第8話 まずは店長に情報を流す

「お疲れさまです! 」


 裕斗はいつも通りの声のトーンで挨拶をし、店の事務所に入る。


「お~う! 武本か。おつかれ~」


 本日珍しくシフトに入っていた店長が裕斗の顔を視認し、挨拶を返す。


「お疲れさまです店長」


 裕斗は店長に労いの言葉を伝えると、事務所の空いたスペースにリュックサックを置く。


「店長。少しお話があるのですが。今お時間宜しいでしょうか? 」


 裕斗は現在の時刻に視線を向け、時間に余裕があることを確認し、店長に遠慮がちに声を掛ける。


「お? 武本が私に話があるなんて珍しいな。全然構わないぞ。どうした? 」


 店長は快く裕斗の話しやすい空気を作る。ウェルカムな姿勢が見て取れる。


「少し言いにくいのですが。同僚の堂本の仕事やその他での素行がひどくてですね。目に余るものがあり店長に知って貰おうと思ったのですが」


「なに? それはどういうことだ? 」


 店長の顔に緊張感が走る。怪訝そうに眉間に皺も寄せる。


「まずこれを見て欲しいのですが…」


 裕斗はスマートフォンを取り出し、集めていた証拠の1つである勤務者のタイムカードを切った履歴の記載された画面の映った画像を店長に向けて見せる。


「この日なんですが、堂本が無断で遅刻してきました。そのため俺が穴を埋める形でシフトに入りました」


「ほう…」


 店長は静かにうなずく。


「さらにこれを見て欲しいのですが」


 裕斗は次に堂本が作った賄いのオリジナルメニューと彼自身が映った画像を出す。


「最近見かけたのですが。堂本が賄いのルールを破ってオリジナルメニューを作っていました」


「…」


「さらになんですが。なんて堂本は未成年にも関わらずタバコを吸っていました」


 裕斗は最後に取って置きの堂本を陥れる彼の喫煙画像を店長に示す。


 流石の店長も驚いたのか。普段よりも明らかに大きな目を開けた。


「さすがに…これはやばいわ…」


 店長は何処か観念したかのようにボソッと吐露する。


「そうですよね。流石にやりすぎですよね…」


 裕斗は店長の心境を推量し、同情したようなフリをする。


「この件はまず上司のエリアマネージャーと話し合うわ。そして出来るだけ早く学校にも連絡する」


「そうした方が良いと思います」


「ありがとう。言いにくいことを勇気を振り絞って伝えてくれて。おかげでこれ以上に大きな問題に発展することを防げた。それとこの画像だけど証拠として貰っていいか? 」


「ええ。もちろんです」


 店長は裕斗の返事を受け取ると、エリアマネージャーと連絡を取るために1度事務所を退出する。


(ふふっ。やったね。順調順調♪)


 慌てた様子で事務所を後にした店長の背中を最後まで見届けた後に、裕斗が嬉しそうに誰も居ない事務所で微笑を浮かべた。

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