第8話 新たな眷属、初めての遭遇

「さて、それじゃあ旅を再開しようか」


 サウザンドウルフとの戦いを終え、移動を再開しようとした私の肩をミイラ一号君がポンポンと叩く。


「ん? 何?」


 するとミイラ一号君は両手を口の近くに寄せて何かに噛み付くジェスチャーをする。


「えっと、お腹空いたの?」


 しかしミイラ一号君は違う、そうじゃないと首を横に振る。

 そして森に広がるサウザンドウルフ達を指差すと再び噛み付くジェスチャーをする。

 サウザンドウルフ達を食べる? でもミイラ一号君は食べないみたいだし、私も吸血鬼だからお肉は……あっ。


「もしかしてこのサウザンドウルフ達の血を吸って私の眷属にしろってこと?」


「コクコク」


 ミイラ一号君はその通りと首を縦に振る。

 成程、確かに吸血鬼たるもの狼を眷属に持つのは蝙蝠とおなじくらいお約束だもんね。


「よーし、それじゃあ眷属を沢山作るぞー!」


 ◆


「うっぷ、お腹一杯……」


 私のお腹ははちきれそうだった。

うん、そうだよね。サウザンドウルフって言われるほどなんだもん。生き残っていた子限定と言ってもかなりの数がいたんだよ。


 吸血鬼の眷属にする方法は血を吸うことだから、何百匹と血を吸えばそりゃはちきれそうになるってもんです。


「でも不思議なのはまだまだ入りそうではあるんだよね」


 お腹一杯なのにまだまだ入りそうという矛盾。

 吸血鬼の特性なんだと思うけど……いやどっちかと言うと同じ味を食べ過ぎて食傷気味って感じ? デザートならまだ入るかな?


「でもその甲斐はあったかな」


 私は眼前に整列する無数の狼達を見つめる。

 彼等はまるで軍隊のように綺麗に整列して私の命令を待っている。


「今日から君達は私の眷属だよ、よろしくね」


「「「「ガウ!!」」」」


 アンデッドになったサウザンドウルフ達が一斉に吼える。

 うーん凄い迫力。敵だったらオシッコ漏らしてたね絶対。


「さて、それじゃあ君達に名前を付けないとね。サウザンドウルフじゃ呼びづらいし」


「っ!?」


 私がサウザンドウルフ達の名前をどうしようかと考え込むと、ミイラ一号君がまるで何かを警戒するかのようにバッと身構える。


「え? 何? どうかしたの?」


 もしかして新しい敵?

 けれどミイラ一号君は手をパタパタと振ってそう言う訳じゃないとジェスチャーを見せる。

 敵じゃないのならいいけど……


「よし、決めた!」


 改めて考えを纏めた私は、サウザンドウルフ達の名前を決める。


「サウザンドウルフ達、君達の名前は……」


「「「「ガウ……ゴクリ」」」」


「君達の名前は、ウルちゃんズだっ!」


 ビシリとサウザンドウルフ達を指差して私は彼等の名を告げる。


「「「「…………ガウ?」」」」


 一斉に首を傾げるサウザンドウルフことウルちゃんズ。

 そして周囲の仲間と顔を見合わせると、私を見つめる。


「「「「ガウ?」」」」


 自分達の事ですかと前足で器用に自分を指差すウルちゃんズ。


「そう、君達はウルちゃんズだよ!」


「ガウガウ」


 するとウルちゃんズの一匹がパタパタと前足を振って自分を指し示す。

 その後間をおきながら仲間達を順番に指差してゆく。


「うん、だから君達全員でウルちゃんズ。沢山い過ぎて全員の名前を考えるの面倒だから皆纏めてウルちゃんズね」


「「「「ギャウーーーーン!?」」」」


 いやね、一匹や二匹なら個別に名前を考えるけど、これだけいるとねぇ。


「ギャウギャウ!」


 ウルちゃんズがミイラ一号君に何かを訴えかける。


「……ぴっ」


 するとミイラ一号君が指を一本だけ立ててウルちゃんズになにかを伝えると、彼等は一斉に肩を落として打流れた。


「「「「……ガウゥ」」」」


 何か失礼な会話をされた気がする。


 ◆


「ガウガウ!」


 名づけを終え漸く移動を再開した私だったのだけれど、先行していたウルちゃんズの一匹が戻って私に何かをアピールする。

 何かあったのかな?

 すると横に居たミイラ一号君が前方を指さすと手を下に向けて人差し指と中指を交互にスイングさせながらこちらに寄せてくる。

 その光景は誰かが歩いているような演技だ。


「もしかして誰かがこっちに向かってきてる?」


「ガウ!」


ウルちゃんズがその通り首を縦に振る。

ふむウルちゃんズが警告するのなら、気を付けた方が良い相手なんだろうね。


「うん、様子を見る事にしようか。皆一旦物陰に隠れて」


「「「「ガウ!」」」」


 私は皆を物陰に隠すと自分も隠れ潜む。

 そして暫く待っていると、ガチャガチャと金属の擦れる音や枝を踏む音が聞こえて来た。


「あれは……人間?」


 そう、やって来たのは鎧やローブを見に纏った人間、いわゆる冒険者というヤツだ。

 彼等は周囲をキョロキョロと見回しながら夜の森を進んでくる。


「珍しいね、人間が夜の森を進むなんて」


 普通人間って夜の森じゃ動き回らず野営をして襲撃に備えながら夜が明けるのを待つものだけど。

 何かそうしないといけない事があったのかな?


「そろそろ例の炎の柱が上がった場所だ」


 炎の柱? 何それ、この辺りにそんな不思議な現象が起きる場所なんて……


「それと局所的な吹雪もな」


「……」


 巨大な火柱、局所的な吹雪……


「じー」


 ミイラ一号君が無言で私を見つめてくる。

 ああそうですよ! 私が犯人ですよ!

 どうやらこの冒険者達は私とサウザンドウルフの戦いの余波を見て偵察に来たらしい。


「間違いなく魔法だろうが、問題は誰があんな大規模な魔法を連続で放ったかだ」


「流石に一人でアレを行うのは無理かと。複数の魔法使いで行使したと考えるのが妥当でしょう」


「だとしてもそんな大戦力が何故この森の、こんな奥地に来ているのかだ。そしてアレ程の威力の魔法を立て続けに使う必要がある敵とは何だったのかも確認しないといけない」


「じー」


いやしょうがないじゃん、私も自分の本気があんな大惨事になるって思っていなかったんだって! いや本気じゃないよ。でも戦闘中だったから加減が上手くいってなかったかもだけど。


「でもこれってチャンスだよね」


 だって生きている人間と接触できるチャンスなのだ。

 この世界に転生した私は人間の側の情報を全く知らない。

 お城で先生に習ったのはあくまで吸血鬼の視点から見た人間社会の情報だしね。

 彼等から情報を得る事が出来れば、後々自分の領地を手に入れる時に役立つかもしれない。


「幸いさっきの魔法の調査に来たみたいだし」


 それを利用させてもらおう。


「そこの人達」


「「「「っ!?」」」」


 私は冒険者達の前にあえて姿を見せる。


「な、何者だ!?」


 突然現れた私に冒険者達はすぐさま臨戦態勢に入る。


「なんだ!? 真っ白な女!?」


「気を付けろ! ただものじゃないぞ!」


「心配はいりませんよ。私は貴方がたが探していた者ですから」


 彼等の警戒を解くためになるべく丁寧な言葉づかいで話しかける。


「君が我々の探していた者だと?」


 リーダーらしき人物は警戒しつつも情報が欲しいのか私の言葉に乗っかって来る。


「ええ、貴方達は先ほどの魔法を放った者が誰かを探しに来たのでしょう?」


「……君がそうだというのか?」


「はい」


 よしよし、良い感じだね。

 これで彼等と仲良くなって人間側の情報を教えて貰おう。


「では聞くが何と戦っていたんだ?」


「こんな場所にいるんですから、魔物と戦っていたに決まっているでしょう?」


 嘘は言ってない。本当の事だからね。


「成程、それが本当なら……」


 と、冒険者のリーダーが私から視線を横に移す。


「後ろのグールは何故君を攻撃しない!」


「え?」


 何の事かと振り返ったら、そこには何故かミイラ一号君の姿があった。


「って、何でいるのーっ?」


 や、ヤバイヤバイヤバイ! せっかくの作戦が台無しだよ!

 なんとか誤魔化さないと!


「グ、グゥゥゥゥゥ」


 けれど、そこで私はミイラ一号君の様子がおかしいことに気付く。

 その姿はいつものユラユラした感じではなく、まるで何かを堪えるかのように体を震わせていたのだ。


「え? 何? どうし……」


「グォァァァァァァ!!」


 ミイラ一号君が獣のような雄たけびをあげ、突っ込んでくる。私に向かって。


「って、何でぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 どどどどういうことぉーっ!?

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