第20話
デクを最初に見た時、どこか異様な雰囲気を感じた理由が、なんとなくわかった気がした。
喧嘩も暴力も、何もかも無縁そうな清純な顔つきなのに、目の奥が据わってた。
どんな修羅場を潜り抜けてきたヤツでも、ああはならない。
彼は今年で20歳を迎えるそうだ。
年齢的には、周りの男子達より大人びていると言えるだろう。
けど、そういうレベルじゃなかった。
坂もっちゃんがまな板に向き合っている時の目。
あれに近かった。
鍛えてきた熟練の技を体現しようとする時の、研ぎ澄まされた鋭利さ。
刃物のような鋭さが、瞳の中にあったんだ。
戦争とはいえ、人を殺したことがあるみたいだし、その関係かも…
「おっしゃ、食べた食べた!風呂入ろーっと」
「そうか、では、俺も入るとしよう」
「従業員特典なんだから、あんたはシャワーで十分でしょ」
「君がシャワーでいいのなら、俺もそうする」
「は?なんで私の話になるのよ。私は温泉に決まってんでしょ」
「では俺もそこに行くとしよう」
………
………………………は?
………あんた………何言って……………
「どうかしたか?」
「…まさか、付いてくるって言うんじゃないでしょうね?」
「もちろんそのつもりだが」
「はああ!!?ふざけんな!!」
「?何をそんなに怒っている。先程この旅館の構造を確認したが、セキュリティが緩すぎる。君が言う「風呂」と言うのは、大浴場のことだろう?それとも露天風呂か。いずれにせよ、外から侵入しようと思えばいくらでも侵入できる造りになっていた」
「いつの間にそんな…。っていうか、そういう問題じゃなくて!」
「先ほども言ったが、家の中こそ危険だ。攻撃の格好の的になる恐れがあるし、なにより自由に動けるスペースが限られる。日本の城になぜ“堀”が存在しているかわかるか?土を掘って高低差を設け、攻め寄せてくる敵を遮断するためにあるんだ。現代の科学技術を用いれば、城に籠城した敵を攻め入ることなど造作もない。ましてや、この「場所」など」
「あんた、モラルってもんは存在しないわけ!?」
「モラル?」
「こんなぴちぴち未成年の女子高生を前にして、“一緒に風呂に行く”って??頭のネジぶっ飛んでんの??!」
「…よくわからないが、一緒に風呂に行くことがそんなに問題なのか?」
「はあ!?あんたは男!私は女!女湯と男湯が存在してる理由はわかってる??」
「温泉は基本混浴ではないのか?」
「混浴もあるけど、私が言いたいのはそう言うことじゃなくて!」
「キミと俺が男と女の関係であることはわかっている。だがそれ以前に、俺はただの使用人だ。キミにとっては、恋愛対象の範疇にもないものだろう。従って、特段気にするような要素は見当たらないように思うのだが」
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