第1章 未熟編13 完成、最悪のヒーローここに爆誕!
ドカンっっっ!!!!!!!!!!!!!!
僕の利き腕は、僕の意思の元、寸分の違いなく、キミの釣りあがった口元を打ち抜いた。
ハハハ。
やったよ、とうとう……。
これで僕はお母さんとの約束を破った。
「京一、強い男になりなさい」
強い男は、けして女の子を殴らない。
僕はそう思っている。
でもキミを殴った。
拳にキミの唾液が付着した。
キミの前歯にぶつかったのだろう、皮が破れ、少しだけヒリヒリとする。
僕は涙を流さず泣くコツを知っている。
蓮華の口元って柔らかいんだな。
どこか遠くから僕を眺める僕の意識が、これまで無理やり狭い部屋に押し込め閉じ込めていた僕の誇りを握りつぶした。
「しねっブスッ! オマエが寄ると“おしっこ”クセェんだよっ! いつも威張ってるけど知ってんだぞっ! オマエ寝るときまぁだオムツいるんだってなっ? おばちゃんが買ってるの見たモンね! 汚ったねぇー、パンツぬげよっ、黄色い染みがついてんだろ、ブスっ!」
止まらない。
止めるつもりもない。
僕はキミを傷つける言葉を知っている。
「……え? なに……それ」
キミの時間がピタリと止まる。
小五月蝿い音がようやく止まる。
ああ静かになった。
僕の世界だ。
ストン。
キミの右手から手提げ袋が抜け落ちた。
見覚えのある袋だ。
慎二に渡した赤い包み紙の入っていた袋だ。
その袋を見た瞬間、僕の中で、不安と焦燥と怒りと苛立ちがごちゃ混ぜになって、卑屈な心に麻薬のような恍惚が混じり込んだ。
「お前、知らねーのかっ? 普通は寝るときも学校行くときも同じパンツ履くンだぞっ!」
ハハッ!
そうだっ。
蓮華、オマエはオシッコ臭いんだっ!
「知ってるか? クラスの女子が時々お前のそばに行くとオシッコ臭いって言ってんの」
蓮華、オマエはまだオシッコが我慢できない子供なんだっ!
オムツの必用なガキなんだっ!
何を僕の前で威張っているんだっ!
芋虫がっ!
あぁ気持ちいい。
あぁ本当に気持ちいい。
「やっぱ学校にもオムツ履いてきたほうがいいんじゃねーのクラス委員長さんはさぁ」
そうだ、おまえはオムツをはいて学校に来い。
じゃないと臭いんだ。
オマエの椅子に染み付いたオシッコの臭いが臭いんだ。
「だいたい女のクセに背がデケェんだよっ! オマエほんとは男なんだろっ? しょんべん男女! 気持ち悪ぃんだよっ」
ダンっっっっっ!
キミは唇を強く強く血が出るほどに噛み締めたまま、下を向いて走って去った。
キミの背中が遠くに消える。
これが最後の別れだ。
もう再びは笑顔で会話することもない。
これが最後。
キミに本当の気持ちを伝える最後のときだ。
「二度と話しかけんなっ! ブスッ!!」
最後の言葉をキミの背中に突き刺した。
足元に乱れ崩された 無駄に装飾された赤い箱。
今日は何の日だったろう。
雪解けの歩道 乾いた風 赤い夕暮れ
僕は泣いていたろうか、それとも薄ら笑いだったか。
ヒーローの仮面破れ 怯えた己が顔を出す。
僕は次の日から市内にあるバスケットボールの少年チームに入部した。
慎二と二人で。
これが慎二に提示した僕の条件だった。
キミは笑わなくなった
キミの翼を奪ったものは キミを護るべき筈の僕。
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「ヒーロー、京一のステータス」
1、覚醒までに消費した時間
:9か月間を消費
2,ヒロインの残り時間
:5.5年マイナス9か月間
3,ヒロイン?それとも母親?:
(母)★★★★★★★★★★★0(蓮華)
4,卑屈さ :レベルMAX10へを上昇
5,嫉妬心 :レベルMAX10へ上昇
6,新たに取得したスキル
:ヒロインを殴れる心
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