異世界DQN
真•ヒィッツカラルド
第1話【生前の記憶】
俺は世に言うところの不良少年である。小学生のころから聞かん坊でやんちゃだった。
小学生低学年では女子のスカート捲りに情熱を費やし、高学年からは喧嘩にプライドを掛けて暴れ回っていた。
しかし、中学からは歯向かってくる奴も居なくなり、喧嘩にも飽きたのでゲームにハマり始める。
アクションゲーム、ロールプレイングゲーム、シュミレーションゲーム、パズルゲーム、恋愛ゲームといろいろ嗜んだ。エロゲーも夜な夜な嗜んだ。
そのような中でも格ゲーは人一倍練習したと思う。でも、大会に出れるほどの実力ではなかった。世界は広い。強者も多かったと知る。
そして、高校生に進学すると、再び喧嘩三昧の生活に戻る。いろいろな地域から集まってきた強者たちが周囲に増えたからであった。
俺は小さな頃から根性だけは座っていた。でも、身体のサイズが少し小さかった。身長が164センチしかなく、体重も67キロしか有していなかった。
高校生レベルの喧嘩になると体格差で勝敗が大きく決まる。相手が身長180センチで体重が100キロを越えてくると強敵なのだ。そんな奴らが何人かいやがる。もっとデカイ野郎も居やがった。
それに、いろいろな地方から集まってきた猛者たちの中には武道を嗜んでいる者も少なくない。空手や柔道、ボクシングやアマレスなどを使う輩もそれなりに混ざっていた。
中学生時代をゲームに費やしてきた俺では、もう敵わない相手が多くなっていた。根性一つだけではどうにもならない差がついている。体格、筋力、技術もレベルが足りなかったのだ。
そして、喧嘩に負ける事も珍しくなくなった。
だから俺は喧嘩で一番を取るのを諦めた。そこからは他の不良たちと仲間になって学生時代を楽しく過ごす事に決めた。不良たちでグループを作って過ごしたのだ。
世界は広い。何かで一番を取るのは難しい。喧嘩最強を夢見た俺の青春は、呆気なく挫折した。
でも、不良少年たちで集まったグループってのも面白かった。そんな中でも俺には俺の役割が出来ていたからだ。
喧嘩では一番強くはなかったけれど、根性が座っている事で実力はグループの中でも認められていた。それに俺は悪知恵が回るほうだったから参謀的な役割を任されたのだ。
だから俺の目標は、仲間たちを不良界で一番の最強グループに押し上げる事に変わったのだ。目標が個から多に変わる。裏方となった。
そして、日本最強を目指して走り出した青春。今日も今日とで喧嘩に明け暮れる。
「おらッ、死ねや!」
「調子くれてんじゃあねえぞ!」
「うらぁ!!」
場所は河川敷、人目に付きにくい橋の下で、俺たちは隣町の不良グループと団体戦の喧嘩中だった。
人数は二十人対二十人。戦力は五分五分。中には木刀や鉄パイプで武装している阿呆な者も居る。
だが、俺は非武装。武器なんて持っていない。素手である。
喧嘩は素手ゴロが基本。相手が道具を持っていても素手で戦うのが美しい。それが男らしさだと俺は思っている。美学とは人生設計で大切な課題であろう。
「このアホンダラ!」
「ぐはっ!」
俺の顔面パンチが炸裂した。殴られたヤンキーの前歯が吹っ飛び宙を舞う。
「全員気合い入れてけよ!」
「おおーーーー!!」
「舐めんじゃあねぇぞぉ!」
紛争は俺たちのグループのほうが優勢だった。そのまま根性と勢いで押し切る。
「だぁーーー!!」
「よっしゃあ!!」
十分程度続いた喧嘩が終わる。喧嘩の軍配は俺たちの勝利で終止符を打った。敵だった連中は動けなくなっていた者たちに肩を貸して逃げていく。
「くそ、覚えてやがれよ!」
「やったぜ、俺たちの勝ちだ!」
「ヒャッハー!!」
俺が勝利を宣言すると仲間の一人が俺の背後から話しかけて来た。その言葉には驚きと戸惑いの色が混ざっていたのが良く分かる。
「おい、お前……」
「なんだ?」
俺が振り返ると仲間の一人が目を丸くさせながら俺の背中を指差しながら言う。
「背中に、ナイフが刺さってんぞ……」
「え、マジで?」
俺が恐る恐る首を反らして背後を見てみると、腰の辺りにナイフが一本刺さっていた。傷口からは少し血が流れ出ている。
「あ〜……」
喧嘩でアドレナリンが分泌されていたから痛みを感じていなかったのだろう。刺された事にも今の今まで気付いていなかった。
「や、やべぇ。さ、刺されてるじゃん……」
一瞬で俺の背筋が凍り付く。顔が瞬時に青く変わっていった。
「い、痛え……」
ナイフが刺さっていると言う現実を目視で確認した事でダメージを感じ始めたのだ。急に全身が痛みで痺れだす。
「大丈夫か、今抜いてやるぞ!」
「馬鹿、抜くな……」
俺が抜くなと言うよりも早く、そいつは俺の腰からナイフを引き抜いた。すると傷口から大量の鮮血が噴き出る。それはまるで逆さまにした樽の栓を抜いたかのように勢い良く吹き出ていた。
「あわあわあわ……」
俺が慌てて手で傷口を押さえるが吹き出し始めた出血は止まらない。手の平の隙間から溢れるように血が流れ出てくる。すると俺の足元が赤く染まっていった。
「やべぇ、止まらね……」
どんどんと顔から血の気が引いていくのが分かった。足腰にも力が入らなくなり尻餅を付いてしまう。
「大丈夫か、今救急車呼んでやるからな。誰か110番に電話しろ!」
「馬鹿か、救急車は119番だ!」
「やべぇ、スマホの電池が切れてる。誰か代わりに電話してくれ!」
「すまん、俺今日スマホ持ってきてないわ。喧嘩するって言うからさ、失くしたくないから家に置いてきた!」
「俺はスマホを持ってきてるけど使用料払ってないから通話が止められてるわ!」
「ああっ、俺スマホを何処かに落としちゃった。皆、探してくれ!」
「おっ、百円みっけ!」
「金を拾ってる場合かよ。取り敢えず、穴を塞げ!」
「石でも詰め込めば良いのか!?」
「穴塞げって、なんかエロくね?」
「馬鹿か、そんな事を言ってる場合かよ!」
仲間たちが馬鹿げた感じで騒いでやがる。そんな中で俺の体がどんどんと寒くなっていく。地べたに座ってるのも辛くなってきて俺は横向きに倒れ込んだ。
「ぁぁ……」
目が霞む。瞼が重い。周りの声も聞こえなくなってくる。なんだか眠気が襲ってきた。
俺、死ぬのかな――。
これが死ぬ寸前の感覚なのかな――。
俺の人生って呆気ないな――。
童貞ぐらい卒業してから死にたかった。それだけが心残りだった。
やがて俺は、意識を失う。
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