第6話  夜ご飯


「疲れた……」



 ようやくマンションに帰って来れた、と家に着くなり晃輔はそんなことを思った。


 晃輔は玄関を開けて、リビングのソファに深々と座り、少し休憩する。


 日中は買い物で、色々本当に大変だった。


 十時過ぎに家を出たのに対して、晃輔たちが帰ってこれたのは十八時過ぎ。


 しかし、ななは気付いてないかも知れないが大変なのはこれからなのだ。



「夜ご飯は、パスタにするけどいい?」



 声がする方に振り返ると、なながエプロンを着けてキッチンに立っていた。


 いつの間に、と思わず晃輔は心の中で呟く。

 家に帰って来てからまだそんなに経っていないはずなのに、凄いなと思ってしまった。



「おぅ……」


「なによ?」


「いや、なんでもないです……」



 エプロンを付けているななを見て、晃輔はあることを思い出す。


 ななと料理。



「………………」



 ななは家事音痴であるため、基本的には晃輔がだいたいの家事を行ってきた。


 昔、ななが張り切って作っていた料理は、確かダークマターに近かったような記憶がある。



「ななが作ってくれるのか?」



 晃輔は不安そうな表情で、ななにそう尋ねる。



「何よ? 嫌なわけ?」


「いや、作ってくれるのは、非常に有り難いんだけど……」


「なら、いいでしょ」



 そう言って、ななはパスタを茹で始めた。


 なな曰く、疲れてめんどくさいから、と言う理由で今日の夕食はカルボナーラパスタになった。


 晃輔たちは、鍋やお皿などの、持ち帰ることが可能なものは今日買ってしまい、家電関係は配送をお願いすることにしたのだ。



 キッチンでななが鼻歌を歌いながらパスタを茹でているのを見てると、この状況が家庭を持っているような風に見えて、つい妙な想像してしまった。



 なんか奥さんを持った気分、と晃輔はエプロンを着けたななを見てそう思ってしまった。


 やはり、エプロンを着けた美少女が料理をしているシチュエーションには晃輔の胸に来るものがあるらしい。



「なに?」


「いや、何か手伝えることはないかって思って」


「無いわ……! いや……ある……」


「どっち……?」


「もうできるから、フォークとか準備して。それぐらいはできるでしょ?」


「はーい」



 どうやら、ななにはバレてないみたいなので安心した。


 時々鋭いんだよなー、と思いながら、晃輔は言われた通りにフォークなどを運ぶ。



「どうぞ」



 十分ほどすると、テーブルの上に出来上がったばかりのカルボナーラパスタ並んでいる。



「「いただきます」」



 そう言って、二人はパスタを食べ始める。



「美味しい」


「そ、そお……」


「ありがとな、夜ご飯作ってくれて」


「べ、別に、大丈夫よ。パスタぐらいは作れるから」



 フォークでパスタを巻き取りつつ、ななは若干、不貞腐れながら答える。



「まあ、茹でるだけだしな」



 晃輔は思わず苦笑いする。

 ななは家事音痴ではあるが、どうやら簡単な料理だけならできるらしい。


 そう言ってから、また怒らせたかなと思い、ななの方を見ると、案の定晃輔の方を睨んでいたが、晃輔と目が合うと、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。


「ごちそうさま、お風呂沸かしてくるわ」


「おぅ……」



 そう言って、食べ終わったお皿を片付ける。

 怒らしたかな、と晃輔がそう思ってると何も言ってないのに「別に怒ってないから」と返された。


 

「お皿洗いお願いできる? これから、お風呂入るから。それと、絶対覗かないでね」



「はいはい」



 なながジト目でこっちを見てくる。


 心配しなくても覗かないから大丈夫なのに、信用が無い。


 晃輔がそう思っている間に、ななは、せっせと準備をしてお風呂場に向かっていった。



 最初にも述べたかもしれないが、ななは気づいてるかわからないが、むしろ、大変なのはここからなのだ。


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