ダイバーシティ・ジャパネスク

月美 結満

ストロベリーガス

五月三日

十五時二十分をさした数十秒後、ニュース速報が流れる。


と同時に、バラエティ番組の騒がしさから一変、緊急の報道番組に切り替わった。


各局のアナウンサーは、声低く、平静を保ちながら伝える。


- 本日、十五時十五分頃、東京第一地区の繁華街 及び オフィス街にて、胸を押さえて倒れた人がいるという通報が相次いで入りました-


現場上空では数機の報道ヘリが到着した。


「えーっ、ここ東京第一地区、烏通からすどおり上空よりお伝えします。通常ですと、海外からの観光客で賑わう繁華街ですが。現在の状況は、このように…このような…、悲惨な、悲惨な状況です」


報道キャスターから絞り出される精一杯の、「悲惨」という言葉は、全てを物語っていた。


この阿鼻叫喚はテレビのチャンネルを独占する。


キャスターは地上へズームする映像に目を凝らし、声を上げた。


「女性が出てきました!」


キャスターは続ける。


「えーっ、ミニのワンピースを着た女性です、何やら拡声器で呼びかけています!−」


更に三十分後、もう一つの現場を地上から映し出した。


風間かざま りんアナウンサーが、現場に到着したもようです。風間さん、こちらの声は届いてますか』


慌ただしく画面に現れる女性アナウンサーは、

警察が引いた規制線の真横で現状を伝える。


「はい。こちらは一番駅西口から徒歩十分の位置にある、飲食店が立ち並ぶ通りです」


カメラは現場を目隠ししている衝立を映す。


「あの衝立の奥で、現在も救命活動が行われています」


一呼吸置き、風間が話だそうと口を開くと、スタジオにいる男性アナウンサーの太い声が問いかけた。


『風間さーん』


「はい」


『事件発生前後の状況を詳しく教えてください』


「はい。事件発生時の様子を、被害に遭われた20代女性にお聞きする事ができました-」



-20代女性の証言はこうだ。


仕事が終わり、喫茶店で軽食を取ろうと立ち寄った。

入店しようと扉のノブに手をかけた時、午後十五時を少し過ぎた辺りだったか、甘い匂いが鼻を掠める。


その直後、彼女の背後で呻く声が聞こえた。


彼女は咄嗟に振り向くと、50代位の男性が胸を押さえ、背中を丸めて蹲っていた。


そして一人、また一人と倒れ込む。

既に意識を失っている人もいた。


彼女は男性の背中に手をあてながら、救急に連絡を行う。


震える声で、彼女は風間に言った。


「わたし。わたし、どうすることも出来なくって…」


風間は思わず彼女の手を握り、こう返す。


「ありがとうございます。これ以上はもう-」


彼女は首を振り、風間の手をギュッと握り返した。


「いえ、まだ話せます。あの、話し終わるまで、手、握っていていいですか」


風間はゆっくり頷いた。


一呼吸置くと、彼女は証言を続ける。


外の異変に気付いた女性が、喫茶店の扉から顔を出して様子を伺った。


瞬時に状況を呑み込んだのか扉を閉める。


「喫茶店からその女性の大きな声が聞こえてきたんです。『この中にアカボシがいたら手を貸して』って」


風間は眉根を寄せた。


その表情に彼女は同調する。


「確かに、誉められた言葉ではないですよね」


握る手に力が籠ると、続けた。


「でも、凄かったんです、その女性。男性三人を連れてきて-」


訥々と状況を語る彼女は、衝立をじっと見つめ、こう締め括る。


「何人の方が亡くなったのでしょうか…私の証言を、生かして、伝えて下さい」


カメラのレンズを通して、その女性の一言一句を風間の声が伝えた。


女性の証言を伝える風間のワンシーンは、最高視聴率を叩き出した。

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