第2章 修行編4 想定外の実力差 幹中(京一) vs 長谷中(清里)
京一は前方に並ぶ5人を一人ずつ観察してゆく。
猪島に負けないほどガタイのいい5番センター。
小回りが利きそうな4番スモールフォワード。
3番パワーフォワード。
両チームあわせて最も身長の高い1番ポイントガード。
そして、
ひと際端正な顔立ちをして、皆の注目を集める2番シューティングガードの清里。
イケメン。
超イケメン。
身長は京一と同じくらい。
体格も互角。
さらに同じ2番のポジションでぶつかる。
否が応でも自分との差を比較し、比較されてしまう。
京一は拳をキュッと握りしめた。
負けるわけにはいかない。
ピィーーーっ!!
試合開始のホイッスルが鳴る。
先行は京一たちのチームから。
トントン!
味方の4番、寺田がボールをゆっくり回し始める。
タッ!
1番慎二、2番京一が一気にセンターラインを超えて相手陣地深くにまで走りこむ。
トントントン。
タン!
二人の動きを察知した寺田は一気にドリブルで駆け出した。
相手ガードの隙を突いて、すかさず慎二にパスを送る。
パン!
慎二はそれを受け取るや否や、一気にゴール下に駆け込み、リング直下で右手を伸ばして跳躍する。
レイアップシュートだ。
ストン!
ボールはすっぽりとリングに収まり、トントンと地面に転がり落ちる。
幹中の速攻。
慎二「よしっ!」
まずは2点先取。
スコアボードが2枚めくられる。
「うおーっ!」
館内の2階から大きな声が上がる。
まずは慎二の2ポイントシュートが緊張を破る。
次は長谷中の攻撃だ。
タンタン、タンタン。
エース、2番の清里が軽快にボールをバウンドさせながら、周囲の様子を伺う。
流れるようなボール捌きは、まるでそれが身体の一部であるかのようだ。
ドン!
両ウィングから、1番、3番が一気に幹中の守備ラインを突き破る。
寺田「?!
猪島「っ!」
素早いその動きに意識を奪われた二人に隙ができる。
タンッ!
その瞬間、清里が高速ドリブルで一気にセンターへ切り込んだ。
グン!
ゾーンでは、京一が彼を1対1でマークする役割。
京一「速いっ」
思わず口走る。
清里は一気に二人を抜き去り、追いすがる京一をも振り切ると、フリースローラインからノーマークのままゴールリングに向けてボールを放つ。
パスン
ボールはいともたやすく、ネットを揺らした。
長谷中メンバー「いいぞー清里ー!」
相手チームのベンチメンバーから応援の声が上がる。
清里は特に嬉しそうな顔もせず、淡々と次のプレーに備える。
京一「……」
なんて奴だ。
改めて間近で清里を目にすると、得体の知れない凄さを感じる。
これが全国区、いや、国内でもトップ級と呼ばれる彼の実力だ。
京一「……」
グッ。
奥歯を噛み締める。
次は京一がボールをキープしながら相手の隙を伺う。
タンタン!
タンタン!
長谷中「ディーフェンス! ディーフェンス!」
向かい席から大きな声援が聞こえて来る。
長谷中のディフェンスは総じて固い。
ボール回しのままでは攻め込む切っ掛けが掴めない。
リスク覚悟で相手陣地へ切り込まねばなるまい。
幹中「行けー天川ー!」
2階席から京一に向けた声援が飛ぶ。
誰が叫んでいるのかは分からないが、同級生であろう。
京一はその声を合図にドリブルで相手陣地に一気に切り込んだ。
タンッ!
ドリブルしているのに、ボールを持たずに全力疾走しているかのような速度だ。
京一も速い。
グン!
長谷中の3番が寄って来る。
前方では4番と5番が壁になる。
相手を振り切ることができればそのままレイアップシュートを打つ。
ディフェンスのマークが厳しくても、必ずシュートまでもっていく。
京一へ向けたコーチからの指示だ。
コーチは慎二や猪島、寺田、高瀬にも個別指示を出している。
比率は守りが2,攻めが8。
オフェンス(攻め)時は、京一にボールを集めて中央突破を繰り返すこと。
ゴールが決まらなくてもいい。
必ずシュートまでいくこと。
隙があればエリア外から3ポイントを狙うこと。
一方、ディフェンス時は、実力が抜き出た清里を抑え込むためにボックスディフェンスを徹底すること。
抑え込めるに越したことはないが、得点を取られても気にするな。
これがコーチからの共通指示だ。
皆それに従った。
ただし、
1,シュートを決めきれなくてもよい
2.相手に得点されてもよい
この2つの指示だけは違うと心の中で思っていた。
シュートを打てば絶対決めるし、守るなら得点を与えない。
そう心に念じている。
タン!
京一は迷うことなく、高速ドリブルで相手陣地深くへ切り込んでゆく。
清里以外のディフェンスならば、スピードで振り切る自信があった。
相手の3番と4番が京一にまとわりつく。
トン!
京一はボールコントロールしながら、二人の間を抜こうと一気に跳躍した。
パンっ!
だがしかし、二人を抜き去った瞬間、真横からボールを弾き飛ばされてしまう。
京一「え?」
気づいた時にはもう遅い。
高速で接近した清里が、京一のボールをあっさり奪い取ったのだ。
長谷中「行けーっ!」
大きな歓声が上がる。
長谷中1番がボールを受け取ると、そのままゴール直下に走りこむ。
ダッ!
センターの猪島が突進をブロックする。
だがその瞬間、スィとボールは猪島の脇腹を抜く。
逆サイドへの高速パスだ。
パン!
猪島「通されたっ?!」
ボールを受け取ったのは清里。
そのまま2歩バックステップして、3ポイントエリア外に出ると、十分な間合いを確保した。
寺田「ばかっ打たせるなっ!」
清里に間合いを開けられたままの京一に向かって叫ぶ。
京一「!」
慌てる京一は必死に清里との距離を詰める。
だが間に合わない。
トン!
清里は軽くジャンプした状態から、ごく自然なポーズでボールを放った。
パスン
ボールは綺麗にゴールネットを揺らす。
長谷中「しゃーっ!」
声援が響く。
清里にいとも簡単に3ポイントを決められてしまう。
京一「ちっ!」
小さく舌打ちする。
猪島「すまん」
パスを抜かれてしまった猪島が、右手を上げて謝る。
幹中の生徒達「次! 次!」
観客席から声があがる。
コーチは得点を取られても気にするなと伝えた。
でも、気にするな、なんて中学生の彼らには無理だ。
得点されれば悔しいし、焦りも生まれる。
京一「クソ……」
毒づく。
やられたらやり返すまで。
必ずシュートまで持っていき、決める。
得点できなくてもいいなんて思わない。
ゲームメークは2番シューティングガードの役割だ。
タンタン!
タンタン!
京一は再びボールをコントロールしながら、相手の隙を伺う。
まともにドリブルで切り込んでも即座にボールカットされ、形成逆転してしまう。
不用意に攻め込めない。
だがコーチは「切り込め」、「攻め込め」という。
隙をみて「3ポイントを狙え」とも言った。
ならばどうするか?
答えは1つ。
トントントン
京一は2、3度ボールをバウンドさせた後、前方に向かってダッシュする“振り”をした。
ダンッ!
逆サイドを走る慎二へパスすると、自分自身は一気に相手陣地深くに走り込んだ。
長谷中のセンター、スモールフォワードは必然、ボールを持つ慎二に引き寄せられる。
すると京一の周りのマークが手薄になる。
慎二「!」
慎二はすかさず、後方の高瀬にボールをパスする。
パンっ!
高瀬は受け取ったボールをそのまま片手で弾くワンタッチパスで京一に送る。
タッ!
京一はパスを受け取ると、足元のラインを確認する。
両脚は3ポイントラインの僅か外側。
京一「いける!」
クンっ!
その場で跳躍した後、ゴールリングに向かって弧を描くようにボールを放つ。
3ポイント狙いだ。
しかし。
バン!
円弧を描いたはずのボールは、上空で叩き落とされた。
1番(ポイントガード)が高くジャンプし、京一の放ったボールをカットしたのだ。
京一「あっ!」
弾き飛ばされたボールは、いとも容易く清里の手に渡る。
長谷中「行けー! 清里!」
相手陣地から大きな声援が飛ぶ。
清里はボールを受け取ると、最高速度のまま京一達の陣地へ切り込んだ。
グンッ!
寺田も猪島も高瀬も清里のスピードについていけない。
簡単に振り切られてしまう。
京一「くっ!」
タン!
一方、運動能力に優れる京一はマンツーマンで清里の行く手を遮る。
右か、左か、刹那の時間。
京一が清里の出方を待った瞬間、清里は右足を軸に身体を180度反転させた。
クォンッ!
何かが駆け抜けた音がする。
左脇腹を掠めるようにして清里は京一を抜き去ったのだ。
京一「え?!」
一瞬ではあるが、京一の時間が停止した。
背後にはゴールネットが控えている。
このままではフリーで打たれてしまう。
慌てた京一は背中を追うが、もはや遅過ぎる。
清里は悠々と跳躍すると、鮮やかなレイアップシュートを決めた。
7対2
「強ぇ……」
2階席から溜息混じりの声が漏れる。
シュートを決めた清里は、当たり前とばかりの表情だ。
端正な顔立ちである。
なおのことプレーの素晴らしさが際立って見える。
長谷中コーチはパイプ椅子に腰かけたまま、落ち着いた様子で試合の流れを観察している。
格下である幹中との練習試合で本気になる必要は無い。
開始3分を経過したところだが、両校の間には明らかな実力差がある。
コーチ(幹中)「天川っお前がもっと攻め込んで勢いを止めろ! 何度も高速ドリブルで中央から切り込め!」
サイドからコーチの叱咤が飛ぶ。
京一「はい!」
大きく返事するものの、京一は焦る。
このままでは清里に好きなようにやられてしまう。
京一「何とかしなきゃ……」
グッ。
必然、体に力が入る。
こうなってしまうと、肩は固くなり、身体のコントロールが鈍る。
自由に泳ぎ回るはずの京一の両腕は、緊張状態で固くなった脳に捕まってしまう。
故に京一のシュート精度は低下する。
それは他メンバーも同じであった。
格下の相手であれば、心に余裕があるため自分たちのバスケができる。
だが格上となると、メンタル面の弱さがモロに出て、スコアに跳ね返る。
第1クォーターの8分間で幹中は一気に得点を奪われてしまう。
スコアは20対8。
思いの他、両校には実力差があった。
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