囚われの王族は恋をする
万愁ミチル
第1話 かごの中の少年
ある日、一人の少年が暗く冷たい石が敷き詰められたような床の上で目を覚ました。
少年は不審に思い、あたりを見渡した。
少年が目にしたのは、黒い鉄格子。
左右どちらに首を振っても見えたのはそれだった。
どうやら少年が寝ていたのは、「部屋」ではなく「かご」だったらしい。
少年はすぐに理解する。
自分は悪い奴に誘拐されたのだと……。
どうにかして抜け出さなければ、どうにかして帰らなければ……。
頭を抱え、一人必死に考える。
しかし、考えても考えても良い案は浮かんでこない。
それでも少年は必死に考えた。
……しばらくすると、かごの外に一人の少女がいることに気が付いた。
少女は不思議そうに少年を見つめていた。
「……な、なに?」
何も言わない少女に、思わず少年は声をかけてしまった。
ここが敵地であることも忘れて。
「アナタが、お父様が連れてきたお友達?」
少女はかごに近づき、目を輝かせていた。
どうやら、少年を攫った奴の娘らしい。
しかし、父親は娘に何も詳しいことは話していないようだ。
まさか敵地で、「お友達」などという言葉が聞こえてくるとは夢にも思わなかった。
しかし少年は考える。
この無邪気で能天気な少女を利用すれば逃げ出すことが出来るのではないのかと。
そう考えると、自然と少年の口元は緩んでいった。
「そうだよ。君は僕とお友達になってくれる?」
ニッコリと笑みを浮かべ、少年は鉄格子の隙間から手を差し伸べる。
「うん! なる! なりたいっ!」
少女は差し伸べられた手を迷わず両手で握り、満面の笑みで答えた。
そんな少女の反応に少年の胸はドキリと高鳴り、同時にズキリと痛んだ。
「……」
「どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ。それより、もしよかったら君のことを教えてくれないかな。知りたいんだ」
少年は胸をおさえ、ニコリと笑った。
そして少しでも敵地の情報を引き出すために、少女と言葉を交わした。
少年は「やってしまった……」と思った。
少年は出会ったばかりの少女。それも、敵の娘に恋をしてしまったのだ。
冷静に考えればわかる。きっと少年が何もしなくても、遅かれ早かれ助けはやって来るのだろう。
そして目の前の少女は知ることになる。
少年と少女の立場の違いを。
その結末が、けっしてハッピーエンドになるはずがないということを……。
被害者であるはずの少年の心が罪悪感で埋め尽くされていく。
それでも少年は行動をやめることは許されない。
そういう、「立場」だから……。
囚われの王族は恋をする 万愁ミチル @bansyu-michiru
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