眠気と『藤』の香り
「黒が?」
「はい」
「さて話は終わりですので、どうぞ翡翠の地へ」
そう言いながらグイグイと強引に妾を
翡翠の地へと繋がる歪みの奥に押し込む。
気づけば妾は翡翠の地へ居た。
周りを見渡しても緑、緑、緑。
時たま動物たちの色が見えるだけ。
だが、
前来た時より動物の数が少ない気がする。
なぜだろうか。
千秋side
移動して数分経っただろうか。
そんな具合の時に俺は降ろされた。
場所はデカイ狼や虎、豹やライオンがいる
肉食獣の猛獣エリアだった。
しかもラトと同じように
草や花が身体に生えていた。
俺は思わず
「ひぇ...」
と声を漏らす。
と、その声に反応するように猛獣たちが一斉にこちらを向く。
そして俺を狙うような獣特有の目を見せた。
が、一向に襲っては来なかった。
安堵の息を吐きながらラトを見ると
「我が居る間は襲われないニャ」
と言った。
その時、
足に何かが擦り寄ってくるような感覚がした。
足元を見ると居たのは先程の猛獣の子供たち。
「撫でた瞬間に襲われるとかないよな...?」
そんな呟きを残しながら子供たちの身体に触れる。
子供たちは普通サイズ。
だけど親たちは象並みのデカさ。
こんなんに襲われたら即死だな...
そんなことを思いながら親たちを見ても、
甘えた猫のように目を細めるばかりだった。
子供たちの毛はラトの毛と違って
フワフワよりかは程遠い。
だがこれも猛獣の子供だからなのかもしれない。
「幸せ...」
現実を忘れ、
更にラトのことも忘れて子供たちの毛に
顔を埋める。
が、
「次は森の奴らでも見に行くかニャ?」
という問いかけによって現実へと引き戻される。
「森の奴ら?」
「鳥とか兎とかだニャ」
「行く」
「じゃあ早速向かうニャ」
そう言ってラトは先程と違う方法で俺を運んだ。
そう。
ラトの背中に俺を乗せるという移動方法。
「最高...」
風も感じれるし、
さっきと違って足がぶらんぶらんして無いから恐怖心も消えた。
「さっきはすまニャかったニャ」
「何が?」
向かってる道中でそんなことを言われ、
思わず疑問の声を上げる。
「咥えて運んだ件ニャ」
「あぁ...大丈夫だけど......」
「そういえば我に " 敬語 " 使わなくなったんだニャ?」
「ぁ...」
もしかしてタメ口ダメだったとか?
そんなことを考えていると
「我は嬉しいニャ!!」
と言われてしまう。
「へ...?」
待って。
変な声出た。
ていうか嬉しい?
「今まで会った人間は我を神の存在だって表す奴らばかりでニャ...」
「敬語を使わないってこんなに気が楽なんだニャ...知らなかったニャ」
と嬉しそうな顔をしながらペラペラと話していく。
数分が経ち、
俺は睡魔に襲われながらも現実を保つので
忙しかった頃、
「着いたニャ」
と言われた。
ラトの背中がフワフワなせいで眠くなる。
が、移動中に寝たら落っこちてしまいそうで
怖かったから頑張って起きていた。
「千秋?眠いのかニャ?」
「じゃあ一休みでもしようニャ」
そう言って樹洞へと案内する。
虫とか居そうで嫌だなと思いつつも、
後ろはラトに占領されてて出れそうにない。
入るか...
そう思いながら樹洞の中へと進む。
中は案外綺麗で、
なんなら普通の家の中みたいな景色があった。
「どうなってんだ?」
と声を零せば
「我の力はすごいと思うよニャ?」
と聞いてくる。
「凄いよ」
と言えば、
「そ、そうかニャ...」
と自分で言ったくせに照れる。
「我に寄りかかって寝ていいニャ」
そう言われたのでお言葉に甘えて寄りかかって寝ることにした。
最高級の枕。
というより最高級の寝床。
そうして俺は気づいたら眠りに落ちていた。
夢の中。
きっとこれは夢の中。
ふわふわ身体が浮いているような感覚がする。
ふと頭の中に誰かの声が響いた。
【我の元に来い】
【我の封印を解け、愛し子の1人よ】
【そして全てを戻せ】
【汝の力は偉大だ】
と。
しかもいい匂いがした。
まるで藤の花のような匂いで...
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