サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホパン
アガタ
ゴゴゴーッホ
サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホ村は今日も晴天であった。
イギリス、ウェールズのアングルシー島で5番目に人口が多いコミュニティであるこのサンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホ村の大通りは、2025年の新年を迎えた人達が行き交い、平和そのものであった。
その平和を破るように、とある家から絹を裂くような悲鳴があがる。
高い声は、少女のものだった。
少女の名前はアン・ゲイブルと言った。
アンは、サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホ村にあるサンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホロースクールに通う三年生である。
「ない!」
アンは食卓の上に乗った皿を指差しながら金切り声で誰ともなく訴えた。
「私のサンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホ村名物、サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホ・パンがない!」
アンは悲しみに暮れた。せっかくおばあちゃんが星形、ハート型、円形の3つパンを買ってくれたのに、3つとも無くなってしまった。
アンは台所にいたお母さん、居間にいたお父さん、庭でハーブを詰んでいたおじいちゃんを呼び寄せた。おばあちゃんもついでに呼んでおいた。
「お母さん、お父さん、おじいちゃん!」
アンは声を張り上げて三人を指差して言った。
「三人がパンを一つずつ食べたのはわかってます!問題は、最初に手をつけたのは誰かってこと!」
三人はばつが悪そうにもじもじしていたが、ややあって話し始めた。
母が申し訳なさげに言う。
「ごめんなさい、小腹が空いていて……でも最初に食べたのは私じゃないわ。私が見た時は、ハート型のパンが残っていて、お父さんが台所にいたわ」
父も喋りはじめた。
「すまない。だが最初にパンを食べたのは俺じゃあない!台所に続く廊下で、おじいちゃんを見た!おじいちゃんのヒゲにはパンクズがついていたぞ!それに俺が食べ始める前、パンは二つ残ってた!」
おじいちゃんが続く。
「わしは、星形のパンは食べてないぞい。ああ、思い出した!お母さんが最後にパンを食べていたのを見たぞ!」
星形とハート型と円形のパンを、最初に食べたのは誰なのだろうか。
そうだ、こう言う時は、推理するのだ!
アンはロースクールの探偵クラブに所属していた。クラブ仕込みの推理力を発揮する時だ。アンはまず家族の証言を整理しはじめた。
お母さんは「私が見た時、ハート型のパンが残っていた」と言った。
お父さんは「俺が食べ始める前、パンは二つ残っていた」と言った。
おじいちゃんは「星形のパンは食べていない。最後に母がパンを食べていたのを見た」
とそれぞれ証言していた。
アンは顎に手を当てて考えた。
お母さんは「ハート型のパンが残っていた」と言っていた。つまり、母がパンを食べた時点では、星形と円形のパンはすでに食べられていた可能性が高い。
お父さんは「パンが二つ残っていた」と言っていた。つまり、父が食べる前にすでに1つのパンがなくなっていたことがわかる。
おじいちゃんは「星形のパンは食べていない」と言い、最後に母がパンを食べていたのを目撃している。
(この証言で、お母さんが最後に残ったハート型のパンを食べたことは確定ね!)
最初にパンを食べた人が食べた後、お父さんがパンが二つ残っている状態を見たことから、お父さんは2番目に食べた可能性が高い。
お母さんは「ハート型が残っていた」と言っているため、最後にハート型パンを食べた。
おじいちゃんは「星形を食べていない」と証言しているため、最初に星形を食べたのはおじいちゃんである可能性が高い。
(最初にパンを食べたのは おじいちゃんだ!)
おじいちゃんは「星形のパンを食べていない」と言っている、だがこれは嘘の可能性が高い。
おじいちゃんの証言は、お母さんが最後に食べたことを強調しており、自分の行動を曖昧にしている。
お父さんがパンを食べた時点で二つ残っていたことから、最初に一つだけ食べた人物がいる必要がある。その人物がおじいちゃんだ。
アンはおじいちゃんをじっとりとした目つきで見た。
お母さんは最後にハート型パンを食べたため、おじいちゃんが最初に星形パンを食べたと考えるのが自然だ。
おじいちゃんの証言が「星形を食べていない」という消極的な表現である点が重要だ。このような曖昧な証言は、隠し事をしている可能性を示唆している。
お父さんの証言で「二つ残っていた」という具体的な情報が、食べた順番を整理する鍵になるのだ。
アンはおじいちゃんに向かって叫んだ。
「最初に食べた犯人は、おじいちゃん!」
「ほう」
おじいちゃんの目が鋭く光る。
「確証はあるのかね」
アンは驚いておじいちゃんを見た。おじいちゃんが続ける。
「アン、本当にそれていいのかのう。例えば、全員が嘘をついている可能性がないとは言い切れんぞ」
「あ!」
アンは声を上げた。その可能性は考えが及ばなかった。
アンは、両手を合わせて、指先を口元に持っていくと再び考えはじめた。
おばあちゃんが、ふっと席を立つ。
おじいちゃんの進言はもっともだ。全員が嘘をついている場合も仮定して……
「いいえ、騙されないわ」
アンはキッパリと答えた。
「だって三人の証言は、互いに補完しあっているよね?みんなの証言は、互いの行動を一致させている!全員が嘘をついている場合、証言に完全な一致や整合性が生じることは難しい!」
アンはおじいちゃんを見た。
「やっぱりパンを最初に食べたのはおじいちゃん!」
「まあまあ、なんてことでしょう」
おばあちゃんが微笑みながら言う。その手には大きなビニール袋がぶら下がっていた。
「バレたか!あっぱれじゃアン!そう、わしが食いだしっぺ……ばあさんに怒られたくなくてのう……」
「あらあら、駄目でしょうおじいさん」
おばあちゃんが、おじいちゃんの額を片手でぺしりと叩く。
アンはおばあちゃんに近寄って、袋の中を覗き込んだ。
「パンだ!サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホパンが沢山!」
「全部わかっていましたよ。それで、みんな食べたいだろうと思って、さっき買ってきたのよ」
おばあちゃんがうふふと笑う。
「さ、みんなで食べましょ、サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホパン」
「わあい!」
家族みんなは食卓についた。アンは、食べられたパンのことをもう忘れてしまったようだ。
こうして、サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホ村の、平穏な日が過ぎていった。
サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホパン アガタ @agtagt
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