第11話  久しぶりの3人


「何をするんだ?」



 晃輔は持って来たトランプをいじくるあおいにそう尋ねた。



「う~んとね……」



 晃輔の質問に対して、そんな曖昧な返事をするあおい。


 手伝いをすると言って突然家に来たと思ったら、あおいの提案で何故か業者さんが来るまで間、晃輔、なな、あおいの三人で遊ぶことなった。


 言いだしっぺである当の本人は、晃輔とななと遊ぶためにリビングでせっせとトランプの準備をしている。



「取り敢えず、ババ抜きやろーって思ってる!」


 

 そう言って、トランプを適当に配り始める。



「オーソドックスだな……てか、まだやるとは言ってないんだが……」


「何言ってるの? こー兄も強制参加だよ?」



 あおいは、何言ってんの、と言いたそうな目で晃輔を見つめる。



「鬼かよ……」



 晃輔は思わずため息をついてしまう。



「まぁ、いいんじゃない? まだ時間あるみたいだし。それに、こうやって三人で遊ぶの久しぶりでしょ?」



 ななはそう言って時計を指差す。


 現在の時刻は八時四五分過ぎ、単純にあおいが来るのが早過ぎる気がする。



「え……ななまで……」



 晃輔の味方がいなかった。


 昔からではあるのだが、ななは妹のあおいにはかなり甘い。あおいがそれに気付いているのかはわからないが。



「じゃあ、決まり!」



 あおいはそう言って、ゲームを始めるのだった。




***




「はい、上がり」

「えええー!」 

「あ、これだと俺も上がりだな」

「嘘! ずるいよ! こー兄!!」

「別にずるくはないぞ。あがり」

「ええー! また、負けー!?」

「ふふ」

「くそー!」

「あおいはわかりやすいからな」

「ええー、ほんとに?」

「ええ、晃輔もだけどね」

「そんなにか?」

「まぁ、あおいほどじゃないけどね」

「だって! こー兄分かりやすいって!」




 そう言ってケラケラ笑うあおい。ななもクスクスと笑っている。


 そんなにわかりやすいのか、とそんなことを晃輔が考えていた時だった。


 ピンポーン。



「お、来たか……」



 時計を見ると、いつの間にか十時を回っている。


 結構長い時間やってたんだな、と晃輔は心の中で内心苦笑した。



「はーい。あおい、トランプ片付けおいて」



 そう言って、ななが玄関の方へ向かう。



「はーい! こー兄! 片付け手伝って!」


「はいはい」



 ななが玄関に向かうのを見届けて、姿が見えなくなった途端、これである。


 こういう、甘え上手なところは、本当に昔から変わらない。



「えへへ~。こー兄ありがとう!」


「どういたしまして」 


 

 そう言って、二人で散らかしたトランプを片付ける。


 すると、晃輔を呼ぶななの声が玄関から聞こえた。



「晃輔ー。ちょっと来てー」


「わかったー。今行く!」



 ななに呼ばれてしまった。



「悪いあおい、呼ばれたからちょっと行ってくる。あとはよろしくな」


「えー! 薄情」


「知らん」



 ぶーぶー文句を言ってるあおいを後にして、晃輔は玄関の方に向かう。


 玄関に着くと、すでに業者さんとななが何やら話し込んでいた。


 すると、玄関に来た晃輔に気づいたのか、ななが晃輔の方へ振り返る。



「悪い、待たせた」



 晃輔がそう言うと、ななは何てことないように告げた。



「大丈夫よ。今から業者さんに家の中に運んでもらうから」


「了解」


「トランプは片付けた?」


「……たぶん?」



 晃輔は、ななの質問に答えられない。

 何故かというと、あおいが、リビングでトランプを片付けているはずだからだ。



「たぶんって……」



 ななは呆れた表情で晃輔を見る。



「あおいー! トランプ片付けたー?」


 

 玄関から、リビングに居るあおいに聞こえるように、大きな声でそう呼びかける。



「片付けたよ! お姉ちゃん!」



 すぐに元気な声が返って来た。


 そして、ドタドタと随分とでかい足音が聞こえたと思ったら、ひょっこりと、あおいが玄関に顔を覗かせた。



「今から?」



 あおいはななにそう尋ねる。



「そうよ」


「あおいも手伝えよ」


「はーい!」



 晃輔にそう言われ、あおいは元気よく返事をする。



「…………大丈夫ですか?」



 話の区切りがつき、ほんの少し間ができたところで、業者さんが話しかけてきた。


 どうやら業者さんは晃輔たちの会話が終わるのを律義に待っていてくれたようだった。



「あ、はい」


「それでは、お願いします」



 そう言って、ななが業者さんに頭を下げたので、晃輔とあおいもつられて頭を下げる。



「お願いします」


「お願いします」


「失礼します」



 ぺこりと一礼して、業者さんは晃輔たちの家に入って行った。


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