第7話  ななの想い(なな視点)


「どうしてこうなったわけ……」



 お風呂の中で、楠木ななは考えていた。


 いや、混乱しているという表現のほうが正しいだろう。



 ななは頭を抱える。

 考えれば、考えるほど、その疑問はなんか、頭の中がごちゃごちゃしてくる。



「あー! もう意味わかんない!!」



 ななが感情任せに水面をおもいっきり叩くことで、水しぶきが上がる。


 跳ねた風呂のお湯が顔面にあたり、ななは若干不機嫌な表情になる。



 どうしたー、と晃輔の心配した声が聞こえた気がしたが、恐らく気のせいだろう。


 そもそも、なんで、いきなり晃輔とこのマンションで二人きりで暮らすことになったのか。



 しかも、最近立ったばっかりのこんな高級マンションに、それも最上階で滅茶苦茶眺めが良い部屋に。


 正直、考えても考えても、意味がほんとにわからない。



 今のななは、ご乱心の状態になっている。



「確か、嶺兄さんがお父さんとお母さんの会社を助けてくれたからって言ってたけど……だからってどうしてこうなるの!?」



 ななは、昨日家に帰ってから母親に言われたことを思い出す。



***



「明日から、晃輔くんと一緒に住んでもらうからね、荷造りよろしくね!」


「え………………は? ゴメン。もう一回言ってくれない?」



 突然のことで、ななは何を言われたのか分からなかった。



「明日から、晃輔くんと一緒に住んでもらうから、荷造りやっといてねって」



 それだけ言って、ななの部屋からいなくなる。



「いや、ちょっと待って! なんで! どうしてそうなったの!?」



 ななは驚きを隠せない状態で、母親にそう尋ねる。



「なんで、どうしてって……」



 ななにそう言われたお母さんは、少し困った顔をしている。



「実はね……」



 お母さんは、なぜ明日から晃輔と一緒に住むことになったのかを、順序立てて、丁寧に教えてくれた。


 お父さんとお母さんがやっている仕事のこと、それがかなり不味い状態であること。



 それをいろいろな事情を含めて、嶺兄さんが経済支援してくれたこと。


 そして、何故か両家の間で話が進み、晃輔と暮らすことになったこと。



 これに関しては、ホントに全く意味が分からないし、理解ができなかった。



「………………」



 話を聞いたななは驚いて目を見開いた。


 どうして、そんな、なんで突然そういう話になるの! 今までそういうの類の話は、かけらもなかったはずなのに!


 ななは、母親の話を聞いてから動揺しっぱなしだった。



「あおいも何か言って!」



 ななの近くにいて、一緒に話を聞いていたあおいにそう告げる。



「えー、別に良いんじゃない! 私、賛成だよ! 荷造り手伝うね!」



 そう言ってるあおいはニヤニヤしていた。ななはあおいの顔を見て何かを察した。


 あ、やられたなぁと思った。



 ふたりともこうなることを知っていたんだ。


 事前通告もなしにひどすぎる……人の気も知らないで。



「はぁ……どうしろって言うのよ……」



 もともと晃輔は私と仲良く遊んでたはずだった。


 それがいつの間にか、疎遠になっていって、妹のあおいの方が晃輔と一緒に遊ぶようになって、気づけばあおいに全部持っていかれた。


 そんな気がした、いやたぶん、それは多分私の思い込みで、実際はそんなことはなかったんだと思う。



 でも、結局、晃輔は私のことを避け始めてたし、私も私で、あいつを意識し過ぎで、話しかけてきたとき、表情が固くなっちゃうことがあったから、仕方ないことだったのかな。


 でも、そんな、特に悪い態度は取ったつもりはない、ないはず……たぶん。



「前みたいに戻れるよね……」



 そう言って、顔の下半分までお湯に浸かる。


 今日だって、頑張って話せてたから、前みたいに話せるようになるはず。


 ななはそんなことを思いながら、それと同時に、これからどうしようかとそんなことを考えるのだった。



 結局、なながお風呂をあがったのは、のぼせて少し気持ち悪くなったあとだった。

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