第3話  同居生活

 

 桜が舞い散り、ほのかに暖かくなった四月のある日のこと。


 晃輔の目の前にいる同じ高校に通う学校一の美少女であり、幼馴染、楠木ななは朝から大きな声を上げていた。



「早く、ご飯食べ終わって! お皿洗えないから! 今日からゴールデンウィークなんだから! 出かけらんないでしょ!」



 こんなふうに、朝ご飯を食べている晃輔を叱っている。



「いや……ゴールデンウィークなんだからもうちょっとゆっくりさせてほしい」



 晃輔は朝食のパンを食べながらそう返す。


 傍から見たら夫婦のようなやり取りだが、実際はそんなものではない。



 何故こんなことになったかというと、嶺が幼馴染の両親の会社を助けたことにより、どういうわけか、うちの両親とななの両親の間で話が進み、幼馴染のななと同居することになった。



 当事者の意見が全く入っていないことに抗議したい気分である。



 幼馴染の楠木ななは、学校で一番かわいいと言われる美少女である。

 成績は入学以来、常に五位以内をキープしており、スポーツもできる。



 容姿端麗で性格が良いことから、生徒だけではなく、教職員からの信頼も厚い。

 いわゆる、完璧美少女パーフェクトガールである。



 「そもそも、お皿洗えるの?」



 晃輔はため息をつきながらそう尋ねた。




「なっ……! お皿ぐらい洗えるわよ! 人をなんだと思ってるの!?」


「家事音痴かな。はぁ……ほんと不思議だよな。学校では、完璧美少女パーフェクトガールって言われているのに、家だと……この姿を学校の人にも見せてやりたい……」



 確かに、ななは完璧美少女と言っても過言ではないのかもしれない。

 しかし、それは主に学校の時に限るが。



「う、うるさい! 絶対止めなさいよ!」



 そう言って、顔を真っ赤にして叫ぶなな。

 流石の晃輔もこれ以上は怒らせたらまずいだろうと思い、別の話題に移行した。



「わかった、わかった。落ち着いて。ところで話変わるけど、ななは今日どこ行くつもりなんだ?」


「怒らせてるは晃輔なんだけど?」



 ななはそう呟くが、こういう小言にいちいち反応していたら、話が進まなくなってしまうので、晃輔は聞こえなかったことにした。



「とりあえず、今日は買い物ね。嶺兄さんに買って貰った部屋、正直言って何にも無いから」



 そう言って、ななは部屋を見渡す。晃輔もつられて部屋を見渡す。


 本当にになんにもない、というわけではないのだが、ななの言う通り無いに等しいとは思う。



「寝室に備え付けのベットと、リビングにテーブルとソファがあるだけだし。あと、お風呂が使えるっていうのは、ほんとに助かったけど」


「まぁ、確かに……」



 晃輔たちは今、マンションの最上階にいる。

 昨日の急な知らせにより、慌てて荷造りをして、翌日の早朝、六時過ぎに車に乗せられて、嶺が購入したという高級マンションに連れてこられた。


 嶺は、自分が買った高級マンションの最上階を好きに使っていいからと、晃輔たちに譲ったそうだ。

 ちなみに、今食べてるのは、ここに連行される途中でコンビニに立ち寄り、その際に買ったパンだ。


 嶺には家具などはほとんど無い、と事前に言われていたので、お皿は実家から持ってきた。


 その事前というのは、今朝に当たり、あれを果たして事前といっていいのかと思ってしまった。



「だから、今日は買い物ね。だから、早く食べてほしいの。わかる?」



 顔を真っ赤にして叫んでいたさっきとは打って変わって、今はかなり落ち着いて話している。



「はい、はい」


「返事は一回」


「はーい……それにしてもさぁ、まさか、ななが同居を認めるなんてね」



 食べ終わって、お皿を流し台に持っていきながら、気になっていた事を聞いてみる。


 そもそも、この同居の話は親同士で決めたものであって、当然といえば当然だが、ななが拒否すればこの話は無かったことになるはずだ。


 ちなみに言うと、晃輔の時は拒否権なんてないものだと思っていた。



「拒否権なんてあると思うの?」



 晃輔がそう尋ねると、ななは若干、むっとした表情になる。



「じゃあ、やっぱり嫌だった?」


「そんなことはないけど……あんたは……晃輔はどうなわけ?」


「俺? なんとも思わないって訳じゃないけど……別に、嫌じゃないよ。というか、結構楠木家にご飯作りに行ってたから。その延長みたいに思ってる」



 晃輔は淡々とした表情でそう答える。

 今までだって、何度も楠木家にご飯を作りに行ってるからか、正直、あまり苦とは思っていない。



「それは、うん……ありがとう……」



 ななは申し訳なさそうな顔になり、俯いてしまう。



「べ、別に、そういうつもりで言った訳じゃ無いから!」



 晃輔は慌ててそう言い繕う。



「大丈夫、ほんとにいつも助かってるから……」



 そんなにしょげた顔をされると、こちらの調子が狂う。



「うん……まぁ、とりあえず、今日このあとは買い物ね。準備とかするからさ、何時頃家出る?」



 晃輔はそう言うと時計を見た。それにななもつられるようにして時計を見る。



「今、八時五十分過ぎだから、遅くとも、十時過ぎには家を出たいから、準備して!」


「了解」



 朝ご飯を食べ終わった晃輔とななはの二人は、同時に出掛ける準備を始めた。

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