第2話 彼よ妹よ

『いやァ、幽霊って本当に存在したんだね……私がだけど……』


 青く輝く海を見渡せる丘の上にある霊園。

 死んだ私はそこで幽霊として目を覚ました。

 そして、お父さんとお母さんが建ててくれたであろう私のお墓で、私はどうしたもんかと笑うしかなかった。


『君はまだ若いね……』

『あっ、お隣さん、どうもです、初めまして。十六で死んじゃいました』

『それはまた……お気の毒に……』


 隣の墓石に座っているおじさんに挨拶された。その人も幽霊みたい。

 以前までなら幽霊なんて本当に存在してたら大声出して逃げ回ってたと思うけど、今は私が幽霊。

 人間っていうのは本当に驚いたら逆に冷静になっちゃうのかもね。

 と、その時だった。


「おはよう、美奈」


 幽霊の私に声がかけられる。

 誰? って!!???


『ふぁああああああああ、リューマくん!?』


 制服姿で、これから登校すると思われるリューマくんがそこに立っていた。

 え? 私のことが見え――――


「変な感じだよ……今日から学校に行っても君がいないだなんて……君がもう……どこにもいないなんて……信じられないよ……」


 そう言って、綺麗なお花を私のお墓に供えてくれるリューマくん。

 あと、私が大好物のヨーグルト牛乳も。

 お供え……あっ、やっぱり見えてないのか……そうか……お墓参りに来てくれたんだね。



「君は僕に忘れちゃえとか言ってたけど……ムリだよ……忘れたくても忘れられないんだ……忘れたくないんだから、なおさら忘れることなんてできるはずがない」


『ッ、リューマくん……』


 

 微笑がら私のお墓に話しかけるリューマくんの瞳には涙があふれている。

 その涙を見た瞬間、胸が本当に締め付けられた。


「実はさ、君に教えてもらったエンタメの数々……色々と勉強してたんだ……ぶいちゅーばーとか、かおう系小説とか、あとはゲームとか……こすぷれという仮装はまだ至っていないが……君の好きなものを僕も勉強して、一緒に楽しみたいって……」


 苦しい。


「昨日も徹夜で君の好きだった推しというものの過去の配信を見て楽しかったよ……小説も、ゲームの動画も……その感想を伝えようと思ったら……君がもういないんだと改めて思い……知らされ……て……」


 私はもう死んでるのに……胸が苦しいよ……大好きなリューマくんにこんな顔をさせたくない……


「ごめん。僕としたことが情けなく弱音を……また……来るよ――――」


 どうしたらいいのかな?

 ってアレ? 向こうからまた誰か……あ……


「先輩……」

「ッ、あ……あ……妹さん」

 

 あっ、ニア。

 我が愛おしの妹、高坂仁愛こうさかにあ

 私の可愛い妹まで、こんな朝早くから私に会いに来てくれたんだ……


「あの、先輩……姉さんに……」

「ああ……ちょっと挨拶をって……」

「そうですか。姉さんも……喜んでいると思います」


 そう言って切なそうに微笑むニア。でもその目元は赤く腫れてる。

 きっと、私のことで泣いてくれてたんだろうな。

 私と違って頭も良くて、背も高く、清楚で美人で、何よりもオッパイ大きくて彫刻みたいな完璧体形で、本当に妹かよと色んな人に言われるぐらいのハイスぺボディ!  

 性格はちょっと大人しい所があるけど、私の自慢の妹。

 実は私とリューマくんが恋人になった時、学校のみんなは私とリューマくんじゃなく、リューマくんとニアが付き合ったって勘違いしちゃったらしく、お似合いの二人だとかすごい盛り上がってたな~


「その……先輩は……大丈夫ですか?」

「ん?」

「その……あの……」

「大丈夫じゃないけど……でも……ね……それに……妹さんの方こそ……」

「……はい……」


 私の大好きな二人。

 でも、その二人が私のお墓の前で共に切なそうに微笑み合っている。

 ますます私の胸が苦しくなる。


「それじゃ、妹さん。僕は先に行くから……」

「……はい……あっ、先輩!」

「うん?」

「……また……来てくれますか? そして……姉さんがいなくても……たまに……私とも話をしてくれませんか? これからも、その―――」

「当たり前だよ、そんなこと。だって……僕たちしか……美奈のことで泣いたり……楽しかったことを振り返ったり……できないのだから」


 そう言って、リューマくんはその寂しそうな背中を見せながら行っちゃった。

 あとに残されたニアは、その背中をジッと見つめて、そして私へ振り返り……


「姉さん、良かったね……先輩が朝早くから会いに来てくれて……」


 うん。嬉しかったよ。でも、苦しかった。


「あんな素敵な先輩にこんなにも想われて……姉さんは幸せ者……だけど、本当にお似合いだって思ってた……姉さんと先輩は」


 お似合いか~、そう思ってた人ってあんまりいなかったかもだね。

 このハイスぺシスコンな妹は私のことをいつも過大評価してたからな~。

 でも、そんな私とニアではスペックに差があるのに、ニアは本当に私のことを慕ってくれたし祝福してくれた。

 それが本当にうれしくて、私もニアのことが大好きで、リューマ君と付き合うって教えたら、ニアは少し寂しそうな顔をしてたけど、すぐに祝福してくれた。

 大好きなお姉ちゃんが男に取られた~って思うくらい……


「でも、先輩の気持ちを考えると……苦しいよ……悲しいよ……姉さん……姉さんのバカ……どうして……どうして死んじゃったの!」


 いつもは清楚で落ち着いて、他の人から見れば私なんかよりずっと大人びていると思われているニアも、やっぱり私にとってはまだまだ子供な妹。

 誰も居ないとこうやって感情出して涙を流してくれる。


『うん。ごめんね……』

「姉さん……私ね……私も……リューマ先輩のこと……好きだったの」

『うん……うん……ん!?』


 うん……え? は? 


「実は姉さんに紹介される前に……先輩に会ったことがあって……そのとき、私が困っていた時に助けてもらって……」


 ちょ、待て待て、ヘイ・シスター! 何を言ったのだね!? お姉ちゃんの彼氏であるリューマ君をニアも好きだったぁ!? マジぇ?!

 つか、知らないところで助けてもらったって、何そのギャルゲーイベント!?

 全然知らなかったんですけどー!


『姉さんとリューマ先輩が付き合いだして……ちょっと悲しかった……でも嬉しかった。姉さんも先輩のこと大好きだって知ってたし、先輩も姉さんのことを……だから、私の好きな二人が結ばれてくれたって……先輩の相手が姉さんなんだったら、私は引き下がって祝福しようって……』


 ちょっと待てぇ! 私がリューマ君と付き合った時にあんたが見せた寂しそうな顔は、大好きな私が男に取られた寂しさじゃなく、自分の好きな人が私と付き合っちゃったからかよ、もしかしてぇ!

 まさかニアがリューマくんのことをだなんて……うそ……私、リューマくんとのことをニアに色々と相談して、それをニアはいつも親身になって聞いてくれたけど、本当は……



「でもね、姉さん。今、先輩と会って……先輩のあの痛々しい顔を見て……私……決めた……」


『……ん?』


「姉さん言ったよね? 先輩のことを頼むって……」


『え? う、うん……言ったけど……』


「私が先輩を支えるよ。先輩を立ち直らせてみせる。私が先輩の傍に居る。姉さんの代わりに……私が先輩を幸せにするよ! これから……ずっと!」


『……ん? ……うぇええええええええええええええええええ!?』


「先輩はステキな人……いつか立ち直って……新しい恋を見つけるかもしれない。でも、姉さん以外の人が隣になんて……私……嫌なの。だから……私が先輩の隣に立つから!」


 

 いや、いやいやいやいやいや? え? 

 まさかの最愛の妹から、私の彼氏寝取り宣言? 

 あの『外』では大人しく、ギャルゲーやラノベで言うなら窓際で難しい本を読んでそうなクール系ヒロインっぽいニアが、なんて大胆なことを私のお墓で宣言しとるの!? 

 こんなのNTRだよ!

 いや、私はリューマくんと寝たことないけども、私にその性癖はないぞぉ!?

 ニアがリューマくん好きだったってだけで驚いたのに、まさかの恋人になる宣言?



「だから……私……『Vを引退』しようかなって考えてるの……今まで姉さん以外には内緒で活動してたけど、これからも配信続けてたら忙しくて時間もあまりないし―――」


『って、ちょっと待てぇええええ、寝取るだけじゃなくて、『そっち引退』とか待って待って待って! あんたはというか、そっちは私の推しで、推しの引退とかサラリと――――』


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