第1章 未熟編12 ヒーローが絶対やっちゃダメなこと

「それとも何~? 京くん、アレなのぉ~」



キミは厭らしい笑みを浮かべて、僕の全身を値踏みするかのように上から下まで流し見た。

まるで汚いものでも見るかのような目つきで次の言葉を吐き出した。


「バレンタインなのに誰からもチョコ貰えなかったのぉ?」


……。

そうか……。

そうかよ。

そういうことかよ。

わかったよ。


徐々に全身が熱くなる。

血液がたぎってゆく。


キミは知っているんだな。

僕が、キミのことを好きだということを。


当たり前か、クラスの男子全員がキミのことを好きなんだ。

僕がその一人であると思われても不思議はない。

キミはそのことを知っていて、今、こうして、キミの気持ちに沿わない僕を笑いものにしているんだ。


ハハ、そりゃそうだ。

月に住む天女様にしてみれば、僕なんか踏み殺されても見えやしない。

僕の目頭が急速に熱くなってゆく。

先ほどからガチガチと五月蝿かった音は、今、明確な怒りとなって僕の脳幹を支配した。


「それでなんかふて腐れて怒ってんのぉ?」

そうだよ。

だからふて腐れてんだよ。

悪かったな。


「京くん、格好わる~い。なんかぁ、子供みたぁい、あははは」

……

やめろよ、蓮華。

……


「アレだよね~そんなんだから、リレーの選手にも選ばれないしぃ、先生にも怒られるしぃ、友達もあんまいないんでしょぅ?」

……そうだよ。

だから選ばれないんだよ、僕は。

クラスリレーの選手にも、学級委員にも、キミに釣り合う男子にも。


「ほぉ~んと、格好悪い自分を棚にあげて人を責めるなんてサイっテー」

ああ、本当に僕は最低だ。

そんなこと、いまさら言わなくてもいいだろ。

毎日、クラスの皆に散々言われているのをキミだって知っているだろう?

ハハハ。


最低の僕は、最低だから、キミの言葉が理解できない。

そんな綺麗なカオして、当たり前のコトをいうから、理解できない。

やめろよ。

そんな無理して天女の言葉を使うなよ。


キミだって、芋虫の仲間なんだろ?

本当は空を飛べない幼虫なんだろ?

知ってるぞ。

僕は知ってるぞ。

キミの秘密を知っているんだぞ!


「知ってる~? 京くん。クラスの女子が、バレンタインでチョコ渡したく“ない”男子の一番が京くん、キミなんだよ? 皆言ってるよぉ。天川京一って、チビでハニワみたいな顔してるって! アハハっ! ハニワだって~ダッサ。アハハ」


……。

ハハハ。

ホント、ダサ。

ハニワかぁ……。

もっと格好いい男に生まれたかったなぁ。

もっと女の子にもてる男に生まれたかったなぁ。


「モテナイね? キミ」


ぷつん。


頭の奥の奥にある本能の制御線が切れるような音がした。




☆-----☆-----☆-----


「ヒーロー、京一のステータス」


1、覚醒までに消費した時間 

          :9か月間を消費


2,ヒロインの残り時間 

      :5.5年マイナス9か月間

3,ヒロイン?それとも母親?:

(母)★★★★★0☆☆☆☆☆


4,嫉妬心     :レベル5を維持


5,新たに取得したスキル

         :最悪のヒーロー像


☆-----☆-----☆-----

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