第11話



 結局、彼は後ろの席からどこうとはしなかった。


 一日中口論をした。


 その都度先生に注意されながら、肩身の狭い思いまでして。



 「…はあ、何アイツ」


 「そんな怒らなくてもいいのにー」


 「怒るでしょ、フツー」


 「でも、誘拐でしょ??やばくない?」


 「それはただのイタズラだって。ホームページだよ?絶対誰かが適当に書いただけだって」


 「まあねぇ。でもいいじゃん。護られるに越したことはないでしょ」


 「いやいやいや、冷静に考えてみてよ。見てよ、アイツ。ずっとこっちのこと見てるんだけど」


 「私だったら嬉しいけどなぁ。私もあんなイケメンに護られたいよ」




 …だめだ



 凛じゃ話にならない。


 彼、——堂島龍生は、本人曰く元海兵空陸機動部隊出身の“エリート“らしい。


 あらゆる戦闘術に長けているとされ、これまでにいくつもの戦場を潜り抜けてきたらしい。


 どう考えてもオーバースペックすぎる。


 ここに来たって、することは何もないっつーの。


 一体親父にいくらもらったんだろうか。


 まじで返金してくんないかな。


 それかお金だけ持って、アメリカに帰るとか。



 終礼のチャイムが鳴って、凛と私は教室を後にした。


 凛も私も、部活はとくにやっていない。


 だから放課後の後はだらだらと過ごして、暗くなる頃に学校を出る。


 よく、音楽室に遊びに行ってた。


 吹奏楽部に仲の良い子が何人かいて、練習を風景を眺めたりしてさ?



 宮崎県、青島。


 宮崎市の南東部にあるこの町は、人口約4000人と、かなり田舎な場所になっている。


 私が通っている高校、青島高校は、青島海水浴場のすぐ近くにある私立の学校で、海までは徒歩2分。


 国内初の高校内水族館、「青島水族館」がある学校で、県外からのお客さんもよく目にする。


 月に一度の水族館一般公開日には、年間1万人以上のお客さんが来て、青島高校は「商業施設」に変貌する。


 その水族館の運営を担っているのは、「水族館部」の生徒たちだ。


 生き物のお世話はもちろん、公開日の受付や生き物の解説、イベントのタイムスケジュール管理、駐車場係に至るまで全ての運営業務を自分たちで行っている。


 その他にも、吹奏楽部はミニコンサート、美術部は館内の装飾、家庭クラブ委員はキッズスペースの運営、生徒会役員によるカフェの出店など、たくさんの生徒が様々な形で社会に触れ、実践的に生きる力を身に付けている。


 1人1つの水槽を管理しながら海や生き物について学ぶ授業や、海洋生物の繁殖に挑戦する授業など、独自の環境を生かした授業も盛りだくさんで、私もよく水族館に遊びに行ったりしてた。

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