第2話【転生の女神】
「ん、んん……」
ナイフで刺された深手が原因で意識を失っていた俺が目を覚ます。それは何故か清々しい目覚めだった。背中の傷も痛まない。
いつもなら寝起きが悪い俺なのに今回はビシッと起きられた。このぐらい毎日すんなり起きれたのならば母ちゃんに迷惑を掛けないで済むだろう。
「あれ、ここは?」
俺が目覚めると知らない場所に立っていた。不思議な事に俺は立ったまま眠っていたようだ。唐突に夢遊病でも発症したのだろうか。少し不安になってくる。
「風……?」
周囲を見回してみれば、そこは草原だった。見た事が無い景色である。空を見上げてみれば清々しい青空が広がっている。燦々と照らしてくる太陽光が温かかった。
そして、草原の向こうに綺麗な山脈が連なって見えた。そこは日本の景色とは思えないほどに美しかった。まるでアルプス山脈の景色である。見事な大自然が超フィーバーしていた。
草原の草花が微風に煽られ揺れていた。その草が靡く音に心地よさを感じられる。
「あれ、なんで?」
気が付けば俺は全裸だった。パンツの一つも穿いていない。そのような姿で草原の真ん中に立っていたのだ。太陽の光が温かく感じられるのも無理はないだろう。だって俺は全裸だったのだもの。
それに腰からの出血が止まっていた。いや、刺された傷も塞がっている。それどころか傷跡すら残っていなかった。
俺は不思議だなっと首を傾げながら呟いた。右の乳首を指先で軽く撫でる。
「どうなってるんだ、こりゃ?」
呟きながら俺は周囲を見回した。しかし、俺の周囲には着替えの類は置かれていなかった。
全裸が恥ずかしくはなかったが、パンツぐらいは穿きたかった。だが、無いものは仕方ない。しばらくはフルオープン全開で過ごすしかないだろう。
「あ〜、チンチンが痒いな……」
俺がキャンタマの裏側をボリボリと掻いていいると草原の中央に人影を見つける。
「んん、誰かいる?」
白い丸テーブルに洋風の椅子。その椅子に腰掛けるは白いドレスの金髪女性。白いパラソルを建てて日差しを避けていた。
金髪だからと言ってレディースのヤンキーではないようだ。白人の外国人風だった。
年の頃は二十歳そこそこに伺える。スマートで美人っぽいが、項垂れながらテーブルに肘をついて俯いていた。蜂蜜色の長髪がテーブルの上で無造作に散らばっている。なにやら気分でも悪そうだ。
俺は全裸のまま女性の元に歩み寄る。
彼女のドレスの脇から覗く脇乳が大変ながら気になった。ちょっぴり匂いを嗅ぎたいものである。
「あの〜、こんにちわ〜。すんませんが〜、ここはどこでしょうかね〜?」
「……」
俺の挨拶&質問に女性は応えてくれない。女性は気分が悪そうに項垂れたままだった。
これは背中でも擦ってやったほうが良いのだろうか。
なんか体のラインは細くてスレンダーだから少し触ってみたいと思うけれど……。
でも、勝手に触れたら怒られそうで怖い。もしかしたらセクハラで訴えられるかも知れないから背中を擦るのは辞めておこう。
「すんません……」
俺が再び声を掛けると項垂れたままの女性は視線だけを俺に向けで睨んできた。その眼差しの下には不健康そうな隈が見て取れる。顔色も悪い。態度も悪い。
「あー……。なによ、あんた。もう来たの……」
消え去りそうな弱々しい声色で述べる女性は丸テーブルの上に倒れ込むように上半身を崩す。そして、腕で顔を隠した状態で話を続けた。
「えーっと、貴方は死んでしまいました。だから異世界転生をしてもらいます。わかったらさっさと行って……。消えろ……」
やる気の無い口調で言う女性。しかも棒読み。決められた内容を決められた通りに伝えてきたと言った感じであった。
「あの〜、意味がわからんのですが……」
そう俺が問うと助成が頭を上げた。そして、木にぶら下がったまま死んでしまったナマケモノのような眼差で俺を見つめながら言う。
「ウザったいな……。あのねぇ、私は二日酔いで、今、とっても辛いのよ。静かにしてもらえない。だからさっさと異世界転生して、私の前から消えてくれないかな」
「何を言ってるんだ、このねぇちゃんは……」
「ちょっとあんた、女神様相手にねぇちゃん呼ばわりは無いんじゃないの。失礼極まりないわよ」
「あんた、女神なんかい……。随分と俺が思い描いている女神像と違ってるな。幻滅級の第一印象だぞ」
「この麗しい女神様を相手に勝手に幻滅しないでよね。プンプン」
「なんだよ、具合が悪いのか。生理の日か?」
「違うわよ。二日酔いだって言ってるでしょう」
「女神って二日酔いに成るんだ」
「昨日、クソ上司の送別会ではしゃぎ過ぎて今日は辛いのよ……」
「女神が酒に飲まれるな」
「だってクソハゲ上司がやっと定年退職で職場から消えてくれるのよ。こんなにめでたい事を酒を飲まずに祝えるかってんだ」
「女神なのに汚い本音をただ漏らしすんな」
「だってだって、本当に嬉しかったんだもん。あのクソハゲデブ上司が消えてくれたんだもの、ハッピーじゃん」
「お前はちょっとは本音を慎め。マジで口が過ぎて職を失いかねないぞ……」
俺が堕天を気遣ってやっていると女神は話を変える。
「そんな事より、早く行きなさいな。ウザったい……」
「どこに?」
すると女神が草原の先を指さした。そこには一枚の扉だけが立っている。
「何処でも扉か?」
古風で洋風の扉。枠斑の装飾が豪華で手が込んでいた。扉だけだったが高価そうである。
「それが異世界への入り口よ。分かったらとっとと行く。行かないならチンチンもぎ取るぞ」
「怖え〜事を言うな、この女神様はよ……」
これ以上酔っ払いに絡まれたくなかった俺は扉に向かって歩き出す。
扉までの途中で振り返って見てみれば、女神様は項垂れたままだった。こちらを気にする様子すら見せていない。職務怠慢だと思う。
「まあ、とにかく扉をくぐればいいんたな」
俺は何の疑問も持たずにドアノブに手を伸ばす。そして、扉を開いた。開いた扉の向こうは目映い光の世界。純白の景色だった。
それでも俺は何一つ疑問を抱かず先に進む。それから数分歩き続けた。純白の世界の中を何も考えずにひたすらに歩いた。そうすべきが正しいと思い込みながら。
「なんで俺は、こんな場所を歩いているんだ?」
そう俺が疑問を抱いた瞬間に、辺りに景色が浮き上がる。純白だった世界に色が付き始めた。
「今度は、なんだ?」
純白の世界から別の場所に出たようだ。
「ここは、どこ?」
周りは草原だが、ところどころに岩山や森が伺えた。先程の草原よりは荒々しく見えた。その谷間に舗装されていない道が一本伸びている。その道は前方数百メートル先にある町に繋がっていた。
「町?」
町には背高い外壁が聳えて見えた。岩を切り出した物を積み重ねて作られた城壁のように伺える。おそらく30メートルはあるだろう。その先にヨーロッパ風の家がいくつも見えた。壁の向こうに町が広がっている様子だ。
更にその町の先に城まで見える。高台の上に四角い岩のブロックで築かれた要塞が建築されていた。
それらは日本人の俺からしてみればファンタジーの景色。見たまんまでヨーロッパの風景である。
「俺、マジで異世界転生しちゃってるのか?」
驚きながらもチ◯コの位置を整える。
信じがたいが、どうやら俺は本気で異世界転生してしまったらしい。
これは、ラッキーなのか、不運なのか?
それは時期に判明するだろう。
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