第2話
次の日の昼休み、俺は、教室の自分の席で弁当を広げていた。周囲は友達同士で話す声や笑い声で賑やかだが、俺はひとり静かに昼飯を楽しむつもりだった。別に友達がいないわけじゃない。ただ、集団でワイワイするのが性に合わないだけだ。
そんな俺の目の前に突然影が差した。顔を上げると、そこには南雲光凛が立っていた。教室のざわつきが一瞬止まり、すぐにまた違う種類のざわつきが広がる。
「米内くん、一緒にご飯食べてもいい?」
彼女の明るい声が教室中に響き渡る。これまた周囲の視線が集中しているのを感じながら、俺はため息をついた。
「なんで俺なんだよ。他に友達いるだろ。」
そう言うと、南雲は悪びれた様子もなくにっこり笑った。
「なんか、米内くんと話してると落ち着くんだよね。ダメかな?」
その言葉を聞いて、俺は軽く肩をすくめた。断る理由もないし、わざわざ拒否するのも面倒だ。仕方なく頷くと、彼女は嬉しそうに隣の席に座った。
「それで、今日はどんなお弁当?見せて見せて!」
興味津々で覗き込んでくる南雲に、俺は少し引きつった笑みを浮かべる。こうして話すと意外に無邪気な一面があるのが、少し意外だった。
「ただのコンビニ弁当だよ。別に珍しいもんじゃない。」
「ふーん。でも美味しそうだね。私のも見る?」
彼女は自分のお弁当を広げた。それはまるでインスタ映えするような色鮮やかさで、見ているだけで美味しそうだ。
「お前、こんなの自分で作ったのか?」
「ううん。家族が作ってくれたんだ。私、料理あんまり得意じゃないから。」
意外な答えだった。完璧そうに見える南雲光凛にも、苦手なことがあるらしい。
「そうか。それにしても、お前がここに来ると目立つんだよな。」
周囲の視線を感じつつ呟くと、彼女は気にする様子もなくケラケラと笑った。
「大丈夫だよ。気にしない気にしない。」
その無邪気な笑顔に、なんだか肩の力が抜ける。どうやら彼女には、人を巻き込む不思議な力があるらしい。
▽
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。教室の外に視線をやると、青い空に白い雲がゆっくり流れている。初夏の暖かさが心地よく、少し眠気を誘うような時間だ。
そんな午後の授業も終わり、放課後になった。俺はいつものように教室を出て下駄箱へ向かった。だが、ふと後ろを振り返ると、南雲がまたついてきていた。
「お前、何してんだよ。」
「ちょっといいかな。相談したいことがあるんだ。」
真剣な表情に少し驚きつつ、俺は足を止めた。南雲光凛が悩みを打ち明けるなんて、少し想像がつかない。
「何。」
「実は…昨日の靴の件、あれ、やっぱり誰かが意図的にやったみたいなんだ。」
その言葉に眉をひそめる。
「確かに変だと思ったけど…具体的に何か証拠でもあるのか?」
「ううん。でも、最近ちょっと嫌な噂を耳にすることが多くて。それが私に関係してるみたいなんだ。」
彼女の声にはどこか不安が滲んでいた。その様子を見て、俺は少しだけ胸の奥がざわついた。
「誰かが意図的にお前をターゲットにしてるってことか?」
「わからない。でも、もしそうだとしたら…正直、どうしていいかわからないんだ。」
南雲光凛がこんなに弱々しい表情を見せるなんて、少し意外だった。だが、同時に彼女の孤独さも感じた。誰もが憧れる完璧な存在であるがゆえに、彼女自身は他人に弱みを見せることができないのだろう。
「とりあえず、その噂の元を探る必要があるな。俺にできることがあれば手伝うけど。」
「本当?ありがとう、米内くん。」
彼女の瞳がほんの少し潤んでいるのを見て、俺は少しだけ居心地の悪さを感じた。でも、これ以上放っておくのも嫌だった。
「まあ、俺にできる範囲でな。それ以上は期待するなよ。」
そう言うと、彼女は少しだけ笑顔を取り戻した。
「うん、それで十分だよ。」
こうして、南雲光凛の悩みに関わることになった俺だったが、この選択が後々どんな影響を及ぼすのか、まだこの時は知る由もなかった。
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