第2話 娼婦セレネとの出会い
さて、どうしたものか。いきなり異世界に飛ばされてしまった。しかもタイムリープした。ファンタジー要素満載だ。こんな面倒臭いことをするなら元の世界でタームリープさせてくれれば良かったのに。いや異世界に転移した後、タイムリープしたというのは俺の勝手な思い込みかもしれない。実際タイムリープする前に俺が見た風景はいつも通りだった。だが、
「異なる歴史を辿ってたからな。」
そうだ。「ローマの大火」がなかった世界。朝起きた時の世界はそんな世界だった。そしてその後閃光が走ったかと思ったらいつの間にかフォロ・ロマーノにいたのだ。
「何はともあれこれからのことについて考えないとな。」
俺は思考を切り替えて自分の容姿を確認する。寝巻きだ。内側にはチェ・ゲバラのイケメンな顔が描いてあるTシャツを着ている。髪はボサボサ。到底公衆の面前にあっていい格好ではない。だが周りにいる古代ローマ人たちの格好よりは整っているとも言える、、のか、、?
とりあえず俺はコロッセウムから離れて近くの休息に適していそうな日陰に入る。丁度「見せ物」が催されているのだろう。コロッセウムの中からは多くの騒がしい歓声が聞こえた。
「って、何だこれ?糞尿か?」
最悪だ。ヒトのものなのかどうかは分からないがどちらにしても俺の元いた世界の日本は当たり前に糞尿が道端に捨ててある環境ではなかった。さすがは古代ローマだ。順応するまで時間がかかりそうだな。古代ローマの貴族たちは食事の味だけを味わうために食べ物を摂取して咀嚼しては吐き出すということをしていたらしい。食品ロスが問題視されている現代においては言語道断だ。いや、ここでいう現代というのはこの時代から1900年くらい後の時代なんだが、、、ってあれ?
「今って西暦何年なんだろう?」
当然の如く今がパクスロマーナの時代だと思っていた。なんかめっちゃ平和そうだし。コロッセウムがあるということは西暦60年より後だとは思うが。周りの人々の声に耳を澄ましてみる。
「Audivi quod “Nero“ suam festivitatem habiturum sit. Scisne?」
「Rectene est? Obstupesco.」
ん!?今「ネロ」って言わなかったか?、、、まさか今はネロ帝の治世下なのか。だとすればコロッセウムがあることも踏まえると今は西暦60年代と言ったところか。
そんな風に今の状況についての手がかりを得て満足していると、背後から突然可愛いらしい女の子の声が耳に届く。
「I,,,Ignosce! Nonne curas te in corpore meo?」
「えっ」
振り向くとそこにいたのは少し汚れた体に薄い布を纏った15歳くらいの女の子。髪は黒髪だが少し茶色がかっている。彫りの深いはっきりとした顔立ちに伏目がちな濃緑色の瞳の目、オリーブ色の肌にほっそりとした体。でるところはしっかりでているプリティボディだ。
「あ、えっと、キーウィス・ローマーヌス・スム?」
「?」
おっと、突然のことに驚愕の念を抑えられず、ついうっかりかの著名な演説家キケロの名言「私はローマ市民だ」が口からこぼれ出てしまった。俺が知っている唯一のラテン語の文章だ。この言葉は後世、英首相パーマストンや米大統領J・F・ケネディも演説に引用することとなる。何ともかっこいい言葉だ。
っと、それは一旦置いておいて、さてどう反応すればいいだろうか。眼前の女の子はめちゃくちゃ可愛い。俺のどストライクゾーンだ。なので是非お話をしたいのだが俺のラテン語の語彙では会話どころか挨拶すら不可能だ。相手の発言が自動で理解できてしまう魔法があればいいのに、、、
「分かりました、翻訳魔法ですね。」
「!?」
まただ。タイムリープする直前にも聞いたぞこの声。やはり女神様なのか。
「あの、、どうかいたしましたか?」
「!?、、いや、、何でもないです。」
「そ、そうですか。安心しました。」
あれ、この娘、さっきまでラテン語を話していたのに急に日本語を話し出したぞ。しかも俺の日本語も理解してるし。翻訳魔法、、、とんだご都合展開を持ってきてくれるじゃないか、女神様。
「あ、あの。お名前はなんと言いますか?」
「あ、ああ。一だ。海神一。」
「ワダツ、、ミハジメ様、、ですか?」
「ああ」
当然日本人の名前なんて聞き取れるわけがないだろう。それより。
「君の名前は?」
そんな風に問いかける。すると、
「セレネ、です。その、、娼婦を生業にしています。」
「あ、あ〜」
この娘、娼婦をやっているのか。セレネちゃんね。覚えておこう。
この時、俺はまだ思いもしなかった。このセレネとの出会いが俺の異世界ライフの方向性を定めてしまうことに。
世界史オタクの異世界転移〜元の世界の歴史知識を活かして世界平和を目指します〜 @kura37
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