行方と未来視
「それと、赤の地へは帰れないわよ」
「ここからじゃ」
帰れない?
ここからはってことは
違う場所に移動しなければいけないのか?
こんなことになるんだったら
入らなければ良かったな。
「でも翡翠の地に行けば帰れるわ」
「翡翠の地?」
「これよ」
そう言いながら凪さんは目の前に
歪みを露にした。
「じゃあ...」
そう言いながら俺が歪みを通ろうとした
その時、
バッと俺を通せんぼするように桜の木の枝が
伸びてきた。
「は?」
少しイラついてそんな声を漏らしながら
凪さんを見るも、
ふふふっと笑っているだけだった。
「まだ行かせないわ」
「もう少し、私たちと話をしましょ?」
少しずつ俺に近づいてくる凪さん。
何かしてくるんじゃないかと思い、
思わず後退りする。
「警戒しなくてもいいのに」
そんなことを言うけれど、
笑顔が酷く美しすぎて、
逆に恐ろしく見えてしまうんです。
「別に警戒してるわけじゃないです...」
目を少し逸らしながらそう言う。
「それで話ってなんですか?」
「そうね...」
考えるようにしながらも、
チラリと俺を見てくる。
妖に会ったような気分で少し不愉快だ。
「昔話でもしようかしら」
「でも話しすぎると怒られちゃうのよね...」
怒られる?
誰に?
というか
「昔話...」
「ってなんですか?」
「ここは守りの神龍が各地に居るの」
「数は────」
そう凪さんが口を開けた瞬間、
歪みの中から矢のようなものが飛んできた。
「...この話は翡翠の地で聞くといいわ」
「私は四季の中で1番地位が低いもの」
そう言って凪さんは姿を消した。
桜の木を見たが、
先程と違う雰囲気を纏っていた。
まるで " ただの " 桜の木に戻ってしまったような。
「そこの者や、こちらに来てくれると嬉しいニャ」
そんな声が歪みの奥から聞こえた。
俺は意を決して歪みの奥に足を進めた。
途端、俺の目の前は緑の若葉によって
埋め尽くされた。
桜嵐が吹雪くように。
歪みの奥は先程の地と違って、
緑色が多い場所だった。
木には果実や実が。
空はギラギラと太陽が照っている。
しかも至る所に動物が居た。
だけど普通の動物の容姿とは異なり、
植物や花などが見に生えているような姿だった。
「よう来たニャよう来たニャ」
デカイ白猫がそう言いながらのそのそとこっちへ向かってきた。
「俺になんの用ですか?」
「人間は久しいからニャ...」
「ちと話でもしようかと思うてニャ」
前足でヒゲを触りながらそんなことを言う。
ていうかやっぱり猫だから
語尾に『ニャ』なんて付いてしまうんだろうか。
「はぁ...」
俺が気だるそうに返事したと同時に
「おっと、我の名を申し忘れていたニャ」
「我の名前はラトであるニャ」
「ご主人が付けてくれた名ニャ!」
ご主人?
人間か?
そんなことを思っていると
遠くから集まってきたモフモフの動物たちが
俺の足に絡みついてくる。
「此奴らも久しぶりの人間が嬉しいのニャ」
「赤の地と青の地の仲が悪くなった原因、知りたくないかニャ?」
鋭い獣のような目を向けながらそんなことを聞いてくる。
さっき凪さんが言えなかったことを
ラトは言えるということだろうか。
それなら聞いてみたい。
赤の地と青の地に何があったのか。
「千秋は聞きたいようじゃニャ」
答えていないのにそう予想的中される。
しかも名前までバレていた。
俺が疑いの目を向けながら不思議そうにしていると
「そんな目を向けるでニャいニャ」
「千秋は表情に出やすいんニャ」
と小馬鹿にしながらそう言う。
そんなに俺、表情に出てるかなぁ...
「今すぐにも話したいところだが、ちと此奴らと遊んでくれニャいかニャ?」
「もちろん我も一緒にニャ」
そう言いながら俺の服を後ろから咥えるようにして持ち上げ、どこかへと向かう。
後ろからは続々とたくさんの動物たちが着いてきている。
まるで何かの行進のようだ。
柧夜side
やけに帰りが遅い。
もしかして何かに巻き込まれてるとかか?
心配で冷静さの欠片も無くなってしまう。
「探しに行くとするかの...」
そう声を零しながら歪みを通った。
すると目の前に現れたのは桃の地。
「あら?赤の地の女帝こと柧夜さんじゃないですか」
「こんなところに来てどうしました?」
此奴は嫌いじゃ。
妖みたいな雰囲気がして不愉快だ。
しかもどことなく人間のようにも見えて
気持ち悪い。
不快じゃ。
「妾の千秋を知らんかの?」
今にも舌打ちが飛び出そうな口元を
扇子で隠しながら問いかける。
「千秋?あぁ、あの子ね...」
「さっき翡翠の地へ送ったとこよ」
翡翠の地。
妾の大嫌いな場所。
彼奴は生意気なんじゃ。
「分かった」
そう言って歪みを通ろうとする。
が、
桜の木の枝が飛んできて妾が通るのを阻止した。
「邪魔じゃ」
そう言いながら紅葉の吹雪で枝を切るも、
再生してくる。
「少しお話しません?」
にこりと微笑みながら凪はそう言う。
「妾は急いでるんじゃ」
「早く通せ」
ギロリと睨むも、効果は無し。
凪はふふっと笑っているのみだった。
「いい話と悪い話、どちらからしましょうか?」
「...いい話」
「あなたの大好きな " 先生 " が蘇る未来が視えます」
此奴の言うことは五分五分。
嘘もあるし真もある。
妾は紅葉を操る能力。
だが此奴の能力は、未来を視る能力。
「嘘だったら許さんぞ?」
「そして悪い話は黒が蘇りつつあります」
にこりとした顔から真剣な顔に変わる。
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