第3話 マドンナよライバルよ
「姉さん、私はもう行くね。……走ればまだ先輩に追いつけるかな? 私、頑張るから! 先輩は私に任せてね!」
『いや、え、あの、ちょっと待って! いや、うん、確かにそれはそうなんだけど、まだ死にたてほやほやな私にそんなこと言われても気持ちが複雑すぎて……ニア!!』
そして、私がどれだけ声を上げてもニアに届くことはなく、ニアは走って……ん?
「あら? ニア……」
「あ……え? あ……麗音さん……」
あ……我が親友の
学園一の優等生にして生徒会長にして女帝。だけど、誰にでも分け隔てなく優しくて、私の小さいころからの親友。
いつも「麗音ちゃんを見習いなさい」とかって言われてたけど、それが悔しくないくらい大好きな私の親友。
「美奈にお花……いいかしら?」
「……はい……わざわざありがとうございます」
「……ええ……」
そういえば、ニアにとっても麗音ちゃんは幼馴染だけど、私がいないとあんま二人で一緒にいるところは見なかったかな。
なんだか気まずそうな雰囲気……そりゃそうか……
「……あ……その、私……」
「ふふふ、いいのよ。私もちょっと美奈と話だけして学校行くから、あなたは先に……ね?」
「……はい……」
「あなたもしっかりと……いえ、私もね……」
嗚呼……いつも自信に満ち溢れ、威風堂々とか無敵の女王様とかそんな感じの麗音ちゃんまでこんな弱々しく笑うなんて……
なんか、私が死んじゃってから、ほんと色々な人に……
「おはよう、美奈。妹を泣かせて……ほんっと、お姉ちゃん失格ね、あなたは」
ニアを見送ってから、一人になって私のお墓にデコピンする麗音ちゃん。
はい、反省です。
でも、どうしようもないんだけどね……どうしようもなかったし……
「私もすっかり心にぽっかり穴が開いて……色々と手がつかないわ……『小説も更新停止』しちゃって、読者からも出版社からも生存確認の問い合わせがひっきりなしよ」
『麗音ちゃん……ははは……メンゴ』
おやおや、麗音ちゃんの『隠れ本業』にまで影響を与えちゃったわけか。
これは本当に申し訳ないよね。
麗音ちゃんがそういう仕事をしてるって、私しか知らないかったからな~
「何より……リューマくんのこともね……」
『うん……』
そうだね、麗音ちゃん。私もそのことを身に染みて分かっているよ。
「あなたバカよ……バカよ……この私を差し置いて、リューマくんの彼女になったくせに……私も……あなたならって……諦められたのに……」
『うん………………ふぁ?』
「何がリューマくんのことを頼むよ……あなた……私の気持ちを……私もリューマくんのことを好きだってことを知っていて、あとを託したっていうの?」
『ぬわんだってええええええ!? うそおおおおおお!?』
いやいやいやいや、ええええ!? これまで数多くの男子生徒に告白されてもことごとく迎撃した、迎撃無敵浮沈艦の女帝でもある麗音ちゃんが、リューマくんのこと好きだったの!?
っていうか、麗音ちゃん「も」!?
「ふざけないでよ……なんて遺言よ……それがどれだけ残酷なことだと……」
『いやいや、ほんとそんなつもりじゃなかったんだって。つか、知らなかったし! 私はただト・モ・ダ・チとしてリューマくんを支えてと……』
「でも、いいわ。あなたの親友として……あなたの最後の望みを受け取ったわ。私が彼を支えるわ。悲しみの淵から救い出してみせるわ。彼を生涯に渡って幸せにしてみせるわ……新しい彼のパートナーとして!」
『なんか、メッチャ男前な発言されたけど、なんでさあああああ!?』
待ってよぉ、私はそんなつもりじゃ……そりゃぁ、リューマ君にとってはその方がかもだけど……せめて私が成仏してからにしてよぉ。嫌だよ……
「あら? 麗音さんではありませんの?」
「え? ……あ……リーナ……」
『んあ? あっ、お嬢!?』
なんか頭抱えている間に、特注制服に身を包んだ金髪ロールのハーフお嬢様。
私と同じおバカさんで、成績に関してはいつも二人でビリ争いをして、何だかライバル扱いされていた、リーナちゃん。
私はいつも「お嬢」って呼んでた。
「リーナも、美奈に?」
「ええ……我が好敵手でしたもの……色々とワタクシも思うところがあるのですわ」
「……ふふ……そうなの……あなた……友達思いなのね」
「トモダチ? 違いますわ! ライバルですわ! この高貴な身であるワタクシが、庶民である美奈さんのお友達だなんて、オーッホッホッホ、学年一の秀才もお目々が節穴ではありませんの?」
「あら、そうかしら?」
「ええ、その程度の目と思考では、次の学年末試験ではトップから陥落するかもしれませんわね。オーッホッホッホ!」
そして、お嬢と麗音ちゃんも同じ学年で、お嬢は麗音ちゃんにもライバル意識を持っていた。
まぁ、私たちと違って学年一の秀才と学年最下位争いしていたお嬢ではちょっと……って感じだったけど……
「はいはい。じゃあ、私はもう行くわ、リーナ……」
「あら、そうですの?」
「ええ、あなたも美奈と話を……あ、それと……」
「?」
「……涙で化粧が大変なことになっているから、学校に来る前にちゃんと直すことね」
「ッ!?」
あっ……お嬢も……涙……
びっくりした顔で固まるお嬢。だけど、麗音ちゃんが居なくなるまで、必死に堪え続け、そして……
「泣いてなど……いませんわ……あんな庶民のやかましいおバカさん一人いなくなったぐらい……ひっぐ、さみしぐなんて……ないですもの」
『……お、お嬢……』
「ちょっと……『ゲーム仲間』が減っただけ……まぁ、ワタクシにはゲームを一緒にしたがる人がいっぱいいますので、ぜんっぜん支障は……ない、です、けど……うう」
うんうん……楽しかったよね。
私が偶然知っちゃったこと。大財閥の超お嬢様の趣味……リアルでは内緒だったし、人前では口論したりしてたけど、家に帰ったら光回線通じて死ぬほど遊んだよね……
「ふん。でも……仮にもライバルだった人ですもの……ですから……」
嗚呼、住む世界が違うくら金持ちなお嬢まで私のことを……ほんと私は……私ってば……
「ですから、ライバルであるあなたの最期の願いぐらい……聞いて差し上げますわ……リューマさんのこと!」
『…………』
「リューマさんのことは、ワタクシにお任せなさい! きっと立ち直らせ、そして我が夫として我が家を―――――――」
『って、おめぇもかよこんにゃろおおおおおおおおおお!!!!』
私の彼氏……モテす――――
「うるさ……あんた、お墓で何やってんの?」
「……あら?」
と、その時だった。
あ……
「確かあんた……リューマの彼女の高坂の……お友達だっけ?」
「……あなたは確か病院で……そう、確か他校の……美奈さんのお友達で、リューマさんの幼馴染という――――」
おわっとおおお、きちゃったあああああああああ、赤毛のセミロングのツリ目美人!
私たちとは違う学校だけど、ひょんなことから友達になった女の子。
「そういえば、何だかんだであのときは自己紹介できなかったわね……私は――」
リューマ君のツンデレ幼馴染、
そして、もう私はこの後の展開が手に取るように分かるんだけど!!!!
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