第4話

 葬式でも、コンビニへ行くときでも、私は彼女からの手紙を内ポケットへ入れている。あれから二年が経った。未だに私は家庭教師をしている。それ以外に生きる術を知らない動物のように。

 私が偶然に知ることとなり、恋を抱きかけた少女はあまりにも残酷だった。何よりも、正体が悪魔ではないことが一番冷酷だった。いっそ悪魔であってくれたならば、私は彼女を裏切ることもできただろう。

 底冷えのする佐々木かえでという高校2年の新たなクライアントの一室で、私はまたしても過去を逡巡してしまう。全く性格もレイアウトも違っているのに、こうしてふとバグのように無いはずのものと表情とが重なってしまう。私はこの病気が頻繁になる前に、自分から教え子を変えるようにしていた。そろそろ佐々木家ともお別れだろうか。

 授業内容そのものは当然、中学生よりも高校生の方が難しい。だが、相手の人生の中での位置づけはきっと高校生の方が多くの大人を知っており、私などさほど重要なピースには捉えていないだろうと思い、、担当学年を変更している。

 佐々木はスタイルもよく、八重歯のみえる笑顔が印象的な女子。

 それでも彼氏がいないのは、レズビアンだからではなく、ややプライドの高いところがキズなのだろうと思う。母親はのほほんとした方だが、父親はどうなのだろう。まだ出会ったことが無いので、どちらの性質を受け継いだのかは断言できない。

 隔世遺伝なのかあるいは自然発生したのか、とにかく彼女が偉いのは、その高いプライドに見合うように、内面たる知性も磨こうと努力している部分だ。私は別にバカな子でも気にしない。むしろ重視するのはその姿勢のほう。彼女の面倒を見なくなるのもそれはそれで、少し寂寥感がある。なんとか過去と現在との間でボケている視覚を矯正させ、彼女の文章に目を通す。その繰り返し。

 そうすると、特に気まずい思いも起きずに、すぐ所定の時間になる。あるいは仕事というものはどの業種でもそうなのかもしれないなと思い、見慣れた他人の玄関を出た。

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