第3話
翌日の放課後、俺は南雲と一緒に、彼女の上履が見つかったという報告を受けて校舎を歩いていた。それは、校庭の片隅にある誰も使わない古びた倉庫の中に捨てられていたらしい。教師が偶然見つけたとのことだが、そのタイミングは偶然にしては出来すぎている。俺はどうしても、誰かが意図的に隠したのではないかという疑念を拭いきれなかった。
「ねえ、米内くん。この件、どう思う?」
隣で歩く南雲が問いかけてきた。その声は普段の明るさが影を潜め、どこか不安げな響きを帯びていた。
「まあ、誰かがわざとやった可能性が高いだろうな。」
俺が答えると、南雲は小さく頷いた。
「やっぱり…そうだよね。でも、なんでそんなことをするんだろう。」
その言葉に、俺は言葉を失った。南雲光凛は学年で一、二を争うほど人気者だ。男女問わず憧れの的である彼女に敵意を向ける理由が思い浮かばない。
「心当たりはないのか?最近、誰かとトラブルになったとか。」
「うーん…特には。でも……」
南雲は言葉を濁し、少し考え込むように視線を落とした。その姿に、俺の胸の奥がざわつく。彼女は何かを隠している——そんな気がしてならなかった。
「でも、なんだ?」
俺が問い詰めると、南雲は小さく息をついて話し始めた。
「実は、最近変な手紙が届いてて。」
「手紙?」
俺は眉をひそめた。嫌がらせの可能性が高い。
「どんな内容なんだ?」
「最初はただのいたずらみたいな感じだったけど、だんだん内容が……ひどくなってきたの。『いなくなればいい』とか、そんなことまで書かれるようになって……。」
南雲の言葉に俺は言葉を失った。普段明るく振る舞う彼女が、そんな思いを抱えていたなんて。
「学校に報告したのか?」
「ううん……怖くて、大事にできなくて。」
「馬鹿かお前。そんなの放っておけばまたエスカレートするだけだ。」
俺は思わず苛立った口調で言ってしまったが、南雲は黙ったままだった。その表情はどこか怯えているように見えた。
「わかった。俺が一緒に先生に話してやる。それでいいだろ?」
「でも……」
「でもじゃねえよ。ひとりで抱え込むな。」
俺がそう言うと、南雲は目を潤ませながら小さく頷いた。その姿を見て、俺の胸は締め付けられるようだった。
▽
翌日、俺たちは放課後に教師へ相談することを決めた。南雲が受け取った手紙や靴の件について詳しく話すと、教師は真剣な表情で聞いてくれた。
「これは明らかに嫌がらせでしょうね。すぐに調べさせてもらいます。このことは内密に。」
教師の言葉に、南雲は少し安堵した表情を見せた。しかし、俺の中にはまだ不安が残っていた。教師が動いてくれるのはありがたいが、すぐに解決する保証はない。
その日の帰り道、南雲と一緒に校門を出ると、彼女はふと立ち止まった。
「米内くん、本当にありがとう。今日、一緒に来てくれて。」
「別に大したことじゃねえよ。お前が困ってるのを放っておけなかっただけだ。」
俺がそう言うと、南雲は少し笑った。その笑顔はどこか儚げで、俺の胸をざわつかせた。
「でも、米内くんがいてくれると安心するよ。」
その言葉に俺は返す言葉が見つからなかった。ただ、彼女を守りたい——そんな思いが少し、強くなるのを感じた。
▽
翌週、学校内で南雲光凛が嫌がらせを受けているという噂が広がり始めた。教師が動いたことで情報が漏れたのか、それとも誰かが意図的に広めたのかはわからない。ただ、その噂が広がることで、南雲への視線がより一層集まるようになった。
「光凛、大丈夫?」
友達らしき女子生徒たちが南雲に声をかけているのを見かけたが、その表情にはどこか距離感があった。表面上は心配しているように見えても、どこか冷たさが混じっているように感じた。
「南雲、大丈夫か?」
放課後、廊下でひとりの南雲に声をかけると、彼女は驚いたように振り返った。
「あ、米内くん。うん、大丈夫だよ。」
その声はどこか力がなく、普段の明るい彼女とは別人のようだった。
「無理するなよ。何かあったらすぐに言え。」
そう言うと、南雲は小さく頷いた。しかし、その目はどこか遠くを見ているようだった。
その夜、俺は考え込んでいた。南雲に対する嫌がらせ——それは単なる偶然ではなく、明確な意図を持った誰かによるものだ。そして、その誰かはまだ南雲の近くにいる。
「一体、誰がこんなことをするんだか……。」
俺はとんでもない事に巻き込まれてしまったと、少し頭を抱えた。
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