第3話 無断遅刻&情報収集

「いらっしゃいませ~! 」


 次の日の土曜日。


 堂本と瀬川による嘘告白により深い傷を負った裕斗は、憂鬱ながらも休まずにアルバイトの仕事場に出勤する。


 本日は朝の10時から17時までの7時間勤務の予定だ。現在、時刻は16時58分。あと2分で裕斗の勤務時間は終了する。


「どうしよう。堂本君まだ来てないんだけど」


 裕斗と共にシフトに入る同級生の同僚の女子が不安そうな顔で事務所から厨房に戻って来る。


 石田千春。裕斗と同じ学校に通う黒髪ボブヘア(今はベレー帽に髪を仕舞っているが)の美少女だ。色黒だが不思議と漂う清楚感に紺色の二重の瞳が特徴的だ。その上、職場で着用するエプロンとコックシャツからも存在感を示す豊満な胸は様々な属性の人間を引き付ける。


 時刻は17時を過ぎる。


 未だに堂本は職場に姿を見せない。


「どうしよう結梨。堂本君、絶対に無断遅刻だよね? 」


 千春が困った顔で一緒に働く俺以外の女子に相談するように声を掛ける。


 声を掛けられた市川結梨は千春と同じで裕斗の同僚であり同級生でもある。千春とは対照的に色白の美少女であり、普段は茶髪のロングヘアの緑の瞳が印象的な美少女である。


「そうだろうね。堂本君って勤怠態度悪いよね? 」


 結梨も千春から伝染したように困った顔を浮かべる。


「でも堂本君が来ないと今日は3人で18時から21時まで仕事しないといけないよ。いくらセルフサービスの店でも流石に忙しい土曜日に3人で店を運営するのは厳しいと思う」


「そうだよね。千春の言う通りだよね。本当に堂本君の勤怠態度のひどさは迷惑だよね。いくら仕事ができるからってしっかり勤怠して貰わないと困るよ」


 千春と結梨は今後に起こるシチュエーションを分析した上で、頭を悩ませる。どうやら現時点では打つ手が無いらしい。


 そんな光景が裕斗の目に映る。


(あ! 良いこと思いついた。まず堂本に復讐を達成するためのアイディアが)


 裕斗は千春と結梨の会話と現時点の職場の雰囲気にインスピレーションを受け、自身なりに上出来だと感じるアイディアを思いつく。少なからず明るい未来が想像でき、自然と憂鬱な気分が明るい方向に傾く。


「ねぇ。もしよかったら。俺が残るよ。21時まででしょ? 」


 裕斗は必要最低限のみしか会話を交わした経験の無い千春と結梨に声を掛ける。

 

「え? でも武本君は18時までじゃ…」


 千春は戸惑った顔を浮かべる。


「そうだよ。無理しなくてもいいよ? 」


 結梨は平静を装った態度で遠慮を示す。


「大丈夫だよ。無理してないよ。それに流石に土曜日の忙しい中、3人は厳しいと思うから。もし少しでも力になれるならなろうと思って」


 裕斗は、それらしい理由を口にして千春と結梨の説得を試みる。


「ほ、本当に! 」


「千春。お言葉に甘えて武本君にお願いしようよ! 」


「そうだね! その方が絶対に良いと思うし」


 千春と結梨は2人でテンポの良い会話を交わした後、両者ともに裕斗に視線を向ける。


「武本君。今日は本当にありがとう! お願いしてもいいかな? 」


「本当に助かったよ! 」


 千春と結梨は嬉しそうに笑顔で裕斗に感謝の言葉を伝える。


「う、うん。役に立てたなら良かったよ」


 千春と結梨といった美少女2人に笑顔で感謝を伝えられたことにより、少なからず照れを隠せない裕斗。


 可愛い同級生の女子から感謝を受けるのはこれが初めてだった


「ちょ、ちょっと。あとで店長に連絡するために堂本君と交代した証拠として写真を撮ってもいいかな? 事務所の出勤者が表示される画面を撮りたいんだけど」


「全然いいよ! ゆっくりていいからね」


 シフトに入っているメンバーを代表して千春が許可を出す。


「ありがとう。できるだけ早く戻って来るから」


 裕斗は感謝を伝えると、厨房を抜けて事務所に移動する。そのまま帽子だけを外し、自身の私物を仕舞うロッカーからスマートフォンを取り出す。


 そして、事務所のパソコンを操作し、アルバイトメンバーの労働時間をタイムカードのシステムを開く。パソコンの画面には現時点でタイムカードを切ったメンバーの名前が並ぶ。


「ふふっ。順調だ。これで1つ目の証拠ゲットだ」


 裕斗は抑えきれない笑みを溢しながら、スマートフォンのカメラ機能を使ってパソコンの画像を写真に収める。


 最後にスマートフォンのアルバムに保存されているかを確認し、ニヤッと悪い笑みを浮かべる裕斗であった。

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