第3話 シリアスな遺言配信がギャグ時空な配信になりました(楓)
危機一髪だった
「あなたは?」
突然降り注いだ情報の濁流の処理が追いつかずにとりあえず目の前の少女の名前を聞いてしまった。
「えっ!?。あ……、あぁ〜。名前、名前ね」
少し考え事してから、私に向き直った少女。
動作の一つ一つが整えられて、なんだかとっても……、って何考えてるの私。
「私はなぎさ。」
「今は『ただ』のなぎさとしか答えないよ」
「うん、わかった。それで『なぎさ』って1文字の『
「そう、1文字の」
初対面の
「動ける?」
「うん、大丈夫だよ。渚ちゃん」
「渚ちゃん?」
「えっ、駄目だった?。だったらごめんなさい」
「いや、別に大丈夫。『ちゃん』付けで呼ばれたのは久しぶりだったから」
「ありがとう。私は
「そう、よろしくね。楓」
「こっちこそ、よろしく渚ちゃん」
私はボロボロの身体で杖を構えた。
対して渚は武器を持たない。
いわゆる
こんな『深淵』に来るのだから、良い武器の一つや二つはありそうなのに……って余計な詮索はダメだった。
「来るよ」
〈ギギギギ……〉
渚ちゃんの呼びかけと同時に壁から起き上がる昆虫型の巨大なボスモンスター。
第一形態、第二形態よりもさらに外骨格が崩れ、そこから6本の細長い脚が生えてきた。
「まさか……、第三形態……」
>えっ!?
>公式記録にあるのは第二形態までじゃなかった!?
>勝てるんかこれ……
>何とか生き延びて……
このボスモンスターの公式記録で確認されてるのは第二形態まで、それ以上に情報が少ないため正式な名前もない。
だから仮に全滅してもこの配信が記録として残って、他の探索者の攻略に役に立つ。
まあ、私は渚ちゃんと生きて帰るつもりだけどね。
〈ギギガ……〉
ドガァっ!。
「ふん!」
「えっ?……」
外骨格の中から突き破ってきた新しい鉤爪を渚ちゃんは初登場の時よろしくあっさり受け止めた。
>えっ!?
>なんなの……この子……
>ひぇー……
>いくらアバターだからってそんな無茶な……
そう、無茶である。
無茶であるのだが……。
(なんか
いくらエーテルの塊のアバターだからってどういう強化してるの……?。
「ふんっ!」
〈ギガガガ……〉
「えぇ....(困惑)」
バキッ!。
>折れた……
>折れたね……
>ここってギャグ時空だっけ……
それは私も思った。
あんだけ苦戦してたのに……、こうもあっさり。
「あれ?。もう終わり?」
「おそらく……、……終わりです」
「はえぇ……」
>なんで当の本人が落ち込んでの……
>これ形態変化途中だったじゃね
>あぁ……
>早すぎたんだ……
もはやコメントに配信序盤の悲壮感はなく、もはや名無しのボスモンスターの考察になってきた。
「ここの2層下のボスモンスターはもうちょっと歯ごたえあったのに……」
「え?」
「えっ?」
>ん??
>今なんて言った!?
>2層下……
>ボスモンスターのインフレおかしい
>全盛期のスマホゲームみたいなインフレ率……
これが『深淵』かぁ……。
もう現実逃避した方が良さそう。
そう思ってしまうほどに、私の常識は目の前のボスモンスターのようにあっさり壊された。
「今、私のリスナーさんの【不死鳥の片翼】さんから出口までの最短ルートのマップ貰ったからこのまま出よう。」
「うん……。んっ!?。【不死鳥の片翼】ってあの【不死鳥の片翼】!?」
「うん、そうだけど。楓はなにか知ってるの?」
「いや……、あの……」
そもそも私は忘れてた。
というから、そっちでも
>【速報】 楓ちゃんを助けた少女のリスナー トップランカーのギルマス【不死鳥の片翼】だった
>えっ?うそ マジで
>こんなところにいる時点でなぁ……うん
>残当
>やっぱり深淵に潜るやつは大概人間辞めてる件
まあ私も渚ちゃんが助けてくれなかったら死んでた可能性が高いから……うん。
まあそれはそれとして、今は生きてることに感謝しよう。
「楓。帰ろっか」
「うん。お願い」
私は渚ちゃんに手を引かれて、不完全な第三形態のボスモンスターを置き去りにして深淵から脱出した。
おそらくこの時の経験のせいだろうか……。
私の中でなにか吹っ切れた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます