愛したマーマレード

@SaisiAkutsu0704

愛したマーマレード


芥苦津才子


不透明

私に見える生活はなぜか澱んでしっかりと見ることができない

いつから変わったのかわからず、視力の低下や疲れからくる眼精疲労かとも思い病院に行くが変化することはない

でも不自由ではない。、いや必要でないと言ったほうが正しい

私の視界にはいつも白い天井と一滴ずつ落ちる点滴だけ

周りには誰もいない多くのベッドと微かに差し込む光だけの世界には私の感情でさえも必要ではない

そこに毎日恒例の診察が来た



私はとても運がない人だと思う。


小さい頃から何もかも平凡でこれといった

取り柄などない

普通の家庭に生まれ、すくすくと育ち学校を

卒業、社会人になっている

社会人になって、5年が経ち仕事にも慣れ

社会人になったタイミングで一人暮らしを始めそれにも板がついてきた。

良くも悪くも何も特別のことなど無かった

しかし、私には隠していた罪がある、不倫だ

上司との関係に溺れていたのだ

最初こそ悪いことだと分かっていたが、

時間がその気持ちを隠し、逆に正当化までしてしまっていた。

奥さんより私の方が愛しており、だから私を求めてくれていると思っていた

あの人を愛し、そして尽くしていた

あの人が求めるなら、いつでも受け止めてきた

このような関係が1年以上続いていた時、状況は変わった。

あの人と二人でいるところを同僚に見つかり、

会社に知られてしまった

まさかとは思ったが、私は呼び出され事実確認をされてしまい、最初はシラを切っていたがあの人が事実を認め私共々会社をクビになってしまった

会社的には今のこの下降している経済で行われなければならないことであったという理由だと公表した

私にとっては変な噂やデモが流れずに仕事を見つけられると思って内心は良かったと思い、

前とは給料は少ないが、知り合いもいない

食品工場に入ることができた

そんな事をしていた頃、一つ不自然な事が起こった。

新しい職場に行くようになった頃、警察の方が家に話を伺いにきた

話を聞くと、私が愛したあの人は会社を退社後自宅で死んでいたのだ。

死因は窒息死。

自宅の自室で首を吊っていたところを奥さんが発見したのだという

遺書はなく、目立った痕跡は無かったので自殺とみて警察は捜査を始めたと話をされた

私はとても悲しくなり、苦しくもなった

あんなに愛していたあの人が居なくなり、私は家族のおかげでなんとか生きていけるがこんな結末もあったと思うとあの人を失った苦しみと二重で襲ってきた

軽い取調べを受け、それで終わりであった。

外に出ると夏の暑さが無くなりつつあり、秋の冷たくも生ぬるい風が私の頬を通り抜けた。


悲しみに潰れている暇もなく、社会は進み

一日ずつ私の日常は進んでいった

職場の人とは丁度いい距離感で仕事は出来ているし、近くもなく遠くもない心の距離が私にとっては居心地がいい

深く踏み込んでしまえば、前のように

楽しいはずの日常が崩れて消えていくと思った

もう誰にも迷惑はかけられない、お父様に

そして家族には、、


私はいつも通り、近くのスーパーで半額シールの惣菜を買い帰宅し、食事をしてお風呂に入り

眠りにつく。

毎日欠かさず行うことは変わらず出来ているが

必ずしも必要ではないとも思いながらも何となくだがそれも悪くないと自分の心に言い聞かせながらまた明日が来た

職場に着くといつもと様子が変である

周りがざわついていて、特に変わらないと思っていたがふと前の方を見ると私は衝撃が走った。

私と同じ時期に今の職場に入った方が亡くなったと書いた紙が貼り出されていたのだ

死因は首を吊っての自殺

遺書は無く、家で亡くなっているところを母親が見つけたというのだ。

最近、仕事場には来ておらず、連絡はしていたが自病による体調不良でお休みをいただいていた矢先このようなことが起こった

私は衝撃と悲しみで頭の理解が追いつかず、立ち尽くしてしまった

周りもコソコソと隣の人と話してる人もいれば

平然と朝の朝礼を待つものもいた

工場長からは今日は大半の人間は帰らせ、

私の担当箇所をしている数人だけ残り5時間ほど作業をしてその日は帰らされた

途中工場長に呼び出され、少し話をしたが特に何も変わらず話は終わった

しかし、次の日にまたいくと私を見る周りの目が変わった

仕方ない、、こんなことがあれば大抵その人と

関係があって、女性だったなどとあれこれ理由をつけて犯人を探して周りと話したいのが

人間で同調圧力で私と話すことを避けるのが

日本人である

私はこの状況を何とも感じず、日常が続いていけばそんなもの消えて無くなっていく


時と共に日常は進み、私の周りで起こった

2つ事件でさえ忘れられていき

私も工場での仕事も難なくこなせるようになるほどに時間は過ぎた

いつも同じ時間に起きて、仕事に行き、家に帰り寝るという何も変わらない普通の生活に

私は溶けて消えていくような感覚とありきたりな人生で終わっていくという失望感で呼吸をしてるのも忘れていた

変わらない日々の大切さや喜びは分かっているものの人間は欲望という生きていくなかで

一番必要であり、不必要なものに操られて

成功と失敗を天秤にかけ、常に負けて生きている

私もそれに常に左右されて振り回されて生きていると思う


時は当たり前のように過ぎ去り、

時として転機が突然訪れ、

それに一喜一憂することで人生に抑揚が生まれる。

私は常に周りに助けられ、自分自身には目標はなく、今という時の中で流れるように生きてきた

そんな私が愛してやまないものも一応ある。

それこそ自分を好きになってくれた人の最後の声と死に顔である。

はじまりはごく普通のことで、学生時代

一目惚れした男性を自殺に追い込んだことからである。

私は誰よりもその方を愛していて、恋愛によくある苦しみと幸せで日々葛藤していた。

でもあの方はそうではなかった、彼女という存在がいたのだ。

本人には隠していたつもりもないと最後まで言っていたが、誰のものでもない私だけのものにならないならあの方に生きている価値なんてないと思い、彼の過去の恋愛を汚く作り上げ

デマを周りに流し孤立させていくことで私しか

拠り所がないように仕向けた。

生きている価値がないとは思ったものの、

私を選んでくれるなら、追い込む必要はないと思ったが、最後まで彼は私を見てくれなかった

でも私はとても嬉しかった。

彼の最後の食事を作ったのは私

最後の声を聞いたのも私

朝日が少し上がり、外から光が差してきた時だった彼は私が作った朝ご飯を食べてくれたあと

突然苦しみ出し、静かになった

私は作業を行い、彼の家から居なくなった。

私は彼の喜怒哀楽全てを知っていて、味わうことができ、何にも変え難い幸福度で満ちていき

また変わらない日常の中に溶け込んでいった


今はあの時のような私の日常はない

病院の一室で私はまた一日一日を繰り返している

今までのことで私と関係にあった男性が

亡くなっていることに危惧した両親が私を病院に連れていき、今に至る。

過去3件の事件についても自殺と断定して

もう捜査は終わっている

私には身に覚えのない病と向き合いながら

生きている。

でも最近は家にも帰ることができ、新しい

男性とも会う機会ができている

またあの幸福と再会できる日を夢見て

私はまた生活を繰り返している。


警察によると、過去3件の事件について

関係のあった女性に話を聞いたが、目立った情報はなく、

ただ不可解なことに遺体の胃の内容物の中に

食パンとマーマレードらしきものが入っていたのが一致していた。

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