第4話 余裕を持った遅刻
「おいっす! おつかれ〜」
時刻は20時。店の1番忙しい時間帯が過ぎ、落ち着き始めた頃。
堂本が悪びれる様子もなく仕事場に入って来る。
「ちょっと! 堂本君! なに遅刻してるの!! 」
堂々と遅刻してきた堂本の姿を目にした千春が珍しく怒りを帯びた態度を露わにする。
「そうだよ! 連絡もなしに遅刻だなんて論外だよ! 」
結梨も千春と同様の態度を堂本に対して取る。
「うん? ああ、ごめんごめん。寝坊したんだよ。石田と市川がシフトに入ってること知らなかったわ。知ってたら絶対に遅刻はしなかったぜ。信じてくれよ」
千春と結梨といった美少女に注意されたのが影響を受けたのか。堂本が珍しく遅刻の理由を口にし、軽い謝罪をする。
「そういう問題じゃないよ! しっかり遅刻せずにシフトに入って貰わないと困るよ。それに今日は堂本君の代わりにわざわざ武本君が入ってくれたんだよ」
「そうだよ! 千春の言う通りだよ。それに武本君に少なからず迷惑を掛けたんだから。感謝と謝罪の両方を伝えなよ」
千春と結梨は遠慮なしに責めるように堂本に反論する。どうやら2人共にかなりフラストレーションが溜まっているようだ。
「ど、どうしてこの俺が武本に感謝と謝罪を伝えないといけないんだよ。流石に嫌だぜ。それに武本自身が進んで俺の代わりにシフトに入ったんだろ? 別に俺が頼んだわけじゃねぇし」
堂本が自身に都合の良い理由を並べ、裕斗に対する感謝と謝罪を避けようと試みる。
「石田さん、市川さん。俺は大丈夫だから。感謝も謝罪も要らないから」
裕斗は遠慮した様子で千春と結梨に伝える。
「武本君ダメだよ! 堂本君に気を遣う必要はないよ! こういうことはしっかりして貰わないと」
「本当にそう! 仕事が出来るとか出来ないとか関係ないから。ほら堂本君。しっかり武本君に感謝と謝罪して! 」
千春と結梨が裕斗の胸中内の言葉を代弁するように堂本に感謝と謝罪の催促をする。
「いや。ちょっと。遅刻したから早く入店しないとな。さっさと仕事着に着替えてくるぜ」
裕斗に感謝と謝罪を伝えることは堂本のプライドが許さなかったのだろう。逃げるように姿を消し、事務所に移動する。
「あ!? ちょっと! 」
「逃げるなんて卑怯だよ! 」
千春と結梨が制止させようと大きな声を出すが、時既に遅し。堂本は事務所に入室してしまった。
「ごめんね武本君。堂本君に逃げられちゃった」
「私もごめんね。武本君の前で堂本君に感謝と謝罪の言葉を吐かせられなくて」
千春と結梨は申し訳なさそうな顔を裕斗に向ける。
「いやいや。俺は全然大丈夫だから」
裕斗は謙虚な態度を装いつつ、千春と結梨という美少女2人の優しさに、内心では嬉しい感情を覚える。
(大丈夫だよ。石田さん。市川さん。俺の望みは今後に叶う予定だから。堂本君が酷い目に遭う形でね)
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