思い出す、閉ざされていた記憶
前へ前へと進んでいた列。
俺と友達が共に着いて行った列。
が、急に止まった。
「なんだ?なんかあったのか?」
そんな友達の声を置いて、
俺は嫌な予想が浮かぶ。
こんな森の中で何も無いわけが無い。
事故か野生動物か。
その二択だった。
徐々に前の様子が見えてくる。
その答えは嫌なことに後者であった。
そこに居たのは子熊。
だけど、きっと近くに親熊が隠れているはず。
「ちっせー」
「なんでこんな奴でみんな怖がってんだよ」
そんな友達の声。
キョロキョロと辺りを見回す。
今のところ、親熊の姿は無い。
それか、隠れていて見つけられていない
だけかもしれない。
「千秋?」
「千秋も怖いのか?」
そう言われ思わず
「違う!!」
と大声を上げてしまう。
その時、どこからか真っ黒な何かが友達に
猛スピードでぶつかった。
すぐにその正体は分かった。
親熊だということに。
遠くからは先生たちや他の子達の声が聞こえる。
だが俺は目の前の熊に怯えることしか出来なかった。
「千秋..!助け...っ..」
手を伸ばしながらこちらに助けを求めている
さっきの友達。
逃げてはいけない。
ここで逃げてもきっと追いつかれるに決まっている。
そう思っているのにも関わらず、
俺の足はみんながいる場所の逆方向へと
向かっていた。
後ろからは俺を追いかけている熊の気配がした。
きっと子供の足には余裕で勝てる熊。
その時、
「千秋!!」
という声と共に誰かの姿が見えた。
その誰かの正体は、姉だった。
𓂃◌𓈒𓐍𓈒
あの後、どうなったんだっけ?
というか俺に姉って居たんだっけ?
「千秋、怪我は無いか?」
顔を上げると紅葉のような何かで七匹の金魚を捕らえている柧夜の姿があった。
確かにさっきの記憶の姉の姿と柧夜の姿は
どことなく似ている気がした。
雰囲気も声も。
「返事をせんかい」
そう言いながら俺の頭を閉じた扇子でペしっと叩いた。
「...姉ちゃん、」
蚊の鳴くような声で、呟くようにそう言うと、
「...」
と何か言いたげに口を開いた後、
「誰と間違えてるんじゃ?」
「それより怪我は?」
「無い」
「ならいい」
そう言うと柧夜は足早にどこかへ行ってしまった。
あ、思い出した。
さっきの記憶の続き。
姉の姿を見た後、
熊は姉の紅葉に捕まったんだっけ?
魔法使いのようで、
ヒーローみたいだって思ったんだっけ?
でもなんで、忘れてたんだろう...
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