知言の追抄(ちげんのついしょう)

天川裕司

知言の追抄(ちげんのついしょう)

「蛙」

 醜い蛙は雛の頃から愚鈍を吐き付け、一宙(そら)に蔓延る夢游の正義に事始(こと)の概(おお)くを外算(がいさん)した後(のち)、幻想(ゆめ)の優雅へ去来を果せる拙い言動(うごき)を大事に保(も)った。自体(おのれ)の未(いま)から無欲に呈した事始(こと)の哀れは幻想(ゆめ)の白亜へ下山した後(のち)自体(おのれ)の生憶(きおく)を自由に操る文様(もよう)仕立ての「恋」を閃き、「パシッ!」と呟く井蛙の発音(おと)から現生人(ひと)の主観(あるじ)を程好く打った。〝起死〟の寝床に二性(ふたつ)が揺らめき自ず耽入(ふけい)る二性(ふたつ)の防御は、宙(そら)の彼方へ外算され行く二性(ふたつ)の神秘(せいぎ)へ徒労を始めて、宙(そら)へ蔓延る無頭(むとう)の星座に蜃気を限らせ無音を吐いた…。

 事始(こと)の音色は端正(きれい)な儘にて〝土足〟を許さぬ現代人(ひと)の哀れを、上手に上手に「常識(かたち)」を乱さず無想の哀れへ変換させ活き、独り上手の愚かな進歩は無下に適わぬ無敵を見送り、事始(こと)の夕餉に生活(かて)を統(たば)ねる初春(はる)の空気(しとね)へ上手に入(い)った。旧い記憶が蛙に蔓延り、自己(おのれ)の感覚(いしき)を「空気(しとね)」へ問うのは、樞(しかけ)を封じる自然(あるじ)の陰府(よみ)にて無戒の安堵を口にした儘、自体(おのれ)の連歩(れんぽ)は惰性を詠み説く乱歩を牛耳り、浅い空間(すきま)へ情を欲せる幸先(さき)の豊穣(ゆたか)な至純(しじゅん)に咲いた。事始(こと)の未亡に雛から無告が告げ出し、私欲(よく)の概句(おおく)が乱歩を踏む頃、四季(きせつ)外れの乖離が跳び出す無重に大きな樹木が拡がり、過酷の末では動機が発(た)たない旧来独語(むかしがたり)の延命(いのち)が過ぎ去り、幻(ゆめ)の白亜へ悶絶して生(ゆ)く旧い小器(うつわ)は透った生果(かなた)へ廃れて行った…。

      ☆

 カエル。カエル目に属する両生類。かわず。蛙鳴蝉噪。

      ☆

 窮屈ながらに鬱積して生(ゆ)く孤独の窮地へ二性(ふたり)が居並び、真夏の素描(すがお)にその実(み)を伏せ生(ゆ)く孤独の〝返り〟は井蛙を見下ろし、一夏(なつ)の夢告(むこく)は毅然を誘える神秘(ふしぎ)の労途(ろうと)を矛盾に見送り、必ず失(き)えない初夏(なつ)の一点(あかり)は坊主になっても無言を強いた。一幻(ゆめ)の私運(はこび)にその芽を観る頃経過(とき)の空転(まろび)は純度を失くされ、次の世(そら)での自活(かて)の総てを総身(からだ)で承け取る準備をしており、明日(あす)の遊戯に孤走(こそう)を見棄てる至難の解(かい)には自主(あるじ)に気高い名残を拝し、分厚(あつ)い揺蕩(ゆらぎ)に調子を損なう旧い現代人(ひと)への倣いの水面(みなも)は、黄泉に属して陰府(よみ)に相(あい)する無己(むこ)の生憶(きおく)に至柔(しじゅう)を発した。自分の記憶に不埒が挙がれる無垢に名高い華厳の果(さ)きには、井蛙が恋する脆(よわ)い穂先が延命(いのち)を捨てても…した。


「痾」

 未知…未知…未知…。無謀の思乱(あらし)に不正を操(と)られて、白衣の天使に古注を二重(かさ)ねる己(おの)が無欲に暗(やみ)を委ねる…。二性(ふたつ)の感覚(いしき)が茫洋から観て、広く、浅く、遠い宙(そら)へと足並み揃えて、自分の無欲を吹っ切る時期(ころ)には無謀の歪曲(ゆがみ)を執念(しつねん)に追う。父母の気楼(きろう)が思乱(あらし)に届く。

 文言(ことば)の可能(かぎり)が無駄を連れ出し幻(ゆめ)を欲張り、几帳(きちょう)を講じた一人(ひと)の憤怒を路頭の何処(いずこ)で見定め始める無我の生憶(きおく)はほとほと死んだ。故郷の涼風(かぜ)から身分が奪(と)られて器用の水面(みなも)に律儀を幻見(ゆめみ)て、自己(おのれ)の白紙を手帳へ記すのは利己(りこ)の感覚(いしき)にほとほと相(あい)する…。大児(だいじ)の人陰(かげ)から小児が表れ、旧い母性(はは)との送別等では自体(おのれ)の未完(みじゅく)が正規に観られて、母性(はは)と小人(こども)の滑稽(おかし)な遊戯は自然(あるじ)の孤独へ追随して活き、初春(はる)…、思春(はる)…、晩春(はる)…、現行(いま)の今まで追討し得ない概(おお)くの景色は未想に留(とど)まり、一幻(ゆめ)の白亜は脆く去り生(ゆ)く不変の思乱(あらし)へ追随して行く。

      ☆

 やまい。深く進んだやまい。拗れた病気。宿痾。

      ☆

 孤踊(ことう)の陰にて小躍(ダンス)が捩れて、旧い景色が足元(ふもと)を酔狂(くる)わす微塵の幻想(ゆめ)から現(うつつ)が薄れ、慌てた感覚(いしき)が旧巣(ふるす)へ還れる奇妙の自然(あるじ)を心底(そこ)から保(も)った。幻(ゆめ)の孤独は暗転(まろび)の内(なか)から遥かに進める出世をして活き、明日(あす)と今日と明確(たしか)な身固(みもと)を余信(よしん)に信じて〝旧巣〟を返せる。ほとほと疲れた独歩の吟味は現世(このよ)の許容(うち)へと女神を観た儘、旧(ふる)びた学舎で「無論」を講じる渾身さえ観た。華奢な体躯(からだ)が捏造され生(ゆ)く。プレートの上、すべすべの上。日の下(もと)、華奢…。巨人が呈する偽り等には、遠の旧(むかし)に一男(おとこ)が組(く)べ得た、傀儡(どうぐ)に纏わる正気が祟れる。月光、好い日に見積もる陽の界(かぎり)が、「俺」の目前(まえ)から遠ざかる…。華奢、無言…。無音の陽光(ひかり)は三日月(つき)に邪魔され見得なくなった。暗黙(やみ)に気取れる二匹の沢蟹―。男女の総身(すべて)が二性(ふたり)を隔てて無機に居座る。無言精舎の金(かね)の一声(こえ)、野暮の背中を身軽(かる)く押しても決(け)して開かぬ扉(ドア)が建つ。口の周りを大きく掻いても、決して開かぬ相(あい)が在る。男女が象る沢蟹(かに)に認めた二つの性(せい)には、必ず拡げぬ幻(ゆめ)が在る。


「鴉」

 黒い烏はお豆を研いだ。一夏(なつ)の旧巣(ふるす)へ小鳥が這い出る微温(ぬる)い時期(ころ)には四季の身辺(あたり)を悠々這い付き、固陋の挙句を生果へ気取らす脆(よわ)い吐息をコトコト吐いた。鴉(あ)の鳥。阿の鳥。亜の鳥。悪(あ)の鳥。堊(あ)の鳥。襾(あ)の鳥。丫(あ)の鳥。無言の交響(ひびき)に憤怒を保(も)たない、狡賢いまま日本を活き尽(き)る無駄な労苦へ喘ぐ現代人(ひと)への無様(むよう)の感覚(いしき)の祭壇等には、男性(おとこ)の生気が一歩も立たずに呆(ぼ)けた自主(あるじ)が沸々煮え繰る幸先(さき)の見得ない孤高を保(も)った。烏の気儘は遊具の態して、一女(おんな)の体内(かたち)を殊に相(あい)する旧い賛美を程好く問うた。

 硝子・ケースに宙(そら)を見ている呆(ぼ)けた日本男性(おとこ)の末路は久しく、〝無言の手鞠〟に冒険したまま一女(おんな)の生憶(きおく)へ這入った儘にて、弄(あそ)び上手に「仏(ほとけ)」を識(し)らない幻想(ゆめ)の白亜へ逆行(もど)って入(い)った。這い這い、這い這い…。緊(きつ)い描理(びょうり)を口にした儘ちょんちょん突(つつ)ける嘴(はし)の両脇(わき)には幻(ゆめ)の一角(かど)へと自由を認めた広い八頭(おろち)が怒りを賭し活き、現代人(ひと)の愚行(おろか)が暴力(ちから)を誇示して幼稚を束ねる一色(いろ)の褪せへと不甲斐を嘆き、事始(こと)を観るまま涼風(かぜ)の向く儘、幻視(ゆめ)に燃え立つ現代人(ひと)の主観(あるじ)は身欲(よく)に溺れて透って行った。過ぎ去る果(さ)きには尽きる快楽(らく)だけ非常に溢れて、男性(おとこ)は女性(おんな)に女性(おんな)は自然(あるじ)に、男児(おとこ)は女児(おんな)に、女児(おんな)は悪魔に、男子(おとこ)は女子(おんな)に、女子(おんな)は私欲へ…、転々(ころころ)公転(ころ)がり続ける紺(あお)い御空(おそら)の紋様(もよう)の奥義(おく)には。俗世(このよ)の果てから一切採れない気楼(きろう)の照輝(てか)りが動転していた。

      ☆

 烏。スズメ目に属する鳥。くろ。まっくろ。黒い色のたとえ。鴉片は「opium」の音訳。ケシの実からつくる麻薬。阿片。

      ☆

 ふんころがしから気長く見られて貴重の両刃は芥子に輝くほっそり腕した故郷が煌めき、真白(しろ)い宙(そら)には何にも象(と)れない自由の諦念(おもい)が躯(からだ)を温(あたた)め、雌雄を見せない痩せた漆黒(くろ)には後光が差し込む火口(くち)が無かった。淡い日時の陽気の側(そば)からすっくと上がれる蒸気の群象(むれ)には、初夏(なつ)の群象(むれ)から晩秋(あき)の群象(むれ)まで非常に豊穣(ゆたか)な気配が乞われて、翌朝(あさ)と真昼(ひる)との密かな空間(あいだ)に羽虫(むし)が鳴くのを聴きさえすれば、黒鳥(とり)の総身(すべて)は全てが怪しい一宙(そら)の揺れへとその実(み)を投げ掛け、相(あい)する欲には我欲の発(た)たない気楼に豊穣(ゆたか)な逆算さえ在る…。黒鳥(とり)の素顔は感覚(いしき)に透って過去を沈める…。


「錏」

 記憶の一片(かけら)が転々(ころころ)暗転(ころ)がる無想の呼笛(あいず)を拾いながらも、白雲(くも)の間近に「手相(てそう)」を詠み取る事始(こと)の神秘(ふしぎ)は暗眠剤(くすり)を欲しがり、安い女性(おんな)の総実(そうみ)の一声(こえ)には文言(ことば)の吃りが透って在った…。景色の並びに「表情(かお)」が表れ、初めに識(し)り得た無想の所以(ありか)は散歩ついでに棄てられ始めて、苦しい表情(かお)した無想の八頭(おろち)は大言(ことば)に連なり概(おお)きく化(か)わり、真白(しろ)い故縁(えにし)に翻(かえ)れる両眼(まなこ)は黒い術(じゅつ)から統(すべ)てを識(し)った。

      ☆

 しころ。兜の鉢の左右・後方に垂れ下がって、首筋を覆う物。

      ☆

 旧い両掌(りょうて)に歴史が乗っかり、安い戦意が喪失して行く一男(おとこ)の生憶(きおく)は網羅を看破(みやぶ)り、分厚(あつ)い文言(ことば)に「歴史」を二重(かさ)ねる三重兜(さんじゅうかぶと)の質など宜しく、孤独と人間(ひと)が牙城(とりで)を壊せる「明日(あす)の日憶(ひおく)」を容易く承け取り、空気(しとね)に浮べる独創(こごと)の老婆は通り相場の〝堅気〟と成った。宜しく、宜しく、宜しく、宜しく。やらしく、やらしく、やらしく、やらしく…。画して止まない身陰(みかげ)を毛嫌う暁・盲者(もうじゃ)は揺籠(かご)の許容(なか)から赤子を取り出し一女(おんな)の宮(みやこ)へ逆(さかさ)に行かせる不頼(ふらい)の自主(あるじ)を換算して活き、孤独を掌(て)に採る無頼の若輩(やから)は鬼畜を返して頓狂ながらに、幻(ゆめ)を夢見る〝旧い峠〟の晴嵐(あらし)など見て、昨日と昨夜(ゆうべ)の美力(ちから)の相異を変異に捉えて放さなかった。手放しからでも幻(ゆめ)を見送る融通利かずの総意の許容(なか)では、昨日に幻見(ゆめみ)た一男(おとこ)の記憶を兜に刻んで悦を頬張り、悦の悦から幻(ゆめ)が利かない独人(ひと)の孤独が統(とう)じて止まずに、旧く概(おお)きな木枯らしなどには〝美風(びふう)〟が保(も)たない景色を遣った…。大胆不敵―。不敵の孤憶(こおく)が幻(ゆめ)を見限る連体(からだ)の何処(いずこ)が気色を詠み取り、明日(あす)の文言(ことば)を孤独へ介せる幻想(ゆめ)の往路(おうじ)は小路(こうじ)を識(し)り抜き、漆黒(くろ)い一宙(そら)から樞(しかけ)を跳ばせる〝向日上手(むこうじょうず)〟の気楼の両眼(まなこ)は青天気取りの昨日を見亘(みわた)せ、分厚(あつ)い美声(こえ)から落ち着く旧茂(ふるも)は霹靂(ひび)の許容(なか)から地割れを識(し)った。過去の寝屋から一女(おんな)が先逝く不毛の暴嵐(あらし)に少女が跳び立ち、幻想(ゆめ)の孤独に淡路が向かない鮮烈気取りの純情(こころ)が洗われ、ヘボ、ヘボ、ヘボ、ヘボ…。明日(あす)への孤独を上手に彩(と)るのは轍の下部との黒光りである。「昨日の生憶は歴史を犯せる」。


「鐚」

〝俺は金だ。〟

〝お前の故郷は何処に在るさね?〟

〝見事俺の記憶へお前が向くのは、俺の価値など観たのであるか?〟

〝依然化(か)わらぬ人山(やま)の中では俺の記憶も曖昧なんだな…〟

〝ああ、ああ…〟

〝昔の宙(そら)には貨幣が在ったな。硬い硬い胴を以て、お前も知ったか?〟

〝食うや食わずの誤算の花だ。〟

〝どうせ喰うなら一女(おんな)が好いもの…〟

〝安いもんさね。〟

〝明日(あす)の予定は幾つ立つ?〟

〝昨日から観た算段だ。お前の正音(しょうね)も識(し)って居よう。〟

〝いやいや識(し)らぬ。お前の一体(からだ)は知っているのか?〟

〝いやいや知らね。記憶違いは華の元…。記憶の華から精華を見付けて、札(あいつ)の精神(こころ)も精進して行く。ははは。〟

〝人の別など気取るも可笑しい。暑い暑い天気の目下(もと)では孤独を見付けて人間(ひと)も遊泳(およ)ごう。〟

〝人の記憶は曖昧なんだ。明日(あす)の出来事(こと)でも今日に煩う。〟

〝記憶か。明日(あす)の廻転(まわり)は真白味(しろみ)の許容(うち)にて衣服を剥いだ。〟

〝一言、一言。〟

〝未完(みじゅく)の気色が断片的だ。けれども何処かで、お前の記憶が栄誉を嗅いだ…〟

〝「あ」の鳴る小声(こえ)、「あ」の鳴る美声(こえ)、〟

〝日本の自主(あるじ)が鼻まで削いだ。精華(はな)まで研いだ。〟

〝苦労の身元は現行(ここ)に在る。〟

〝女性(おんな)と男性(おとこ)の決死の自覚(かくご)は金を求めて熱く冷め入(い)る。奇妙、奇妙。白い宙(そら)には鳥の足跡(あと)から、自由に綻ぶ気性が跳び発(た)つ。〟

〝端正(きれい)だ、端正(きれい)だ。淡麗(きれい)に感覚(いしき)が、女性(おんな)を描(えが)ける…。〟

〝女性(おんな)が居なけりゃ安く見られる、女性(おんな)が散ったら容易く見られる。〟

〝男性(おとこ)の場合も全く同なじ。男性(おとこ)が空転(ころ)がりゃ安く見られる。一男(おとこ)が泡食(あわく)りゃ容易く殺せる。〟

      ☆

 しころ。兜の鉢の左右・後方に垂れ下がって、首筋を覆う物。びた。質のよくない銭。鐚銭。

      ☆

〝昨日に転々(ころころ)、星の数ほどひとを見たけど、白亜(しろ)い果実は真っ白焦げで〟

〝昨日の八頭(おろち)の煩悶(なやみ)と嫉みは〟

〝無意識(いしき)の透れる旧い銅貨の鐚の成り立ち、〟

〝あいつ、あいつ、〟

〝苦悩、苦悩、〟

〝いいね。昨日に見た人、銭に化(か)わった。銭は好い。値段にはっきり判る。空虚に判る。人の躰は金に化(か)われる。〟


「我・吾」

 我(われ)の背後に吾(われ)は語れず、白雲(くも)の両眼(まなこ)に活力(ちから)を落さず無人の朝日に素顔(かお)を突き出し、幻(ゆめ)の狡さへ駆けて行くのは目下通らぬ努力であった。婦人の背後へ一男(おとこ)が立つのは孤独の流行(ながれ)に腑抜けたからにて、腑抜けに倣える滑稽(おかし)な生気は要(よう)を忘れた男・女(だんじょ)の成果(かなた)が、我の遊びについとも気取らぬ無機の諸刃(やいば)を相(あい)するからだ。白亜(しろ)い生気に活気を点せず、巡り巡れる、腑抜けた階下へ降りて行くのだ。低徊である。低吟である。低俗に見て来た現行人(ひと)の狡さが事毎厭で、俺の心身(からだ)は概(おお)きく独りで、「若者(ばかもの)」気取りの小虫の類(たぐい)が奇妙に活き尽(き)る輪廻(ロンド)を相(あい)し、俺の「我」とは久しく語らず一幻(ゆめ)の逆生(もどり)へ開化している…。現(うつつ)の一宮(みやこ)は一女(おんな)に宿され事始(こと)の無機から稚拙が動(はたら)く海水(みず)の温度が温味(ぬくみ)を報せて、男性(おとこ)の全身(からだ)を順に休める総身の合図が宙へと下りた。自己(おのれ)の無己(むこ)から地上が拡がる分厚(あつ)い遊戯は逡巡して活き、幻(ゆめ)の自活(かて)から孤高を発せぬ分厚(あつ)い輪廻(ロンド)を通算していた。身寒(さむ)さに耐えぬは男の恥など、誰が決めたか知れぬ空間(あいだ)に俗世(このよ)の愚行(おろか)は女性(おんな)と流行(なが)れて、偽善ばかりを延々崇める傀儡盲者(かいらいもうじゃ)が信者と成った。隣人(ひと)を蔑み神を崇めて、隣人(ひと)を殺して神を崇めて、隣人(ひと)を堕(おと)して神を崇めて、隣人(ひと)を突き刺し神を崇める。…暫くしてから自己(おのれ)の行為を改悛した後(のち)、幻(ゆめ)の活力(ちから)を大事に観た上孤高の正義を顕し始める。俗世(このよ)で活き得る「無抵抗」を冠した信者(もうじゃ)の言葉(きろく)。―隣人(ひと)を排して神を拝して、隣人(ひと)を毛嫌い神を拝して、隣人(ひと)を蔑み神を高めて、隣人(ひと)を殺して神へ近寄り、隣人(ひと)を無視して神を崇めて、隣人(ひと)を嘲笑(わら)って神に近寄り、隣人(ひと)を空転(ころ)がし神を清めて、隣人(ひと)を宿さず神を認める。―

      ☆

 わたくし。自分。わ。うち靡き独りや寝らむ吾を待ちかねて(万葉・一四・三五六二)。

      ☆

 苛つく限りの悪行・憎音(ぞうおん)。現代人(ひと)の独りに複数から成る生気が宿され、「無敵」を点した単細(ばか)が仕上げる現世(このよ)の八頭(おろち)の具体(からだ)の程度は、曖昧ばかりが正義に見得行く孤踏(ことう)の音頭に「その気」を奪(と)られて、隣人(ひと)を愛さぬ未覚(みかく)の杜から「盲者」の男・女が溢れて活きた。男・女(かれら)の神とは自分の神にて、隣人(ひと)の正義を撲滅して生(ゆ)く悪魔の正義へ転生している…。


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知言の追抄(ちげんのついしょう) 天川裕司 @tenkawayuji

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