五月三日 十二時十五分

東京都第一地区の繁華街。その東側には、水商売や風俗を営む店が立ち並ぶ。


今はまだお天道様が天辺にあるため、そのなりは潜めているが、代わりにインバウンド客で賑わっている。


「フーゾクのマチ」を「クール」と言って写真に収め、母国に向けSNSで近況を配信し、「ナイス」の声を稼いでいるのだ。


友良ゆらは溜め息を吐き、そんなフーゾクのマチへ足を踏み入れた。

そこは日本語がかき消される程、多国籍で溢れている。


側溝から上がってくる下水の匂いに顔を顰め、人の間を縫うように進んだ。


約五十メートル先、ピンクの看板が目印のソープランドと、スカイブルーの外壁が特徴のイメージクラブ、に、挟まれる小さな建物の前で立ち止まる。


ショーパブ “CROW”


コンクリートの亀裂補修を重ねたその小さな建物と対峙した友良は、再度溜め息を吐いた。


ここに来ることは二度とない。


「-そう思ってたのになぁ」

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