第3話

 補給基地アルファを飛びたって数日後、レッドスター軍拠点ハイランドにアーサーの姿はあった。


「アーサー隊長、救援部隊の到着は一月後という連絡がレッドスター本国から届きました。本国のやつらは怠慢であります」


拠点ハイランドの所長のセームスは苛立ちながら言った。


「そう言ってやるな。ライル総帥が亡くなって指揮命令系統が滅茶苦茶になっているのだろう」


アーサーはセームスをなだめる。


「しかしですな……。それとバッソから報告が入っております」


アーサーは身を乗り出してセームスの報告の続きを待った。


「補給基地アルファでブルータスが捕捉されてしまいました。このため、新型巨大戦艦レクイエム撃沈事件を追って、グリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーが動いております。お気を付けください」


その話はもう報告済みなんだがな。その後に報告がないということはバッソに何かあったのか。グリーンムーン軍揚陸艦といえばあの時の艦か。あの救助船にはアイルの気配を感じてあの時は見逃したが。因縁を感じるな。


そう思いながらアーサーは言った。


「了解。で、バッソの現状は?」


「実はそのチャレンジャーに潜入しています」


セールスはそうアーサーに耳打ちした。


なるほど、だからその後の報告が入ってきていないのか。



 レッドスター軍諜報員バッソがグリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーに潜入していることを知ったアーサーは拠点ハイランドの所長セームスに対して、バッソへの伝言を残す。


「次にバッソから通信があった場合には揚陸艦チャレンジャーにアイル・チャールストン副長が乗船しているかどうか調査するように伝えてくれ」


「それだけでよいのですか?」


「バッソなら大丈夫だよ」


セームスとひとしきり話をした後、アーサーは立ち上がって言った。

 

「わかった。しばらく考え事をしたいから一人にしてくれ」


 アーサーは一人横になり思いにふける。

グリーンムーン軍の攻撃隊と遭遇した際に空母から何人かを救助していたはずだが、

今まで何も連絡をしてこないということは、アイルは救助されなかったのだろうな。

アイルであればどんな手段でも連絡をとってくるはずだ。アーサーは悲しみのあまり目頭を熱くしていた。そのまま深い眠りに落ちていった。


アーサーは夢を見た。幼き頃のバーンズ家の別荘の近くにあった泉だ。そこに、小さな少女がいた。

少女? 

よく見えないがなんとなく少女だと感じた。

少女はなにか言っているようだが、声が聞こえない。周囲の音は聞こえるのに、なぜか少女の言葉だけが聞こえない。



突然鳴り響いた警報の音でアーサーは目覚めた。


「敵襲!! 総員、第一種戦闘配備につけ」


緊急のアナウンスが鳴り響く中、アーサーはパイロットスーツに着替え指令室へと向かった。


「ブルースター軍巡洋艦です。なぜ、ここを周回しているかは不明ですが、敵艦はここから視認できる位置まで近づいています」


指令室に入るとセームスはアーサーに報告してきた。


「私がホワイトウィングで出撃する。うろたえるな。部下たちに気取られるぞ」


そう言い残し、アーサーはホワイトウィングに向かった。


「アーサー・バーンズ。ホワイトウィング出撃する!!」


ホワイトウィングは爆音を残し、漆黒の闇に飛び立っていった。


ブルースター軍がここに来る理由は大体検討がつくが、なぜ巡洋艦が単独行動でレッドスター軍拠点に攻撃を仕掛けてくるのだろうか。わからないが、連合軍やグリーンムーン軍との連携があるのかもしれない。もしかすると、バッソの情報通りならグリーンムーン軍揚陸艦チャレンジャーとの連携ということもありえるのかもしれない。


そんなことを考えていると、ブルースター軍巡洋艦が見えてきた。アーサーは一気に加速し巡洋艦を一撃で撃沈させた。拠点ハイランドに帰還しようとした瞬間、あることを思い出した。


確かあの時もこんな風に敵艦を撃沈させた後だった。そういえば、あの時も揚陸艦チャレンジャーだったな。


そこか!!


アーサーは拠点ハイランドに背を向けて加速していった。


黒のホワイトウィングだ。やはり、ホワイトウィングは実戦投入されていたのだ。


アーサーはさらに敵攻撃隊を発見した。

攻撃隊の一団を見た時アーサーはゾッとした。ホワイトウィングが四機編隊でこちらに突っ込んできているのである。だが、明らかに動きが手練れのそれと違うと感じ、ブルータスの言葉を思い出した。


フッ そういえばベテランパイロットたちは全員撃墜したのであったな。


それがわかれば、もうアーサーの独壇場であった。一機、また一機と撃墜していった。

撃墜王の面目躍如である。五機とも撃墜したころに後方から二機のホワイトウィングが合流してきた。真白の機体と真紅の機体のホワイトウィングである。真白のホワイトウィングが最初に絡んできた。素人同然の操縦だった。アーサーが一気に真白のホワイトウィングを撃墜しようと攻撃態勢をとったところで真紅のホワイトウィングに阻まれた。


ん? 

この機体のパイロットはかなりできるぞ。私と同じくらいの手練れだな。グリーンムーン軍はこんな凄いエースを今までどこに隠していたんだ。


通信が混線している。

アーサーのホワイトウィングは通信チャネルをレッドスター軍仕様に変えたはずなので、グリーンムーン軍の機体から通信ができるはずがない。そうこうしているうちに真白のホワイトウィングは後退していった。揚陸艦チャレンジャーだ。チャレンジャーがライトゲイトに突入しようとしている。アーサーは揚陸艦チャレンジャーに攻撃を試みるが、真紅のホワイトウィングが邪魔して攻撃できない。


このままでは揚陸艦チャレンジャーがライトゲイトに侵入してしまう。


再びの混線した通信だ。揚陸艦チャレンジャーがライトゲイトに消えようとしている。

アーサーはチャレンジャーに一か八かの攻撃を仕掛けたが、その瞬間真紅のホワイトウィングに撃墜されてしまった。


「この声はアイル……」


下半身に異常な痛みを覚えながらアーサーの意識は薄れていった。


アーサーは夢を見た。それは幼少時代にバーンズ家の別荘にいた時の夢だ。藍色の髪に褐色の肌の少女だ。彼女に導かれるまま屋敷を抜け出し、難民船にその少女と乗り込んだ。

誰なんだ?

アイル?

いや、アイルと初めて会ったのはもっと大きくなってからレッドスターで出会ったのだ。

一目見た瞬間に稲妻のような衝撃がはしり

恋におちた。それならこの少女は誰なんだ。


『私が誰か知りたい?』


俺は黙ってうなづく。


『ずっと待っていた。私は……』


懐かしいにおいが鼻をくすぐると俺の意識が戻っていく。


気が付くとアイルの腕の中に抱かれていた。

アイルは泣きはらしたのか目が真っ赤ではれている。


「アイル、怖い夢を見たんだ。なんかもう……」


「アーサー、もういいんだよ。もうがん……」


アイルの腕の中でアーサーは静かに逝った。

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反撃のアーサー すぎやまかおる @sugiyamakaoru

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