真実は異空間へ

ていうか柧夜はどこに行ったんだ?


待っていても帰ってくる気配が全く無い。


その時、ひらひらと空から何かが


舞い落ちてくるのが見えた。


見上げると、その正体は紅葉だった。


紅葉が雨のように雪のように桜のように、


俺に向かって降り注いでいた。


だけど何だか形が変な気がする。


なんか横長っていうか...


そう思いながら降り注ぐもみじを凝視すると、


あることに気がついた。


それは降り注ぐ紅葉が紅葉ではなく、


" 金魚 " だということ。


といっても、ミニサイズの金魚。


俺がここに来るきっかけとなった金魚に似た魚。


そいつが俺に降り注ぐように空を泳いでいた。


「不思議だなぁ...」


そんなことを呟きながら


ミニサイズの金魚を見ていると、


柧夜の屋敷の奥側に何かが見えたような気がした。


俺は気になり、そこに向かうとあったのは


" 歪み " のような何か。


ワープゲートのようにも見えて、


中に入りたいという好奇心に駆られる。


俺は居てもたってもいられなくなり、


ついにその歪みの向こうへ渡ってしまった。








柧夜side




いつ気づかれたのだろうか。


もしかして思い出した?


いや、あの時確かに消したはず。


じゃあなぜ今になって...


そんなことを考えながら屋敷を出る。


と、先程まで屋敷の前にいた千秋の姿が無かった。


あったのは屋敷の奥の歪みの中に入る


千秋の後ろ姿のみ。


「千秋!!」


そう叫んだのにも関わらず、


千秋の耳には届いていないようだった。


あの歪みはどこに繋がっているのか分からない。


だけど、分かるのは『春』『夏』のどちらかの季の地に行ったということ。


もし奪われてしまったら...


そう考えると心配でたまらない。


あいつらが奪わないってことは分かるけど、


またあの時のようになってしまったら...


「もう失いたくない...」


そんなことを零す。








千秋side




目を開けると春のような場所に来ていた。


周りは草木が生い茂っていて、


花や蝶たちが舞っている。


赤の地とは少し違う綺麗な場所。


ふと、目の前に大きな桜の木が現れた。


もしかしてこいつが柧夜みたいな女帝とかか...?


そう思いながら桜の木をじっと見ていると、


俺の足元に1輪の花が咲いた。


全く見たことの無い花。


「え?」


思わず、そんな声を漏らす。


と、放り投げるように桜の木の枝から


1つの本が落ちてきた。


中を見るに、


花の種類と名前・花言葉が書かれている本だった。


もしかして、こいつ花言葉で会話するとか?


だとしたらだいぶ面倒臭い。


試しに今足元にある花の名前を調べると、


" ハツユキソウ " という花の写真と一致した。


「白く色づく涼し気な葉を持つ花...」


声に出しながら文を読む。


そして花言葉は " 興味 "


多分、俺が何者か気になっているようだ。


「あー...初めまして」


「俺は千秋って言って...」


「赤の地の歪みを通ったらここへ来て...」


「あの、帰り方って...」


そう会話するように声を出したのにも関わらず、


返事は返ってこなかった。


それどころか花言葉での返事も無い。


気まずい空気が漂う中、


口を開いたのは俺でも桜の木でも無い。


桜の木の後ろに隠れるように立っていた女性だった。


「あなたの名前は...?」


「え?だから千秋って...」


「そう...」


「私の名前は凪...」


そう言いながらにこりと微笑んだ。


儚いような雰囲気が漂う中、


妖のようなよく分からない気配も共に


漂っている気がした。

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