第1章 未熟編11 ヒロインからの嫌味に耐えられない
どうして、いるのだろう。
どうして、ここにいるのだろう。
此処は、キミのいる場所でじゃあないはずだ。
この赤い夕暮れは、僕が一人で泣くための場所なんだ。
キミにはもっと明るい場所があるだろう?
こんな寂しい場所にいなくたっていいじゃないか?
トクン、トクン、トクン。
徐々に大きくなってゆく心音が指先にまで伝わる。
体内を血液が激しく循環し始める。
キミは今日、慎二に会ったんだろ?
慎二の告白を受けたんだろ?
赤い包み紙を渡したんだろ?
キミは慎二と一緒に帰宅したんじゃないのか?
その想いは結ばれたんじゃないのか?
なんでこんなところにいるんだよ?
どうして僕を呼び止めたりするんだよ?
胸の中でチリっと火花が散った。
「んだよ……お前、まだ帰ってなかったのかよ」
「……え?」
驚き戸惑うキミの顔。
しまった。
違うっ。
こんなこと言うつもりじゃなかったのに……。
イライラが募る。ひどく居心地が悪い。
頭のなかでガチガチと硬い石のぶつかり合う音がする。
「どけよ、邪魔」
心に反して突き放すような言葉が再び口から出てしまう。
スッ。
キミの顔つきが変わる。
その様子を見届けながら、何故か僕の心は静かに高揚していく。
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃない! 私、京くんに用事があったから残ってたのに!」
学級委員長が問題児を糾弾するかのような言い方だと思った。
頭の中のガチガチがだんだん激しくなってゆく。
蓮華、オマエ、そういうつもりかよ……。
慎二と上手くいって気分がいいのかよ……。
あの手紙の作者が実は僕だと聞いて、僕のことを揶揄いにでも来たのか?
そうなんだろ?
バカにしに来たんだろ?
いいよ、そっちがその気ならコッチだって容赦しない。
「はぁ? 僕はお前に用事なんかないよ」
これ以上僕に近づくなという意思表示をぶつける。
僕の心は何故か止まらず、徐々に高揚していく。
クラスの中心にいるキミに拒絶の意思を示すことが少なからず気持ちいい。
「っ! なんでそんな言い方するかなぁ」
キミの発する言葉の韻に苛立ちが含まれる。
徐々に攻撃性が増してゆく。
いいさ。
「なんでって何だよ? そっちが勝手に待ってただけだろっ」
当たり前の事実を突きつけてやる。
僕を待っていたのはキミだ。
僕に何かしらの用事があったことは明らかだ。
それを知ってなお突き放す。
ああ、心地いい。
「勝手にって、勝手に待ってたら悪いのっ? 用事があって待ってたら悪いのっ? 私が京くんに話しかけたら何か悪いコトでもあるのっ?」
ねぇよ、そんなもん。
何でそんな突っかかってくんだよ。
ほっといてくれりゃいいだろ。
「悪い悪いって何だよっオマエっ!」
ガチガチ、ガチガチ、頭の中で石がぶつかり合う音が鳴り止まない。
くそ!
鬱陶しい!
「そっそんなっ……」
キミの瞳が大きく見開かれた。
その中に怒りの色が見て取れる。
何を怒ってんだ? コイツは。
まだ全然怒るトコじゃないだろう?
バカか? コイツ。
こんな程度で怒るのは慣れてない証拠だ。
今までバカにされたことがないんだろ?
イジメられたこともないんだろ?
自分が世界の中心だとでも思っているんだろ?
クソっ!
腹の底からムカムカしてくる!
「なによっっ! もっと普通に『何?』って聞いてくれてもいいでしょっ!」
普通に?
「何って」聞けって?
はぁ?
バカか?
コイツは、自分の問いかけには誰もが素直に応じてくれるとでも思ってんのか?
あぁ、ガチガチガチガチさぁっ、さっきからウルセェんだよっっ!
なんでそんなに僕にくってかかる?
なんでそんなに怒ってるんだ?!
キミのひときわ大きく、熱を帯て僅かに潤んだ瞳を睨み付ける。
それからキミの口元がニィとわずかに吊り上がる。
☆-----☆-----☆-----
「ヒーロー、京一のステータス」
1、覚醒までに消費した時間
:9か月間を消費
2,ヒロインの残り時間
:5.5年マイナス9か月間
3,ヒロイン?それとも母親?:
(母)★★★★★0☆☆☆☆☆(蓮華)
4,卑屈さ :レベル4から5へ上昇
5,嫉妬心 :レベル5を維持
6,新たに取得したスキル
:拒絶して得られる気持ちよさ
☆-----☆-----☆-----
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます