第4話 異人館

「お待たせしました」

「ありがとう」

注文した紅茶をカップに注ぎながら、言葉を探しています。

「写真集とアロマオイル、大切にするね、ありがとう」

「どういたしまして」


そのあと、家族や写真、アロマテラピーの話をしていると、閉店時間になります。ホテルのロビーでの翌日の待ち合わせ時間を決めて、別れます。


翌日、有給休暇を取ってくれた文通相手と横浜に行きます。海を見ると心が安らぐと言った私のために、文通相手は横浜を選んでくれます。


山下公園から元町、異人館を一緒に歩いて巡ります。ランチは、創業50年のフランス料理店。ランチを食べながら、30年の間にあったさまざまな出来事を話します。


自分が学んできたこと、子育ての悩み、仕事に対する姿勢、家のリフォーム、これからやりたいことなど話は続きます。


異人館のサンルームがおしゃれで、見とれていると

「この出窓がおしゃれだね」

全く同じことを思っていた私は、ドキッとします。

「どうかしたの?」

私は首を振りながら、答えます。

「変わってないのね」

「あなたも。あまりに変わってなくて、びっくりしてる」

私がほほえむと、こぼれるような笑顔を返してくれます。


ありのままの自分でいられることの心地良さをしみじみと感じながら、夢のようなひとときがさらさらと過ぎていきます。


「カフェで休憩しようか」

「どこのカフェにする」

「この異人館のカフェはどうかな」

思わず、笑ってしまいます。異人館のカフェでお茶をするならここと思っていたのです。

「私このカフェに、来たかったの」

「良かった、じゃあここで」


よくフィーリングが合うと言いますが、言葉にしなくてもわかり合える人は少ないです。もちろん、言葉にしなければ伝わらないこともあります。


「ほんとうにここが良かったの?」

文通相手は心配そうにききます。

「ここの紅茶もケーキもおいしそうだし、眺めも良さそうだと思っていたの。ほんとうよ」

私の言葉を聞いて、文通相手は安心したようです。

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