第4話  ななとお出かけ


 買い物に行く準備をすると言うものの、することと言っても、せいぜい歯磨きをして、髪を整えるぐらいなもの。


 服は家を出る前に既に着替えていて、そのままでも、十分問題無い。



「なんか、ななとどこかに出掛けるの久々だな……いつぶりなんだろ……」



 晃輔は、買い物に行く準備が早く終わったので、準備中のななを待つため、リビングのソファに座りくつろいでいる。


 ばたばたと準備をしているななを待ちながら、スマホを片手にそう呟いた。



「何を、一人でぶつぶつ言ってるの?」



 ななは不思議そうな顔で晃輔を見ている。

 晃輔は準備中のななを待つ間、ボーっとそんなことを考えていたら、いつの間にかなながリビングに来ていた。


 そして、どうやら晃輔の独り言が聞こえていたらしい。



「いや、ななと出掛けるなんていつぶりかなーって思ってさ」


「小学生ぐらいだと思うけど? 突然どうしたの?」



 突然そんなことを言い出した晃輔にななは困惑した表情で晃輔を見る。



「まさか、高校生にもなってこうやって二人でどこか行くなんて思わないから」


「まあ、そうね……」



 どこか、困惑と不思議そうな表情が混ざったような、そんな顔をするなな。



 こうしてみると普通に会話できてるよな、と思う。


 学校に居るときは目を合わせただけで睨まれるのに、なんでだろう、とそんなことを疑問に思いながらななの方を眺めていると、視線に気づいたななが晃輔に声を掛けてきた。



「何?」


「いや、なんでもない。ところで、準備できた?」



 晃輔は、何事もなかったかのように話を進める。



「できてるけど……」


「じゃあ、行くか」



 そう言って、晃輔はソファーから立ち上がる。



「ちょっと! 行くかって、どこ行くかわかってるの?」


「家電を買いに行くんだから、まぁ、普通に家電量販店じゃないの?」



 晃輔は玄関に向かいながらそう答える。



「ざっくりね……まぁ、そうなんだど……」



 ななは呆れたように呟く。



「だって、詳しいことはあまりわかんないし」



 あまりにもあっけらかんとした態度の晃輔に、ななは思わず頭を抱える。



「はぁ……先が思いやられる。あおいがもう一人いるみたい……」


「……」



 あおいと一緒にされるのはなんかあれだが、今の晃輔の状態だとそう見えなくもないかも知れない。


 しかし、そんな呆れた顔しなくてもいいと思うんだけど、と晃輔はそんなことを思ってしまった。



「まぁいいや、行きましょう」




***





「混んでるな……」



 目の前の人混みの具合を見て、晃輔は思わずそう呟いた。



「当たり前でしょ……今日からゴールデンウイークなんだから。むしろ、なんで混んでないと思うのよ……」



 晃輔の呟きに反応したななが、呆れを隠そうとせず告げる。

 晃輔たちは、マンションから少し離れたところにある家電量販店に来ていた。


 マンションにあるのは、寝室の備え付けのベットにリビングにソファー、テーブル、椅子があるぐらいで、その他の家電類は自分達が選んで購入しなくてはいけない。

 もちろん、代金は全部嶺に負担してもらうが。



 ただ、今日からゴールデンウイークのため、流石に人が多い。


 タイミングが悪いというかなんというか、ただでさえ家電選びだけでも大変なのに、人混みが苦手なタイプの晃輔からしてみたら二重にしんどい。



「ほら、何ボーっとしてるの? 行くわよ! さっさと終わらせちゃわないと、遅くなるんだけど? それとも、なに? こんな人が多い場所に長時間いるのがご希望?」


「んなわけないだろう……鬼かよ……」



 からかってくるななに対して、晃輔は思わずため息をついた。

 もうすでに疲れ気味の晃輔に、ななは楽しそうな顔で晃輔をからかってくる。


 なにがそんなに面白いのか、全くわからないが、まぁ、なながご機嫌なのはいいことだろう。



 結局この後は、特にこれといった問題はなく、冷蔵庫を含め、家電一式を買い揃えることができた。


 途中、眼鏡をかけた線の細い店員さんがとても親切で、まだ、高校生である晃輔たちの意見をしっかりと聞いてくれて、それに合った商品を提案してくれたので、わりとスムーズにものを決めることができた。



 家電一式を買い終わり近くにあった時計を見てみると、もう既に十三時を過ぎていた。

 お昼ご飯は、近くにあったファミレスに立ち寄った。



 ファミレスでは、晃輔はパスタを頼み、ななはサンドウィッチを頼んでいた。

 そんなので足りるのかと思ったが、これぐらいがちょうどいいらしい。



 晃輔とななは、それぞれ頼んだものを食べた後、二人とも食後のアイスを頼んだ。


 晃輔はシンプルなチョコレートアイスで、ななはイチゴミルクのソフトクリームを頼んでいた。



「美味しい!」



 スプーンでアイスをひとくち食べると、へにゃっと瞳が細まる。


 ななが満足げな顔でそう言うので、何故か晃輔はドキッとしてしまう。



「そっか、良かったな」



 思わず目を逸らしてしまう晃輔。

 学校では基本話すことはないし、いつもとのギャップに動揺しているんだと自分に言い聞かせて何とか取り繕う。



 ななってこんな可愛いかったんだな、と久々に見た幼馴染の笑顔は思いのほか魅力的に映った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る