間の首筋にウルちゃんズが噛み付くと、腕に、足に、胴体に次々と噛み付いてゆく。 


「ロバート!」


 襲われた仲間を助けようとリーダーが駆け出すけれど、ウルちゃんズに妨害されて近づくことが出来ずにいる。


「あっ、そうだ。ウルちゃんズ、その魔法使いをこっちに連れてきて」


「ガウ!」


 私が命令すると、ウルちゃんズは噛み付いた人間をこっちに運んでくる。


「なにをするつもりだ!」


「何って、こうするんだよ」


 私は息も絶え絶えな様子の人間の首に噛み付くとその血を吸い始める。

 おお、この人間意外に美味しい!

 味としてはファミレスのハンバーグくらいの美味しさだ。

 んー、この人間に比べると今まで血を吸ってきた人間は賞味期限切れ寸前のコンビニおにぎり(味の微妙な新製品)って感じだね。

 お城で吸った女の人の血といい、人間は個体によって味が違うようだ。


「これは私の吸血鬼ライフも捗りそうだね」


 ふふふ、血しか食べ物がないから食生活はあんまり楽しめないかなって思ってたんだけど、意外と楽しめそうだよ。


「あっあっあっ」


 私に血を吸われ人間がうめき声を上げる。


「血をっ! 吸血鬼か!」


 ここに至って漸く私の正体を知った人間達の視線が釘付けになる。

 でもいいのかなぁ。私にばかり注意を向けて。


「グオォォォ!」


「グァッ!」


 ここに至って遂にミイラ一号君の攻撃が人間に当たり、その手にしていた剣が地面に落ちる。


「グォォォォォ」


 ミイラ一号君は落ちた剣を拾うと、スッと構える。

 その瞬間、ミイラ一号君の気配が変わる。まるで剣を持った瞬間別の生き物になったかのようだ。


「俺の剣を返せ!」


「やめろ! 不用意に近づくな!」


 剣を奪われた人間が予備の武器を取り出してミイラ一号君に襲い掛かるとリーダーが慌てて止める。

 しかし熱くなった彼は止まらない。


「グォォォ!」


 ヒュンヒュンという二つの風切り音が鳴り終えると、切りかかった人間が縦と横に切り割かれ、四つの肉塊へと変貌する。


「馬鹿な! あの技は!」


 ミイラ一号君の剣技に驚くリーダー。

 ふむ、もしかしてミイラ一号君について何か知ってる?

 彼だけはミイラ一号君が剣を持った瞬間の変化に気付いていたっぽいし、今もサウザンドウルフの攻撃をいなしながら今のやり取りを見ていたところを見るに、他のメンツに比べて頭一つ抜けた実力の持ち主なのかもしれない。


「くっ! 引くぞ!」


 完全な不利を悟ったリーダーは生き残った一人に撤退命令を告げる。


「だがロバートが!」


「無駄だ! ヤツは吸血鬼に血を吸われた!」


 うん、その通り。

 この人間は私に血を吸われた事でもう人間じゃなくなった。

 私の眷属になったのだ。


「君、私の為に昔の仲間と戦って」


「ウァァァ……」


 ユラリとかつて人間だった魔法使いが立ち上がる。

 全身のウルちゃんズに噛み付かれた痕から血を流しつつ、彼は杖をかつての仲間に向けて放つ。


「……アースニードル」


「避けろ!」


 魔法使いが魔法を放つと同時に、人間達はその場から飛び退る。

 次の瞬間、彼等の居た場所に無数の石の棘が生えた。


「へぇ、アンデッドになっても魔法は使えるんだ」


 これは便利だね。魔法使いを沢山眷属にすれば、魔法部隊が作れるよ。


「グワァ!」


 人間の一人がウルちゃんズに噛み付かれて、その勢いで地面に叩きつけられる。

 これでまともな戦力はリーダー一人だ。


「どうする? まだ戦う? それとも諦めて降伏する?」


 圧倒的有利な状況になった事で私はリーダーに降伏勧告をする。


「降伏したら命を助けてくれるのか?」


「情報をくれるなら助けてあげるよ。無用な殺生は趣味じゃないし」


 有用な殺生ならするけどね。


「分か……」


「グォォォ!」


 しかし戦いが終結しそうになったところでミイラ一号君が剣を振りかざしてリーダーに襲い掛かる。


「ミイラ一号君ステイ!」


 私が強く命じると、ミイラ一号君の動きがビタリと止まる。


「グゥゥゥゥ」


 何故止めるのかとかすかに不満のようなものを感じる。


「この人間達には聞きたい事があるから、今殺しちゃだめ。どうしてもやりたいなら……えーと後で決闘の機会をあげるから」


「……スッ」


 決闘の機会というとっさの思い付きに納得してくれたのか、ミイラ一号君は剣を納めてくれた。

 ふぅ、上手くいった。


「さて、それじゃあ色々と教えて貰おうかな。まずは……」


 さーて、楽しい尋問タイムの始まりだよー!

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