第5話 賄いのルール違反

「お疲れ様です」


 次の日。本日は18時にシフトに入る予定の裕斗が17時45分に職場に出社する。


「うん? なんだ武本かよ。焦らせるなよ? 」


 堂本が事務所に入室した裕斗に対して怪訝そうな視線を向ける。


「ご、ごめん」


 堂本にこれ以上、色々と言われるのは面倒だったため、裕斗はこの場で凌ぐために謝る。


「ふんっ」


 堂本は機嫌が悪そうに裕斗から視線を外すと、賄いを口に運ぶ。


(うん? あれって)


 裕斗の視線は自然と堂本の賄いに向いた。


 堂本の賄いのメインには、とんかつ、唐揚げ、エビフライが並んでいた。


 このようなメニューは裕斗が働く飲食店のメニューには存在しない。


 この店の賄いのルールでは、メニューに存在する商品しか食べることが許されていない。そのため、堂本はルール違反を犯している。


(う〜ん。証拠として手に入れたいんだけど。どうしよう。ここは堂本君に少し媚びみたいなものを売ってみるか)


 裕斗は少し度胸のある決心をし、脳内で今後のシミュレーションを想像する。


(堂本君次第だけだ。上手くいったら行けるかも)


 裕斗は自身の計画に手応えを感じ、実行を決意する。


「うわぁ! すごいね!! 美味しそうだね!! これ堂本君が作ったの? 」


 裕斗は意図的に興奮した声を漏らし、堂本の作品の賄いを賞賛する。


 その際、自身に理不尽な仕打ちを受けた相手を褒めることに抵抗を感じ、実行する間に裕斗の心に負担が掛かる。


「うん? お前、陰キャで仕事の出来ないくせに、この賄いの芸術が分かるのか? 」


 堂本は裕斗を貶すような言葉を吐きつつ、褒められたことに気分良さそうに反応する。


「うん! こんな賄い中々思いつかないよ! やっぱり堂本君は仕事だけでなく、こういう創造力も持ち合わせているんだね」


 裕斗は悪口の悪口に胸中で怒りを覚えつつ、その感情を隠しながら褒め続ける。


「ほぅ〜。珍しく武本を良いこと言うじゃねぇか。褒めてやるよ」


 堂本はご機嫌な口調で愉快に鼻の下を伸ばす。


「本当だね!! すごいと思う! それで1つお願いがあるんだけど。この芸術的な賄いを堂本君と一緒に写真を収めたいんだけどダメかな? 」


「うん? しょうがねぇなぁ〜。俺の芸術作品の良さを分かったご褒美に仕方なく写真を撮らせてやるよ! 」


「本当に? ありがとう!! しっかり撮らせて貰うね? 」


「おぅ! 頼むぜ! 」


 裕斗がポケットからスマートフォンを取り出し、カメラ機能を起動する。


 一方、堂本はカメラに備え、カッコつける形でピースする。


「じゃあ! 行くよ〜。はいチーズ! 」


 パシャッ。


(ふふ。バカめ。あとで悪用されるのも知らずに。本当に単純でアホだな)

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