第2話 探索配信中にムカつく出来事があったので、ボス部屋に殴り込みに行きました

 【ダンジョン配信】。

迷宮厄災と言われた2012年。

迷宮戦争と呼ばれる第三次世界大戦が落ち着た頃に、ダンジョン探索の危険性を軽減する迷宮義体――通称:アバターが作られてから安全性が向上。

それと探索者――通称:ボーダーの探索記録を映像として撮影する高性能な小型ドローンなどの発明により、生まれた新しいエンタメである。

 新しいと行っても旧時代のゲーム実況や旅動画を合わせたようなもの。

しかし、戦争で荒廃したエンタメ文化が再び咲き誇るには十分な力を持っていた。



☆@☆@☆



 どうも皆さん。

初めまして。

私、【岩波渚いわなみなぎさ】といいます。

今、私は難攻不落と言われる新宿のダンジョンの『深淵』と呼ばれる階層で絶賛修行配信しております。

その名も『新宿の深淵でソロレベリングしてみた』。

視聴者は基本的10人。

はい弱小です。

零細です。

 そんな私でも持つべきものはあります。

それは回復と支援と補給を司るとされている光属性であること。

そして何よりも、迷宮義体アバター波動エーテルの塊であることを利用した自己流の体術。

「ていっ!」

〈ガガガ……〉

 私が人型昆虫のモンスターに拳で一撃を与えると、モンスターはあっさり撃沈した。

「ふむ……」

〔カードを取り出して、倒れたモンスターに投げる〕

 ストレージカード――通称:ストカ。

観測した限りでは無尽蔵に存在する迷宮資源を効率よく回収するために開発されたカード型の収納箱。

1枚につきモンスター1種を99体ほど。

でもそれは雑魚で、その階層の上級モンスターや中ボス、ラスボスはその限りでは無い。

「今日『は』とりあえずこのくらいでいいかな〜」

 素材を吸収したストカが私の手元に帰ってきて、カードゲームアニメ出てくるようなケースに入れた。

>乙〜

>おつかれ〜

 このまま配信を閉じようとした矢先。

私を急いで素通りしていく同年代ぐらいの男女のパーティと思われる編成。

「なんで楓を置いてきたの?」

「だってそうした方が生存率が上がるってコメントが……」

「バカ……」

 なんか不穏な会話が聞こえてきたけど……。

しかもリーダーっぽい男の子が女の子2人を引き連れてる……。

(これがハーレムか……)

 などと呑気にスルーしてると視聴者さんからある情報が流れてきた。

>さっきのパーティ、なんか仲間を置いてきたっぽいよ つURL

「えっ……?」

 それは味方ごと巻き込んで敵を疲弊させて、無事なパーティの人達が撤退してる映像。

配信なので『記録』として残ったそれは私のなにかを覚醒させた……。気がする。

「ねえ、みんな。ここって『深淵』の

どこ・・』?」

 自分でも信じられないくらい低い声が洞窟の中をこだました。

その声に、波動に、周りのモンスター達が怯えていたのをこの時の私は知らなかった。

>【不死鳥の片翼】* 手持ちのマップから照合した

>【不死鳥の片翼】* この先のモンスタートラップルームの下が丁度その配信に出てるボス部屋っぽい

さすがトップランカーさすト

>さすト

「ありがとう。行ってくる」

>行ってら〜

>ガンバ〜

>お気を付けて

「うん」


 そしてモンスタートラップルームを攻略した私は地面に手を置いて波動索敵エーテルソナーでダンジョン内の構造を頭に読み込んだ。

「そこか!」

 私は勢いよく地面に振り上げた拳で地面に穴を開けた。

瓦礫とともに下の階層へと降下していく。

(これが一番早い)

 ゴリ押し感が強いが、これが私のダンジョン攻略術。

視聴者からは >常識外れ >私には無理 >【不死鳥の片翼】* 無理言うな と言われる始末。

そこまでおかしいかなこれ?。

(そろそろ着く)

 私は土煙を巻き上げながら下層の地面に降着した。

それから周囲を索敵した私は丁度ボスと思わしきモンスターと件の探索者と思わしき少女の間に入ったようだ。

「大丈夫?」

「えっ!?。あっ、はい」

「そう。なら良かった」

 そういう私に向かって、ボスの鉤爪が勢いよく切りつけてきた。

「危ない!!」

ガンッ!。

「へ?」

〈ギギギ……〉

 しかし、悲しかな……。

ボスの一撃は私の腕を切るほどの力はなかったようだ。

「ふぅ……。なんだびっくりした〜。ボスっていうからえらく強いかと思ってたのに……」

 つい、いつもの癖でそう言ってしまった。

あの探索者の子、怯えてないかどうか心配だなー。

(まあ、それよりも)

 私のボスの鉤爪を掴んでそのまま部屋の壁へと叩きつけた。

すると怪獣のような昆虫型のボスモンスターは痙攣しながら壁にめり込んでしまった。

(うぅ……、ついやりすぎてしまった)

 まあ、ボスを投げ飛ばした影響で視界が晴れたらからよしとしますか。

「あなたは?」

 私が声の方向に振り向くと、そこには栗色のブロンドにハーフアップのロングヘアと琥珀のような綺麗な瞳。

白いワンピースのような綺麗なドレスのような賢者の衣装。

一目惚れだった。

これがこの先も一緒に迷宮攻略配信していくパートナーの【一柳楓ひとつやなぎかえで】との出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る