第2章 修行編3 蓮華は観に来るのか?ライバルとの練習試合開始


その日は朝から太陽がギラギラしていた。


七夕にはまだ少し早いが、7月に入り梅雨が終わりかけている。

授業は午前中で終了して、午後からは全員帰宅できる。

クラスの雰囲気も明るい。


午後2時から体育館で長谷中との練習試合が始まる。

体育館にはすでに全員がそろっていた。


京一も慎二もユニフォームに着替えて整列している。

コーチがスターティングメンバーの名前を読み上げていく。


「1番ポイントガード、慎二、お前いけ」

「ハイっ!」

慎二が力強く、ガッツポーズする。


「2番シューティングガード、天川、お前な」

「ハイっ」

京一も気合を入れる。


「3番スモールフォワード、高瀬(3年)、やれ」

「ハイっ」

「4番パワーフォワード、寺田(3年)、お前な」

「ハイっ!」

「んで5番、センターは猪島(3年)、お前だ」

「ハイっ」


センターにつく猪島は、チーム内で最も体格が良い。

もともとバスケ部には背丈に恵まれた生徒が入部してくる。その中にあってひと際目立つ強靭な体型をしていた。


3番、高瀬、4番、寺田。

ともに3年生で今度の県大会が最後だ。

もし勝ち残れば全国大会が待っている。

すでに県大会の準々決勝までをこのメンバーで勝ち上がっている。

ベストの布陣だ。

コーチの言葉が続く。


コーチ「今日の相手は優勝候補筆頭の長谷中だ。練習試合とはいえ本気で行け。それで勝ってこい。その勢いのまま県大会を制するぞ」

語気を強める。


「ハイっ!」

皆大きな声で返事する。


コーチ「特に、2番の清里に注意しろ。分かっていると思うが、あいつが長谷中のナンバーワンだ。あいつを自由にさせると得点が量産される。フォワードの寺田とセンターの猪島、お前達で清里を抑え込め」

二人「ハイっ!」


コーチ「でも、まぁ、それだけじゃ抑え込めないだろうから、天川、お前がゾーンで清里を自由にさせるな」

京一「ハイっ」

京一も気合を入れて返事をする。


コーチ「長谷中がオフェンスの時は、天川が清里をマンツーマンでマークしろ。あとの4人はゾーンに分散して均等に守れ。いつも言っているように、ボックスゾーンディフェンスだ。エースが抜きんでている相手の場合は、このやり方で攻撃に耐える」

全員「はいっ!」


コーチ「ボックスの要所は天川、お前だ。清里にスペースを与えるな。自由にさせないためにはどうすればいいか分かってんな?」

京一「ハイっ、守らず攻め込みます」


コーチ「よし、それでいい。お前と慎二はディフェンスの時でも常に攻撃の事を考えろ。とにかく陣地でボールを奪って攻めに繋げるんだ。相手がひるめば隙もできる。清里にディフェンスをやらせろ。あいつを守りに縛りつければ、長谷中の強烈な攻撃力を抑え込める」


長谷中は全国的に名前の通った実力校である。

昨年の国体ではベスト4、県大会では圧倒的な実力を誇り敵無しだ。

これまでの試合でも、相手校に対してトリプルスコアで勝利している。


得点の要はエース清里。

もちろん、清里以外の選手も優れている。

その他の中学校と比較してもあたま1つ2つ抜けていた。


京一は体育館の2階(観客ゾーン)に視線を移す。

蓮華の姿を探すが見当たらない。


京一「……フゥ」

どこかホッとした自分がいて、京一は頭を横に振る。



☆-----☆-----☆-----☆-----☆-----



ゾロゾロゾロ。


程なくすると、対戦相手の長谷中が館内に到着した。

すでにユニフォーム姿である。


総勢20名。

体育館に入ってすぐに、皆1列に整列する。


長谷中メンバー「よろしくおねがいしますっ!」

大きな声とともに一礼する。

礼儀を仕込まれているようだ。

それからコーチ同士が「今日はよろしくお願いします」と握手を交わす。


コーチ(幹中)「控室は使いますか?」

コーチ(長谷中)「いえ、結構です。主だった荷物は、マイクロバスに置いてきたので、選手たちの手荷物だけ、館の奥に置かせてください」

コーチ(幹中)「分かりました。ではあちらをお使いください」

体育館の奥を指さす。


京一「……」

長谷中メンバーを目で追いかける。

ひと際目立つのは中心選手である清里だ。


彼も京一と同じ2年生。

ハーフパンツから伸びた両足は無駄な肉が一切なく、細くしなやかである。

そして足首のあたりできゅっと締まる。

相当な瞬発力を秘めていることが一目で分かった。


ゴクリ。


京一は唾を飲み込む。

ぐ……。

自然と背中に力が入る。


彼を抑え込めるだろうか?

練習試合とはいえ、県大会の今後を占う大切な試合だ。

ヘボい戦いをやってしまうと、決勝どころか準決勝でも負けかねない。


スッ。

京一は、再び2階の観客席を見上げる。

すでに幹中生徒達が大勢集まっていた。

男子と女子で半々といったところだ。

そこに蓮華の姿は無い。

今日は来ないつもりなのだろう。


長谷中の面々は体育館の隅に集まると、コーチの指示を聞いている。

スターティングメンバーは決まっているようだ。

清里含む5人がユニフォーム姿で整列している。

もうすぐ練習試合が始まる。

先ほどまで騒がしかった館内が静かになる。


猪島(5番センター)「京一、慎二、お前らで相手陣地を攻めて清里を抑え込んでくれ。リバウンドは俺が何とかするけど、あいつの攻撃力は俺と寺田(4番パワーフォワード)じゃ抑えきれない」

ガタイのいいセンター猪島が、清里の背中を眺めつつ、京一と慎二に耳打ちする。


寺田(パワーフォワード)「あぁ頼む天川。なるべく清里に俺達の側でボール持たせないようにしてくれ」

京一、慎二「はい、先輩」

二人は緊張した面持ちになる。


高瀬(スモールフォワード)「おい、猪と寺ちゃんで清里抑えきれなきゃ勝てないだろ。後輩二人にプレッシャーかけてる場合じゃないって」

3年生のスモールフォワード高瀬が京一達を気遣う。


猪島、寺田「ああ、そんなことは分かってるって」

スターティングメンバーの5人は互いに見合い、意識を合わせる。

相手は格上の長谷中だ。

いつものような試合をすれば、清里にいいようにやられてしまう。

各々が1段ずつレベルを上げたプレーをしなければ到底勝てないだろう。


今日は自分たちの体育館での練習試合だ。

同級生も応援にかけつけている。

情けない試合はできない。

皆、真剣な眼差しだった。




ピィーーっ




試合を始めるための合図が鳴る。

コート中央に両チームのメンバーが整列する。

全員「よろしくお願いしますっ!」


館内に響き渡る大きな声。

それからチーム内の何人かは、互いの拳をコツンとぶつけ合う。

気合を入れているのだ。


いよいよ練習試合が始まる。

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