第9話
「アズサさん!?今授業中ですよ!」
秋月先生が何か言ってる。
大丈夫だよ、先生。
すぐ終わらせる。
こんなバカ一発だから。
下半身に力を込め、真正面から顔面を捉えようとした。
腕を後ろに引っ張り、ぐるっと肩甲骨を回す。
(コイツ、動かない…!?)
顔面を捉えようかという寸前まで、彼は微動だにしていなかった。
止まる気なんてなかった。
私は。
そのまま受け止めようってんならどうぞご勝手に。
数々の男子をマットに沈めてきたこの右拳を、とくと味わえッ!
バシィィィ
なっ…!?
男は右腕を掴んできた。
全力で振りかぶった右腕をだ。
それだけじゃなく、威力を殺すように後ろへと引き、流れていく体に沿ってステップを踏む。
前に倒れるかと思った。
勢いをつけすぎたあまり、バランスが崩れる。
私の視界では、彼が消えたように見えた。
人の殴り方も、パンチの繰り出し方も、普通の人よりは熟知してる。
パンチを当てられる距離くらいわかる。
「捉えた」と思った。
サンドバックのど真ん中に、パンチを繰り出した時のように。
「痛い痛い痛い!」
彼は右にスライドし、空振りさせた私の右腕をぐるっと背中に回す。
勢いよく回されたせいで、肩甲骨と筋肉の間に痛みが走った。
身動きが取れない。
抵抗しようにも、思うように力が入らない。
「ちょっと、離してッ!」
「これでも“自分の身を守れる”と言えるのか?」
「…くっそ、ふざけんな!」
「俺はふざけてなどいない。自分の身を守りたいなら、それ相応の実力が伴っていなければならない」
「何訳わかんないこと言ってんのよ!今すぐ離さないとただじゃおかないから!」
必死にもがいていると、手を離してくれた。
…この、よくもッ
「そんな目で見られても困る。俺が雇われたのには理由があるんだ。それに、すでに支払いは終わっている」
「なんの話よ!だったらそのお金返金して!」
「俺はただの雇われ人だ。文句があるなら、雇い主に言ってくれ」
「あのクソ親父のことでしょ?!アイツとは連絡を取ってないの。わかる?“絶縁状態”なの。もう赤の他人も同然なの!私の中ではね」
「それはキミの私見だろう?」
「ええ、そうよ。文句ある!?」
「文句はないが、今回の契約に関する条項には、護衛対象からの拒否権限は無いものとされている」
「…へえ、面白いじゃん。じゃ、何?私の意見は一切無視ってこと??」
「あくまでキミの護衛に関することに関しては。それ以外に関してはできる限り対応しよう」
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