第5話 マドレーヌ
「お決まりですか?」
「はい。あなたは、決まってる?」
「ええ、決まってる。チーズケーキにセットで温かい紅茶にミルクを添えてください」
「同じで」
「かしこまりました」
テラスに向かって開かれたカフェの窓からは、きれいな青空と緑が見えます。すばらしい眺めにしばらく見とれていると、チーズケーキと紅茶が運ばれてきます。
花柄のティーカップに注がれた紅茶は、透明感のある明るい赤色が印象的で、まろやかな味わいです。チーズケーキは、軽やかな食感で、優しい甘さです。
「ずっと歩いてたから、疲れた?」
「大丈夫、歩くのは平気。奥入瀬渓流、わかる?」
「秋田の奥入瀬だよね、もしかして歩いたの?」
「去年、娘と一緒に。15km歩いたけど、大丈夫だった。三回目かな歩いたの」
「元気そうだね、良かった。昨日、病気で仕事を退職したことを聞いてから、心配していたんだ」
文通相手のさりげない優しさに、胸が熱くなります。きっと、歩いている間ずっと私のからだを気遣ってくれていたのです。
「手術してから、10年。いろいろあったけど、今は元気」
「昔からがんばり屋さんだから、ほどほどにね」
がんばり過ぎて、体をこわしそうな私に、文通相手がいつも寄り添うようにかけてくれた言葉です。
「そうそうこれ、お土産。泊まっていたホテルのオリジナルのお菓子」
「もしかして、マドレーヌ?」
「そう、おいしいのよ。前にいただいたことがあるから」
「あのホテルのマドレーヌ、ほんとうにおいしいよね。ありがとう」
「これ、ランチをしたレストランのお菓子、どうぞ」
「もしかして、マドレーヌ?」
そう言ったあと、二人で笑ってしまいます。
「ありがとう。ランチのデザートがおいしかったから、マドレーヌもきっとおいしいよね」
「前に食べたことがあるけど、おいしかったよ」
お土産にマドレーヌを選ぶところまで同じなんて、どこかで納得している私がいます。
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